国立大学再編

少し前の話になるが、創立100年以上の歴史と伝統を有する2つの国立大学、東京工業大学と東京医科歯科大学が研究力強化のため、統合に向けた協議を始めるとの発表があった。

2004年の国立大学の独立法人化を契機として、多くの大学統合が行われてきたが、研究力が国内最高水準に指定されている「指定国立大学*」同士としては初めてのこと。今後、合同の会議を設けて議論を重ね、運営法人の傘下に2つの大学を置くか、1大学とするかなど、具体的な方針を決めるとされている。異分野融合により幅広い先端研究を展開し、社会の課題解決に貢献する大学が誕生することを期待したい。

さらに私見を加えさせていただければ、イノベーションを次々と引き起こすには「文理融合の思考力」が必須の時代が訪れている。理科系の両大学に、社会科学分野で強みを持つ一橋大学が加われば、さらに強力かつ存在感のある大学になるのではないかとも思う。

今回の動きは、昨年創設した「大学ファンド」の影響だろう。10兆円規模のこのファンドの支援を受け、革新的研究開発に取り組むためには、大学間競争に打ち勝ち「国際卓越研究大学」の資格獲得が有力な手段となる。両大学はこの認定を受けるために統合への道を選択したと考えられる。

大学ファンドの議論の中で、大学再編が起こることは想定していたが、今回の統合はインパクトも大きく、心から歓迎したい。これを契機に、今後、次々と統合連携が進み、各大学の研究開発力が充実強化していくことを期待している。

我が国の人口は、今後、数十年にわたり減少を続ける。よほど留学生が増大しない限り、リカレント学習需要が急拡大しない限り、学生数の減少に応じた大学の再編は避けられない。国・公・私の垣根を越えた再編・統合も望まれるが、それぞれの法人の成り立ちからして極めてハードルは高い。国による助成制度が大きく違うことも障害となっている。容易ではないだろうが、一つひとつ課題を解決し、統合促進策を生み出していきたい。

26日の党・科学技術イノベーション戦略調査会では、前述の大学ファンドの「公募に向けての基本方針」の策定について、出席議員から多くの意見が出された。過去の実績よりも未来のビジョンや可能性を重要視するとの主旨が大半で、政府案の承認は見送り再検討となった。大学ファンドは当調査会からの発案であり、これからもしっかり議論してより良いものに仕上げていきたい。

猛暑に見舞われた今年の夏も、ここへ来て少しは凌ぎやすくなってきた。政府与党内では来年度予算の概算要求のとりまとめ作業が大詰めを迎えている。昨年10月に誕生した岸田内閣としては、自ら手がける初めての概算要求となる。しっかりと岸田カラーを打ち出すべくメリハリの効いたものとしなければならない。

私が会長の任にある科学技術・イノベーション戦略調査会でも、新しい資本主義の中心テーマである「人への投資」を充実すべく諸課題に取り組んでいる。今年は特に「国際頭脳循環」をテーマに、国際共同研究や国際的な人事交流に力を注ぎたいと考えている。概算要求でもその方向性をしっかりと打ち出したい。

※指定国立大学法人:平成29年4月、国立大学法の改正により、我が国の大学における教育研究水準の著しい向上とイノベーション創出を図るため、文部科学大臣が世界最高水準の教育研究活動の展開が相当程度見込まれる国立大学法人を「指定国立大学法人」として指定することが出来る制度を創設。

今年の終戦記念日

7月上旬から急速に拡大した新型コロナウイルス、ここ数日の感染者数の推移をみると、ようやくピークは越えたようだ。しかし、猛暑による熱中症の頻発も相まって、救急医療の現場はひっ迫状況が続いている。引き続き、うがい、手洗い、マスク着用といった感染対策とワクチンの追加接種をお願いしたい。

今回の第7波感染拡大に際しての「行動制限は行わない」とする政府の方針には賛否がある。私は、ウィルスの特性の変化に応じた適切な対処であったと考える。いずれにしても、これまで2年半のコロナとの戦いについては、しっかりと検証し、今後の新型感染症対策に生かさなくてはならない。

さて、3年ぶりの行動制限がない夏と言うことで、各地で久々に大規模イベントが開催されるケースも多い。

800年近くの歴史がある伝統の「博多祇園山笠」。祭りを締めくくる勇壮な“追い山笠”が3年ぶりに執り行われた。男達が担ぐ“舁き山笠(かきやま)”が威勢のいい掛け声とともに博多の街を駆け抜けた。古都の夏を彩る京都の祇園祭りも”山鉾巡行“が復活し、東北三大祭りの一つに数えられる「青森ねぶた祭り」でも、ラッセラの声が響きわたった。

地元の播州でも恒例の夏祭り、盆踊りが、かなり戻ってきた。会場入り口に消毒液を設置するとか、あらかじめ町内会組織を通じて参加者登録するとか工夫がなされており、主催者が感染対策に配慮されているのが嬉しかった。

9月初旬から東播エリアでは、地域の最大のイベント「秋祭り」の準備が始まる。ここ2年間は神事のみの実施で寂しい限りであったが、今年こそは何としても屋台を繰り出したいと、多くの地域住民は願っている。

夏の甲子園にも観客が戻ってきた。選手の感染によるトラブルにも臨機応変に対応され、大観衆の中で高校球児の熱戦が繰り広げられている。阪神タイガースのゲームも満席のファンのなかで開催されている。我らがタイガース、開幕9連敗という史上最悪のスタートから立ち直り、オールスター前に借金完済、貯金4で2位まで躍進していたのだが…。ラストスパートの奮起で、甲子園をさらに盛り上げてもらいたい。

10日には第二次岸田改造内閣が発足した。全体的に「斬新さ」よりも「手堅さ」が表に出た布陣となった。特にコロナ対応という面では、新型コロナ対策・健康管理担当として山際大志郎大臣が留任、加藤勝信氏が3度目の厚生労働大臣に就任し、超堅実な体制である。彼らの活躍にしたい。

15日の終戦記念日には日本武道館で「全国戦没者追悼式」が行われる。昨年は緊急事態宣言下の人数制限により出席が叶わなかったが、今年は必ず出席する。

世界平和が大きく揺らいでいる中での終戦記念日である。平和が望むだけで得られるものではないということを心に刻み、改めて日本が国際社会で何をなすべきかについてじっくりと考えなければならない。それがこの国の「未来への責任」を果たすことだ。

 

追伸:このところ猛暑が続いています。水分補給など十分な熱中症対策をしてお過ごしください。

近況報告

6月下旬から7度目のコロナの波が日本を襲ってきた。今回はオミクロン型の派生型「BA.5」だ。7月10日の参院選投票日には全国で54,047人が感染。その後、選挙が終わるのを待っていたかのように、拡大傾向は急上昇。7月23日には感染者数が20万人を突破、その後も日々過去最多を更新している。

 

国会議員の間でも毎日のように新規感染者が報告されており、7月29日現在で衆参合わせて117人の感染者が報告されている。すでに約6人に1人が感染していることになるが、罹患率が非常に高いと言える。かく言う私も1月に感染している。

閣僚もすでに5人が感染し、23日には松野官房長官の感染が報道された。長官は熱も下がり自宅で療養しているが、執務中はマスクを着用していたため、幸い岸田総理大臣を含め、官邸内に濃厚接触者はいない。

議員は国民に感染対策を呼びかける立場であり、自らの感染対策にはかなり気をつかっているはずなのだがこのような結果になっていしまっている。職業柄不特定多数の人と接触する機会が多いからかもしれない。

 

プロ野球界では、ヤクルト、中日に続き、ジャイアンツでも23日、チーム内での感染者数が76人になったと発表。その結果、オールスター前後の中日3連戦とヤクルト2試合が中止・延期となった。大相撲でも新型コロナウィルスの感染拡大に歯止めがかからず、13日目まで7日連続で力士や親方などが途中休場している。休場した十両以上の関取は合わせて19人、けがでの休場を含めると21人となり、戦後最多となっている。

このように史上最大の感染規模が、様々な事象を引き起こしているが、専門家のシミュレーションによると8月の6~10日あたりにはピークを迎えるとのことだ。

 

コロナウィルスは変異を重ねるにつれて、感染力が高まる一方、重症化率の方は逆に低下してきている。このため岸田総理は22日、医療体制の強化は進めるが「行動制限は行わない」と宣言、社会経済活動への影響を極力避けるという選択をしている。感染抑止か経済優先かと言う世論調査ではやや経済優先が多いようだが、私もこの選択の方が正しいと思う。

ただ、「行動制限をする必要がない」といのは、「感染対策を全くしなくていい」ということではない。国民の皆様には、必要に応じてマスクを着用するなど基本的な感染対策、ワクチンの追加接種をお願いしたい。

 

27日には、コロナ対策も含めた来年度予算に向けての基本方針も提示され、8月末の概算要求に向けての作業が本格的に始まった。スタートアップ支援、DX(デジタル・トランスフォーメーション)やGX(グリーン・トランスフォーメーション)の推進、人への投資など、岸田内閣の新しい資本主義における成長戦略の重点方針も提示された。私のライフワークである科学技術・イノベーションの出番である。日本の未来を切り拓く政策提言を取りまとめたいと決意を新たにしている。

 

8月3日には臨時国会が召集される。物価高騰対策など緊急課題への対応も求められており、例年以上に忙しい夏になりそうだ。猛暑に負けないよう、しっかりと体調管理を行い、乗り切っていきたい。

追悼

7日午前11時半、奈良市で参議院選挙の応援演説をしていた安倍晋三元総理大臣が暴漢に銃で撃たれ、夕刻に亡くなられました。

 

安倍元総理は憲政史上最長となる8年8か月にわたり内閣総理大臣の重責を担われました。卓越したリーダーシップ、類まれな実行力によって内外の諸課題に果敢にチャレンジし、我が国の針路を切り拓いてこられた政治家でした。

 

アベノミクスによる大胆な金融緩和と財政投入は、円安・株高への転換を実現し、長期デフレ脱却の起点となりました。これにより400万人余りの雇用も創出されました。

 

また、教育改革や安全保障、憲法改革など、国家の基本的な課題に取り組み、批判に屈することなく自らの国家観を追い求められてきました。

 

地球儀を俯瞰する外交を展開し、「自由で開かれたインド太平洋構想」を提唱するなど、国際社会での日本のプレゼンスを大いに高めてこられました。

 

日本という国家を誰よりも愛し、その将来を憂い、進むべき道筋を提唱され、そして大きな功績を残されてきた政治家、安倍晋三。その人生がこのような形で閉じられてしまったことは、重ね重ね残念でなりません。

 

我が国はとても大きな存在を失いました。今はただ、ご冥福をお祈り申し上げます。

未来への責任

去る22日、第26回参議院通常選挙が公示され、7月10日の投開票にむけた選挙戦がスタートした。通常選挙の期日は公職選挙法32条3項で、少なくとも17日前に公示しなければならないと定められている。最近では最低限の17日前に公示されることが通例となっていたが、今年の場合、17日前は23日となり沖縄の「慰霊の日」と重なる。この日は、公示になじまないとの理由から、今回は1日前倒しして異例の18日間の選挙戦となった。

選挙戦最初の週末は日本列島を30度越えの猛暑が襲い、全国各地で6月の最高気温が測定された。そんな中、私は兵庫選挙区でわが党の公認候補、末松信介(文科大臣)さんの応援で街頭に立った。
私が初出馬した36年前の衆参ダブル選挙も7月6日投開票の酷暑の選挙戦だった。当時は若さに任せて、無我夢中で乗り切ったが、この季節の選挙は本当に体力を消耗する。暑いさなか街頭に足を運んでいただいた支援者の皆さんに、心から感謝を申し上げたい。

今回の選挙では、円安、原油・物価高騰などの経済対策や、ロシアのウクライナ侵攻をうけた外交・安全保障、憲法改正が主な争点となっている。新型コロナウイルス対策の検証と次なる感染症への備えも論じられている。就任時からこれまでの岸田文雄首相の政権運営に対する評価も問われることになる。
中でも最も関心を集めているのが経済対策、特に物価高騰については野党が攻撃材料として政府の無策を批判している。

立憲民主党の泉健太代表は「岸田インフレ」とレッテル張りし、国民の不満の受け皿になるべく論戦を展開している。また、円安の原因である内外の金利差の是正として金融政策の転換を主張している。確かに急激な円安は好ましいとは言えないが、このタイミングでの金融引き締めは、景気後退の引き金となりかねない。正しい選択とは思えない。

各党の公約を見ると、ほとんどの野党が消費税の引き下げや廃止に言及している。一方で、消費税減税による財源の穴をどうやって埋めるのかは示されていない。

物価高の主たる要因はエネルギーと食料品である。短期的には、この両分野に特化した緊急措置を講じるという政府の方針は適切だ。

その他の論点の差異は概ね二つのグループに分類される。

①エネルギー政策については、原発の再稼働を容認するグループ(新基準を満たした上で、地元住民の理解が前提)と、そうでないグループ。②外交安全保障、特に防衛費の増額について、積極的なグループと、そうでないグループ。③憲法改正について(関心事は異なるが)、改正に積極的なグループと、そうでないグループ。

自民、維新、国民、N党は基本的な考えは近い。逆に立憲(安全保障は少しニュアンスが違う)、共産、社民、れいわは同じ方向を向いていると言える。

これらのことから、経済政策を除く主な論点(原発、防衛費、憲法改正)については、今回の選挙結果で民意が収斂されるのではないだろうかと、私は考えている。

世界秩序が大きく変ろうしている今、日本の針路を定める「新しい国家戦略」の策定が急がれる。この国の未来について、党派を超えて議論を進めることが政治に求められている。

参院選が終われば、(衆院の解散がなければ)3年間は大型の国政選挙はない。この選挙で勝利し、志を同じくする同志と共に、この国の未来に責任を果たして行きたい。今年もまた、暑い夏になりそうだ。

終盤国会

6月7日、「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太方針2022)」が閣議決定された。

骨太方針2022では、日本のマクロ経済運営について、2段階のアプローチを提示。まず第1段階で、総合緊急対策により厳しい状況にある人々を全力で支援、そして第2段階で、新しい資本主義に向けたグランドデザイン・実行計画をスタートさせるための総合的な方策を実行していくとしている。

岸田総理は、新しい資本主義について「市場や競争任せにせず、資本主義が本来もたらす便益を最大化、最適配置する」と基本方針を示し、「気候変動問題やSDGs(持続可能な開発目標)など、社会的課題をエネルギー源と捉え、新たな成長を図る」とも述べている。

 

具体的な政策としては、①人への投資と分配、②科学技術・イノベーションへの投資、③新ビジネスや市場開拓をおこなうスタートアップへの投資、④グリーントラスストインフォメーションとデジタルトランスインフォメーションの4分野に重点を置くとした。

 

人への投資については、2024年度までの3年間で、一般から募集したアイデアを踏まえた4000億円規模の施策パッケージを講じる。労働者が自らの意志でスキルアップし、ITなどの成長分野で働けるよう支援することなどが盛り込まれた。

 

また、グリーントラストインフォメーションについては、2050年の脱炭素社会実現に向けた経済・社会、産業構造変革への道筋の大枠を示したロードマップを年内に取りまとめる。

 

今年度の骨太方針の特色は、昨今の国際環境の変化に対応すべく、防衛力の抜本的強化が明示されたことだろう。その内容については、党政調会での議論の段階で、予算額や期限について、多くの議員が発言、長時間に及ぶ会議を経ても決着がつかず高市早苗政調会長預かりとなった。最終的にはNATO=北大西洋条約機構の加盟国がGDP=国内総生産の2%以上目標としていることを例示したうえで、防衛力を抜本的に強化する期限を「5年以内」とすることで決着した。

 

防衛力強化以上に激しい党内論戦が交わされたのが、歳出改革に関する表現方法についてだ。積極財政派から「政府原案の「骨太方針2021に基づき」という文言を削除すべきだ」(=2025年度という財政健全化目標時期を先送りせよ)という多くの主張が行われ、会議が紛糾、一時は怒号が飛び交う状況となり、取りまとめが難航した。“積極財政派”と“財政再建派”の全面対決は、岸田総理も巻き込んだ調整の結果、「骨太方針2021に基づき」との表現は維持する一方、「重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない」という一文を追加する玉虫色の表現で決着した。参議院選挙を目前にして党内の分裂を避けなけなければという求心力が働いたもの、野党の現状とは正反対だ。

 

骨太方針決定の二日後、9日には会期末恒例の内閣不信任案が出されたが、野党の足並みの乱れもあり圧倒的多数で否決。15日には今国会も閉幕となり、22日からは参議院選挙がスタートする。岸田内閣として評価が問われる初めての国政選挙だ。現状では与党に有利と報道はされているが、選挙は一瞬にして風向きが変わることがある。勝利が確定するときまで、気を緩めることなく臨まなければならない。今年も暑い夏になりそうだ。

格別の配慮

沖縄の本土復帰50年にあたる5月15日、天皇皇后両陛下のご臨席の下、政府と沖縄県の共同主催による記念式典が宜野湾市と東京都港区の2つの会場をオンラインで結んで開催された。私も国家基本政策委員会委員長として出席した。

戦後27年間、アメリカの占領下にあった沖縄が本土に復帰したのは、1972年5月15日のこと。復帰に先立つ1965年年8月19日、現職の首相として初めて米国統治下にあった沖縄を訪問した佐藤栄作氏は、「沖縄の祖国復帰が実現せずには、わが国の戦後は終わらない」と述べ、沖縄返還に強い意欲を表明した。

私が初めて沖縄の土を踏んだのは今から約20年前。先輩議員に誘われ、世界初の海水による揚水発電所「沖縄やんばる海水揚水発電所」を視察した際のことだ。

国政に参画して以来、「一度は沖縄戦の戦跡をこの目で見なければ」と考えていたので、視察と併せて“平和の礎(いしじ)”や“ひめゆりの塔”など数か所の戦跡を訪れた。その中でも最も印象に残ったのは旧海軍司令部壕だ。

この壕は、日本海軍沖縄方面根拠地隊司令部のあった所で、その一部が現在公開されている。約4000名の将兵が壮絶な最期を遂げた壕内は、司令官室、作戦室などが当時のまま残され、戦争の悲惨さ残酷さを訴え、平和を願う場所となっている。

大田実海軍司令官の※「糧食六月一杯ヲ支フルノミナリト謂(い)フ 沖縄県民斯ク戦ヘリ 県民ニ対シ後世特別ノ御高配ヲ 賜ランコトヲ」と云う大本営に宛てた最終電は、自決直前にこの海軍壕の指令室で書かれたという。日本で唯一、地上戦に住民が巻き込まれてしまった沖縄戦。当時この電文を見て胸に期するものがあったと記憶している。以来、沖縄問題に関わる機会も少なく、思い出すこともなかったのだが…。

その後、文部科学大臣就任直後に教科書検定問題で沖縄に深く関わることになり、海軍壕の記憶も自ずと蘇ることになった。08年度から使われる高校教科書の検定で、「沖縄戦を巡る住民の集団自決に旧日本軍が関与した」という記述の修正を求める意見が付き、担当大臣として対応を求められたのだ。

軍の関与の有無について見解が真っ二つにわかれ、沖縄県民による大規模な抗議集会が開かれたのが就任直後。その約3ケ月間は予算委員会や文科委員会の答弁や記者会見で対応に追われた。当時、文科省は建て替えのため丸の内の仮庁舎に移転していたが、ビルの前では毎日のように様に激しいデモが行われていた。

最終的には「学説が軍命令の有無よりも集団自決に至った精神状態に着目して論じたものが多い」とし、「軍の直接的な命令は確認できないとしながらも、集団自決の背景には当時の教育や訓練があり、集団自決が起きた状況をつくり出した」との検定意見がつけられた。そして、各出版社が軍の強制に触れない形に自主的に修正することで決着した。

復帰50年記念式典の一週間後、22日(日)には、世界レベルの研究拠点の形成を推進するOIST(沖縄科学技術大学院大学)設立10周年記念式典に出席した。

観光業と建設業以外にこれといった経済資源がないと言われる沖縄だが、OIST発のスタートアップ企業が大きく羽ばたき、地域振興の一翼を担うことができれば、少しは「格別の配慮」に貢献できるかもしれない。東ヨーロッパの戦場の市民生活にも思いをはせつつ、そういう思いを新たにした今回の沖縄訪問であった。

 

※「沖縄県民はこのように戦いました。県民に対して後世特別のご配慮をして下さいますように」

国家の基本は”人づくり”

ゴールデンウイークが始まった。新型コロナによる行動制限がない大型連休は3年ぶりで、交通機関も行楽地やふるさとに向かう人たちで久々に混雑している。

連休直前の4月27日、立憲民主党の泉健太代表は記者会見を開き、夏の参議院選挙にむけての重点政策を発表した。代表は国民生活を守る「生活安全保障」をキャッチコピーに、“物価高と闘う”“教育の無償化”“着実な安全保障”を3本柱と位置づけ、5月中にも公約を策定する考えを表明している。

3本柱はいずれも重要課題だが、そのうち教育無償化についてである。

そもそも義務教育(小中学校)については憲法26条により無償と定められている。高校については2010年の「高等学校等就学支援金制度」スタートとともに国公立高校が無償となり、さらに同制度の上限が年間39万6000円に引き上げられたことにより、私立高校についても実質無償化された。残るは高等教育(大学、短大、高専、専門学校)である。

2017年には消費税増税による増加財源の一部を用いて、 “生産性革命”と“人づくり革命”を実現しようという「新しい政策パッケージ(2兆円)」が策定された。

人づくり革命の柱は、授業料減免や給付型奨学金を中核とする高等教育の修学支援新制度と幼児教育・保育の無償化で、2020年からスタートしている。ただ、修学支援新制度の対象者は、ごく一部の低所得者層に限定された偏ったものとなっており、中間所得層への支援拡大が大きな課題となっている。

このため、自民党内では修学支援新制度の見直しに向けて検討を進めてきた。この見直しの一環として、教育・人材力強化調査会では、大学の授業料や入学金の支払いを国が立て替え、学生本人が卒業後に支払い能力に応じて所得の一定割合を返済していく「卒業後拠出金制度(J-HFCS)」構想の検討を重ねてきた。これは、1989年にオーストラリアが導入したHECSの日本版である。

家庭の経済力が、高等教育の格差の要因となってはならない。J-HECS構想は“出世払い奨学金”とも言われ、高等教育をこれまでの「親の負担」から「本人と社会の共同負担」に転換する制度だ。今年4月に施行された「成年年齢の引き下げ」の理念※にも添う。

岸田文雄総理は、所信表明演説や国会審議の答弁でこの出世払い奨学金について再三言及しているし、自身が提唱する「新しい資本主義実現会議」の緊急提言の中にも具体策として盛り込んでいる。先頃開催された教育未来再生会議では、改めて末松信介文科大臣に新奨学金制度の創設検討を指示している。

冒頭に述べたように、立憲民主党も教育無償化をめざしている。日本維新の会もかつて、「教育無償化法案」を提出している。国民民主党や共産党も基本的な方向性に異論はないだろう。その意味では、次回の参議院選挙で各党がこの問題について、それぞれの考え方と具体的手法をまとめ、公約として政策提言することが望まれる。

人づくりは国家の基本。日本の未来は教育政策の内容にかかっていると言っても過言ではない。各種世論調査では、景気対策や社会保障、またコロナ対策と比べて関心が高いと言えないが、各党が公約に掲げ、議論を展開することで、国民の関心が高まることを期待している。

※18歳、19歳の若者の自己決定権の尊重により、積極的な社会参加を促す。

東播磨の祭り、国恩祭

私の地元である東播磨地区では、五穀豊穣に感謝する秋まつりが非常に盛んで、地域コミュニティーの一大イベントとなっている。が、それ以外にも「国恩祭」というお祭りが春に行なわれる。このお祭りは、兵庫県の東播磨地域、加古(旧加古郡)と伊奈美(旧印南郡)において、3月末から5月初頭に行われる臨時の祭りである。

現在は22社(加古支部11社・伊奈美支部11社)の神社が参加し、それぞれの支部内で輪番で行なわれるので、11年に一度当番が回ってくることになる。

今年の輪番は、加古支部の尾上神社と伊奈美支部の生石神社(おおしこ・日本三奇の石乃寶殿がある)。17日の日曜、再興された尾上神社の国恩祭神事に来賓として出席した。コロナ禍で2年間秋祭りもなかったので本当に久しぶりの参拝である。

国恩祭の起源は天保4年(1833年)まで遡る。天保4年から10年まで続いた江戸時代の三大飢饉の一つと言われる“天保の大飢饉”は、全国各地で百姓一揆や打ちこわしが頻発し、大坂の大塩平八郎の乱の原因にもなった。

ふるさと東播磨も大飢饉により人心が荒廃し、それを憂いた地域の神職たちが集い、郷土の繁栄と安泰を願うための「祓講」という神社の組合組織を結成し、臨時大祭を行ったのが始まりと言われる。実に来年で190周年を迎える。

当初からの習わしではないだろうが、今ではこの国恩祭に照準をあわせて氏子から寄付を募り、神社の整備を行うことが恒例となっている。

古来より神社は地域社会の中核をなす施設、地域住民の心の拠り所でもあった。その神社を定期的に改修修繕するシステムとして国恩祭が機能していることは、まことに興味深い。似たような祭りは他にもあるかも知れないが、神社の施設改修制度はここだけではないだろうか。

ならば、「日本遺産」に手を挙げようと、話を出してみたこともあったが、関係者間の意見集約が整わないまま立ち切れになっていたのだが…。

尾上神社の神事後の式典挨拶で神社総代が日本遺産に言及し、来賓として出席していた他の神社総代に呼びかけていた。これを契機に今後関係者の意見調整が整い、地域住民の間で盛り上がりを見せれば、再度「日本遺産登録」に向け、再度汗をかいていきたい。

尾上神社では午後から”お稚児さん行列“も行われるとのことで、露天商が並び人出も結構あり賑わっていた。連休の5月4日には伊奈美支部の輪番である生石神社でも国恩祭が挙行される。

コロナの減衰とともに、地元のイベント案内の数も少し戻りつつある。一方、沖縄などでは感染拡大が再燃しつつあるようだ。ただ、世界の主要国がウイズコロナ政策に転換し、日常生活を取り戻しつつある今日、我が国のみが再度行動制限を強化する選択は取りにくい。日本民族の大移動が予想されるゴールデンウイークを目前に、政府には難しい舵取りが求められている。

いずれにしても、今年の秋祭りが3年ぶりに盛大に執り行われるよう、心から願っている。

高等教育無償化…出世払い

改正民法が4月1日に施行され、民法制定(1876年)以来初めて成年年齢が20歳から18歳に引き下げられた。今回の改正の目的は、「自己決定権を尊重し積極的な社会参画を促す」ためだ。例えば、携帯電話を契約する、一人暮らしの部屋を借りる、クレジットカードをつくる、といった行為が親の同意なしに自分一人でできるようになる。

親権に服さなくなるという意味では、住む場所、進学や就職などの進路なども自分の意思で決定できるようになる。この「親の考えに関わらず自分の意思で進路を決定する」との考え方は、我々がこれまで党内で進めてきた“出世払い方式による高等教育の支援策(J-HECS)”の考え方のベースにもなっている。

現在、日本の大学生の大半は、親に学費や生活費を負担してもらわざるを得ない。それ故に、自分の意向に沿った進路選択ができないケースも多い。

「出世払い」方式はオーストラリアなどが採用している制度で、授業料や入学金を政府が立て替え払いし、学生は在学中の学費支払いが不要となる。卒業後、一定の年収を得られるようになった段階で、所得に応じた額を分割納入する仕組みだ。この方式であれば、親の経済力に左右されず、自らが望む学びの場にチャレンジすることができる。

一方で親の立場から見ると、教育費をはじめとする子育て経費の負担が、子どもをつくる際の最大のハードルとなっている。少子化を克服し、急速な人口減少速度を緩和するためにも、教育費の軽減は重要な政策課題である。高校まではすでに無償化されており、大学等の高等教育対策が急がれる。

私はここ数年来、党・教育再生実行調査会で「恒久的な教育財源確保に関する調査会チーム」の主査として、高等教育無償化のスキームづくりに取り組んできた。J-HECSはその解決策の有力な選択肢である。財源負担も小さく、私は最も現実的かつ公平な解決策であると考えている。が、党内では賛否両論がある…。

反対意見の主なものが、「教育費は本来親が負担すべきもの、親世代の負担を子世代に先送りすべきでない」というもの。世論調査では「親が負担すべき」との回答が5割を超えているが、世代間で意見が分かれる問題である。

「新しい資本主義」を掲げる岸田文雄総理の目玉政策の一つが中間層への再配分強化であり、具体的には子育て世代への住居費や教育費の支援である。3月30日の教育未来創造会議で総理は、「教育人材育成、人への投資は成長の源泉だ」と言及し、「出世払い」方式の奨学金制度の創設検討を指示、5月中に制度設計を含めた提言をまとめるよう、末松信介文部科学大臣に求めた。

今後、「成長、教育・人材力強化調査会」で議論が深められるが、人への投資として「新しい資本主義実行本部」の提言でも取り上げられる予定である。様々な論点があり、2か月で意見集約するのはかなり難しい作業になると思うが、今回がラストチャンスと考え、実現に向けて最大の努力を傾注したい。

※J-HECS= Japan-Higher Education Contribution Schemeの略