ウクライナ

国際社会の厳しい非難にもかかわらず、ロシアは2月24日、ついにウクライナに軍の侵攻を開始した。ここに至る経緯を見ると、今回のロシアのウクライナ侵攻は事前から周到に準備されていたと思わざるを得ない。国際社会に向けての一方的な情報発信により口実づくりをした上で、まずはサイバー攻撃でウクライナの情報網とインフラを機能不全にするとともに軍事施設に攻撃をかけて制空権を掌握、その上で地上部隊が国境線を超えてウクライナへ侵攻するという手順だ。

プーチン大統領は「ほかに選択肢はなかった」と述べ、軍事侵攻を正当化しているが、いったい何をそんなに恐れているのか。ウクライナがNATO入りを志向しているのは、強大なロシアの圧力から身を守るためであって、決してロシアを攻撃しようとしている訳ではない。NATOの意図もそこにない。

ロシアは本来世界の安全に責任を持つべき国連安保理の常任理事国であるが、白昼堂々と独立国の主権を力づくで侵す蛮行に及んだことは、断じて看過できない。3月1日、我が国としても強く抗議する意味で衆院で非難決議が行われた。

国際社会は一致結束してこの事態に臨まなければならない。これまでにないレベルの経済制裁等によって、今回の蛮行の代価が如何に高くつくかをロシアに知らしめる必要がある。

EUと米国は26日、ウクライナ侵攻の資金源を遮断するため追加制裁措置として、ロシアの一部銀行を国際間銀行間の送金・決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除することに合意した声明を出した。この措置は“金融核兵器”とも言われ、排除されるとドル建てでの送金・決済ができなくなり、ロシアは国際的な金融システムから切り離され、世界での事業展開ができなくなる。

我が国においても円決済停止となるだろう。すでに、ルーブルとロシア株式市場は暴落の様相を呈している。

ただし、副作用も生じる。エネルギー自給率の低いドイツをはじめ、欧州各国はロシアの天然ガス供給に大きく依存している。ロシア経済との長期絶縁は欧州エネルギー危機を招き、ひいては全世界的なエネルギー価格の高騰につながる可能性もある。それはあらゆる物価の上昇も招くだろう。我が国としても、こういう事態を想定した対処策も準備しなくてはならない。

領土問題は世界各地に存在する。万が一、今回のような蛮行がまかり通ることになり、各地で同様の事象が発生すれば、国際秩序に極めて大きな影響を与える。

例えばアジアにおいて、台湾や南沙諸島をめぐる情勢が急変すれば、我が国の安全保障にも大きく関わってくることになる。ウクライナ問題への対処は、遠い東ヨーロッパの紛争、対岸の火事扱いでは済まされないのだ。

日ロ間には北方領土問題など幾多の懸案があり対話は続けている必要はあるが、ここは毅然たる対応が求められている。国際社会と連携し事態の収拾を図るべくロシアに働きかけていくことが求められる。

今回の出来事を対岸の火事とせず、改めて我が国の安全保障について問い直すとともに、国民的議論を行わなければならない。今はそんな時だ。

 

*国連の動き=安全保障理事会は2月25日、ウクライナに侵攻したロシアを非難し、武力行使の即時停止と撤退を求める決議案を採択したが、ロシアの拒否権行使で否決された。日本時間1日零時、全193か国が参加する国連総会で、米国などはロシア非難決議を採択することで国際的にロシアを孤立させ圧力を強めたい考えだが、加盟国の半数以上が演説する見込みで採択までに数日間かかる見込みだ。

*停戦協議開始=2月28日、ベラルーシ・ゴメリで協議が始まった。ウクライナ側は即時停戦とロシア軍の完全撤退を求めたようだが、ロシア側は軍事力を背景に全面降伏とウクライナの非武装中立化を迫る。また、プーチン大統領は核部隊に戦闘態勢を指示して威嚇するなど、双方の妥協点を見いだせるかは不明だ。