危険水域

政府は2日に臨時閣議を開き、物価高に対応し、持続的な賃上げや成長力の強化を柱とする“デフレ完全脱却のための総合経済対策”を決定した。
経済対策は、第一段階として緊急的な国民生活支援を年内から年明けをめどに行い、第二段階として賃上げや減税措置を来春以降夏にかけて行うとしている。

まず物価対策として、年内から住民税非課税所帯に1世帯当たり7万円を現金給付し、ガソリンや電力・ガス料金の負担軽減措置は来年4月末まで延長する。

第二段階では、持続的な賃上げにむけた税制措置や、6月には納税者と扶養家族1人あたり4万円(所得税3万円、住民税1万円)の定額減税など、本格的な国民所得の向上を図る。また、地方も含む成長力強化にむけては、中小企業が行う設備投資への支援や、半導体の生産拠点整備を支援する基金の積み増し等、国内投資促進策も打ち出されている。

このほかにも、人口減少対策や国土強靭化・災害復旧も盛り込められており、令和5年度補正として13.1兆円を計上し、所得税などの定額減税分も含めた経済対策規模は17兆円前半となる。なお、地方や民間の支出も含む事業規模は総額37.4兆円に上る。

一方で、去る10月22日に行われた衆参補欠選挙で自民党は1勝1敗とギリギリ踏みとどまったものの、もともと自民の議席だった高知・徳島参院選挙区で敗北、強い保守地盤である長崎4区でも接戦を強いられるなど、政権運営には暗雲が立ち込めている。

減税などの経済対策で内閣支持率アップを期待したが、目玉政策になる筈の減税が極めて不評で、政権浮揚策どころか裏目に出ている。報道各社の世論調査による内閣支持率を見ると、共同通信(3~5日)は前月比4%減の28.3%、JNN(4~5日)は同10.5%減の29.1%と下落傾向に歯止めがかからず、いずれも発足以来最低を更新した。政権運営の危険水域とされる2割台が続出し、与党は危機感を抱いている。

世論の厳しい眼は自民党支持率にも表れ始めた。読売新聞の調査では、自民支持率は第2次安倍政権以降は概ね40%前後で推移していたが、岸田政権は発足時の43%から今年5月に38%、10月には30%と下落傾向にある。

党内では、青木幹雄・元内閣官房長官が唱えたとされる“青木の法則”が現実味を帯びてささやかれ始めた。この法則とは内閣支持率と与党第1党の支持率の合計が60%を切れば政権運営に黄信号が点滅、50%を切れば赤信号で政権が倒れるとする経験則だ。すでに黄信号が点灯している。
もう一つ永田町で注目されているのが「内閣支持率と政党支持率の逆転」だ。内閣支持率が政党支持率を下回ったら、それは『岩盤支持層からも見放された』ことを意味する。

岸田首相と同じように「減税政策」で国民から批判を浴びた橋本竜太郎内閣が退陣した1998年6月の支持率は、内閣が24%に対して自民党は25.8%だった。そのほか、政権末期の森喜朗内閣(内閣支持率8.6%、自民支持22.5%)、麻生太郎内閣(同22.2%、23.4%)、鳩山由紀夫内閣(同19%、民主党支持率20%)など、過去の例では、いずれも二つのシグナルのレッドゾーンに該当する状況は政権の終焉を示していた。

10月末の日経・テレビ東京の調査では、内閣支持率が33%で自民党支持率が32%であり、何とかギリギリの線で双方の指標はクリアできている。しかし、岸田内閣の政権運営が「危険水域」に入りつつあることは明らかだ。政府・与党の一員として、国民に対する説明責任をより一層果たし、緊張感を持って国政に臨む必要がある。