国家の基本は”人づくり”

ゴールデンウイークが始まった。新型コロナによる行動制限がない大型連休は3年ぶりで、交通機関も行楽地やふるさとに向かう人たちで久々に混雑している。

連休直前の4月27日、立憲民主党の泉健太代表は記者会見を開き、夏の参議院選挙にむけての重点政策を発表した。代表は国民生活を守る「生活安全保障」をキャッチコピーに、“物価高と闘う”“教育の無償化”“着実な安全保障”を3本柱と位置づけ、5月中にも公約を策定する考えを表明している。

3本柱はいずれも重要課題だが、そのうち教育無償化についてである。

そもそも義務教育(小中学校)については憲法26条により無償と定められている。高校については2010年の「高等学校等就学支援金制度」スタートとともに国公立高校が無償となり、さらに同制度の上限が年間39万6000円に引き上げられたことにより、私立高校についても実質無償化された。残るは高等教育(大学、短大、高専、専門学校)である。

2017年には消費税増税による増加財源の一部を用いて、 “生産性革命”と“人づくり革命”を実現しようという「新しい政策パッケージ(2兆円)」が策定された。

人づくり革命の柱は、授業料減免や給付型奨学金を中核とする高等教育の修学支援新制度と幼児教育・保育の無償化で、2020年からスタートしている。ただ、修学支援新制度の対象者は、ごく一部の低所得者層に限定された偏ったものとなっており、中間所得層への支援拡大が大きな課題となっている。

このため、自民党内では修学支援新制度の見直しに向けて検討を進めてきた。この見直しの一環として、教育・人材力強化調査会では、大学の授業料や入学金の支払いを国が立て替え、学生本人が卒業後に支払い能力に応じて所得の一定割合を返済していく「卒業後拠出金制度(J-HFCS)」構想の検討を重ねてきた。これは、1989年にオーストラリアが導入したHECSの日本版である。

家庭の経済力が、高等教育の格差の要因となってはならない。J-HECS構想は“出世払い奨学金”とも言われ、高等教育をこれまでの「親の負担」から「本人と社会の共同負担」に転換する制度だ。今年4月に施行された「成年年齢の引き下げ」の理念※にも添う。

岸田文雄総理は、所信表明演説や国会審議の答弁でこの出世払い奨学金について再三言及しているし、自身が提唱する「新しい資本主義実現会議」の緊急提言の中にも具体策として盛り込んでいる。先頃開催された教育未来再生会議では、改めて末松信介文科大臣に新奨学金制度の創設検討を指示している。

冒頭に述べたように、立憲民主党も教育無償化をめざしている。日本維新の会もかつて、「教育無償化法案」を提出している。国民民主党や共産党も基本的な方向性に異論はないだろう。その意味では、次回の参議院選挙で各党がこの問題について、それぞれの考え方と具体的手法をまとめ、公約として政策提言することが望まれる。

人づくりは国家の基本。日本の未来は教育政策の内容にかかっていると言っても過言ではない。各種世論調査では、景気対策や社会保障、またコロナ対策と比べて関心が高いと言えないが、各党が公約に掲げ、議論を展開することで、国民の関心が高まることを期待している。

※18歳、19歳の若者の自己決定権の尊重により、積極的な社会参加を促す。