解散の大義

17日(日)早朝から主要マスメディアが、「臨時国会を召集した後、早期の“解散・総選挙”」を報じたため、台風18号襲来とともに突如解散風も列島に吹き荒れた。

 

衆議院議員は4年任期だが、戦後23回の解散では在職期間の平均は976日で、約2年8カ月となる。前回の総選挙からすでに1,000日を超えているので、“常在戦場”を旨とする衆院にあっては、いつ解散があってもおかしくない状況ではあったが、今回の解散・総選挙はいささか唐突感がある。多くの国民にも「なぜ今解散するのか?」との疑問が広がっているのではないだろうか。

 

内外に山積する諸課題を解決するためにも、国会での熱心な議論が求められるが、それには時間が必要である。これらを踏まえ、私は支持者に聞かれるたびに「年内解散はない」と言いきっていた。それだけに私も、今回の総理の決断には疑問を覚える。

 

党内にもこの時期の選挙に疑問の声も多い。また「何のための解散か、何を問うのか明確に」

との声もある。

しかし、解散・総選挙は時の政権にとって政権の維持と国民生活がよりよい方向が続くことを願って、最も有利だと総理が判断したタイミングで断行されるのであって、我が党の総裁である総理が決断したのだから、受け入れるしかない。

 

安倍首相は週明け25日に、解散理由や民意を問うべきテーマについて記者会見を行う予定である。

国民に信を問う以上、総理は会見で「なぜ今解散・総選挙なのか?」との疑問に応え、「いま、信を問う理由」を丁寧に説明し、国民の理解を得るべく最大限の努力を払う必要がある。そうでなければ、この選挙は解散の大義を巡っての説明に追われる厳しい戦いとなるだろう。

 

政権公約の柱となるべきものは、①アベノミクスの総仕上げ、②北朝鮮情勢を踏まえた安全保障政策の強力な遂行、③全世代型社会保障政策の確立や幼児教育の無償化、並びに高等教育の負担軽減および財源策、④働き方改革、⑤憲法改正についての我が党のスタンスなどで、国民に訴えるべき政策として党内論議が集約されつつある。

 

ただ、どんな素晴らしい政策もこの解散への国民の理解が得られなければ、国民の心には届かない。また、勝利なくしては素晴らしい政策も実現しない。われわれはこのことを肝に銘じて、来たるべき総選挙に勝ち抜いていかなければならない。

人づくり革命

政府の看板政策である“人づくり革命”の一翼を担う「人生100年時代構想会議」の初会合が9月11日に開催された。会議の趣旨は「人生100年時代を見据えた経済・社会システムを実現するための政策のグランドデザインを検討する」というもの。議長は安倍総理が勤め、メンバーは関係閣僚、大学教授や経済界代表に加え、起業家、元サッカー選手などの幅広い分野の有識者が名を連ね、年齢も10代から80歳代に及ぶ。

 

会議設置の発端は「LIFE SHIFT」という本だ。この書の著者であり会議メンバーでもあるリンダ・グラットン教授は、人生の長寿化をポジティブにとらえるためには、ライフステージを「20代前半までの“教育期間”」「20代から60代までの“就労期間”」「60代以降の“老後期間”」の三つに固定的画一的に分割するのではなく、多様な選択ができる社会を作るべきだと主張する。働き始めてから学び直すのも良いし、80歳になってから仕事を始めても良い。100年という長い人生、一人ひとりの才能や体力に応じて、様々な設計を行うべきという考え方だ。

 

11日の会合も、リンダ・グラットン教授のプレゼンテーションから始まり、「卒業」「就職」「引退」の“3ステージの単線型人生”の見直しや、生涯にわたる学習の重要性などについて提言された。これを受けて、学び直しや職業教育の充実を含めた大学改革や待機児童対策、また全ての世代にむけた社会保障などについて活発な意見交換が行われた。

今後、この会議では、(1)全ての人に開かれた教育機会の確保・リカレント教育、(2)人材教育のあり方、高等教育改革、(3)企業の人材採用の多元化、多様な形の高齢者雇用、(4)高齢者給付型中心の現行制度から全世代型社会保障への改革、の4本柱で議論を重ね、年内には中間報告をまとめることとなっている。

 

この政府の動きと並行して、自民党の政務調査会でも同様の議論を進めなければならないが、すでに党内には「人生100年時代の制度設計特命委員会」が設置されており、5月には幼児教育と社会保障を中心に中間報告もまとめている。今後、この委員会を活用し、多分野にわたる党内議論を深め、提言をまとめていくことになる。

 

提言の素材は、これまでの部会や委員会の議論の中にたくさん埋もれている。

例えば、(1)教育の無償化やリカレント教育(2)高等教育改革については、私も所属する教育再生実行本部から様々な提言を行ってきた。さらに財源も含めた制度設計の具体化を図るべく検討作業を開始した。

また大学改革(高等教育改革)については、近々、文部科学部会の下に新たなプロジェクトチームを設置する。このPTは抜本的な大学改革全般を議論する場であるが、当面は構想会議のテーマに添った論点整理をおこない、特命委員会に提案したいと考えている。

 

先日訪問したシンガポールでは「人的資源が唯一の資源」との考えのもと、国の人的資源を最大限に活かすべく、国家予算の約2割が投入されて教育政策が実施されている。人口や国土の広さ、歴史的背景は違っていても「人材以外の資源に乏しい」という意味では日本も同じ、すでに急速な人口減少社会に突入した我が国においては、個々人の能力を高め、生産性を向上させなければ、豊かな未来を描くことはできない。

今後の「人づくり革命」をリードすべく、なお一層、教育政策の充実に力を注いでいきたい。

 

この原稿の執筆中に解散風が突然吹き始めた。

人口減少が加速するなかで今回述べた「人づくり革命」が如何に急がれるか、人材育成とともに生産性を高めるカギとなる労働規制改革の推進、自国優先主義が勃興するなか国際経済連携を重視する経済政策の重要性、軍事緊張が高まるなか我が国の安全保障を高める同盟の強化、さらには自衛隊の明記を含めた憲法改正の必要性。この時期の解散にはいささか疑問を覚えるが、前述のような政策論を国民に訴える機会になるのかもしれない。

半島有事

秋の気配が漂いだした8月29日早朝、北朝鮮が日本上空を越えて太平洋に向けてミサイルを発射。瞬時にミサイル通過が予想された空域の自治体エリア(北海道など12道県)ではJアラート(全国瞬時警報システム)が作動し、エリアメール、緊急速報メールが携帯電話などで流された。

 

TV局も通常番組から一斉に画面が切り替えられ、ミサイル情報をめぐって列島に緊張が走り大騒動となった。ミサイルは約2700キロ飛行し、北海道上空を通過して襟裳岬東約1800キロの太平洋上に落下した。

 

今年になって北朝鮮は弾道ミサイルを含めてすでに13発も発射している。

8月上旬には中距離弾道ミサイル4発をグアム島周辺海域に発射する「攻撃計画」を公表し、日本の島根県、広島県、高知県上空を通過することもあわせて発表。

これらの威嚇にトランプ大統領は、「これ以上米国を脅かせば、世界がかつて見たことがないような炎と怒りに直面する」と一蹴。両首脳の発言は互いにエスカレートし、米朝の緊張感は高まり続けてきた。

 

さらに3日には国際社会の自制要請を無視する形で6度目の核実験が強行され、北朝鮮は重大報道として「ICBM搭載用の水爆実験を成功裡に断行した」と発表した。

過去の核実験に比べてはるかに大きく、威力は広島原爆の10倍超で水爆との見方もある。

一連の北朝鮮の挑発行動は、核・ミサイルの保有国であることを国際社会に認めさせたうえで、体制の維持に向けて米国との直接交渉を有利に運ぼうとする意図は明白だと考える。

朝鮮半島情勢の緊張はまさに最高レベルに達している。

 

この間、我が国政府の対応は迅速、適切であったと思う。

安倍総理は「ミサイルの動きを完全に把握しており、国民の生命を守るために万全の態勢

をとった」と言明し、イージス艦やPAC3による迎撃態勢をとったことを示唆した。

 

また核実験があった3日深夜に総理は、トランプ大統領、プーチン大統領と相次いで電話会談を実施。4日午前には韓国の文在寅大統領と対応を協議し、新たな国連安全保障理事会決議採択にむけ日米韓の緊密連携を確認した。河野太郎外相も各国の大使と精力的に会談して、安保理での追加制裁決議採択にむけた協力を要請している。

 

国際社会による更なる強力制裁措置については、「実効力のあるものとする」ことが重要だ。

制裁案は石油の輸出禁止・供給制限などが念頭に置かれているが、特に北朝鮮と国境を接する中・露との協力取り付けが極めて重要である。

安倍首相はウラジオストクを訪問して7日にプーチン大統領と会談するが、朝鮮問題をめぐる国連決議への協力を強く働きかけてもらいたい。

 

我が国にとって懸念すべき事態は、米朝の直接交渉によって北朝鮮の体制を承認して、ICBM開発凍結を条件に現状を維持されることだ。頭越しの米朝直接交渉が無いよう、米国と緊密に連携を図っていく必要があると思う。なぜなら、北朝鮮はすでに日本を射程に入れた中距離ミサイル「ノドン」を実戦配備しており、現時点でも日本の安全保障上大きな脅威となっているからだ。

 

また、半島有事ともなれば我が国独自の課題として、①在日米軍基地攻撃への対処はもちろん、②テロなどの後方攪乱対策、③旅行者を含めると約6万人に上る在韓邦人の救出、④押し寄せる難民への対応等々、困難な事案が重なってくることが想定される。

 

「国民の生命財産を守る」ことが政府の重責であるなら、専守防衛のみで対応可能だろうか?自民党の安全保障調査会は今年3月、北朝鮮の核・ミサイル脅威を踏まえて敵基地攻撃能力の保有を求める提言を行った。敵基地攻撃については、1956年に鳩山一郎内閣で判断(注記)が示されて、憲法上の問題はすでにクリアされているが、政府方針の立案と国会での議論が急がれる。

 

注記:「誘導弾等の攻撃を受けて、これを防御するのに他の手段がないとき、独立国として自衛権を持つ以上、座して死を待つべしというのが憲法の趣旨ではない」。

高等教育の機会均等を豪州HECSに見る

夏真っ盛りの8月、お盆の里帰りや長期休暇を利用しての海外旅行など、日本民族大移動の季節だ。国会議員にとっては盆踊りや花火大会など、俗に「田の草刈り」と呼ばれる地元活動にいそしむ時期でもある。そんな活動の合間に、同僚の下村博文、馳 浩(いずれも元文部科学大臣)議員と、高等教育費用負担制度の調査のためにオーストラリアへ出張してきた。

 

我が国では大学進学の経済的負担が、二人目三人目の子づくりをためらわせ、少子化の大きな原因になっていると分析されている。また、低所得者が大学進学をあきらめざるを得ず、それによる教育格差がさらなる経済格差を招くという悪循環をもたらしているとも言われる。こういった課題を解消するために政府・与党は今夏以降、教育の機会均等に向けて具体策の検討に入っている。

 

オーストラリアは、1989年に“高等教育拠出金制度(HECS:Higher Education Contribution Scheme)”を創設し、高等教育進学時および在籍中の費用負担がほとんどゼロとなるシステムを運営している。

今回の我々の調査は、この制度の設計者をはじめオーストラリアの政府関係者(教育省・国税庁職員・元閣僚等)から、この教育負担の詳細な制度設計、創設に至るプロセス等を学び、日本においても「進学を望む者は誰でも大学や専修学校に進む事ができる制度(機会均等)」を実現するためのものだ。

 

行き帰り夜行便の一泊四日というハードスケジュールではあったが、多くの方々との対話から貴重な知見を得ることができ、現地まで足を運んだ甲斐があった。

中でもHECS制度の計画者であるチャップマン・オーストラリア国立大学教授との面談は3時間に及んだ。導入時の社会背景や経緯を含め制度の基本的な考え方についてヒアリングを行い、理解を一層深めることができた。また、HECS導入時の主要閣僚の一人、現オーストラリア国立大学総長エヴァンス氏との会談では、導入時の政治的背景についても説明を受けることができた。

 

オーストラリアのHECSとは、簡単に言えば「連邦政府直営の出世払いの奨学金」である。大学の入学金や授業料などを政府が肩代わりして大学に全額支出してくれる。学生は、卒業後に年間所得が一定額(現在、54,000豪州ドル。約445万円)を越えてから、所得に応じて政府に返済を行うというもの。所得のチェックや返済は国税の納税システムに組み込まれている。

 

所得に応じて返済額が変動するという点では、日本の所得連動型奨学金と類似の制度であるが、豪州のHECSは「政府が大学に教育費を支出」しているのであって、「学生が政府に学費を借金」しているわけではない。つまり正確に言えば、学生は政府に「借金の返済」をするのではなく、受益の「費用弁償」をすることになる。故に学生本人が債務を負うことはなく、もちろん保証人を立てる必要もない。卒業生の責務は所得の範囲で可能な費用弁償を行うのみである。このため、経済的理由により進学を諦めることなく希望する全ての学生が大学に進学することができている。

 

日本は私立大学が多く学生の7割が在学していることや、HECS制度創設まではオーストラリアでは大学の授業料が無料であった(オーストラリアでは受益者負担強化の方向へ政策が進んでいる)ことなど、両国の置かれた状況に相違点はある。しかし、我が国が教育の機会均等への第一歩を踏み出すための有力な手段であることは間違いないと確信する。

 

すべての国民が大学進学を望むわけでもないし、その必要もないだろう。むしろ一人ひとりの才能に応じた多様な生き方こそが国民の幸せをもたらし、日本の繁栄を創造するに違いない。しかし、進学を望む者が、経済的理由で志を放棄するようなことはあってはならない。「教育の機会均等の実現」という最重要課題を早期に解決するために、今回の出張の成果を生かし、財源問題も含めて「日本型HECS」の制度設計を急ぎたい。

あれから10年

8月3日、内閣改造が行われ、第3次安倍第3次改造内閣が発足した。

今回の改造は、このところの内閣支持率の低下を回復する狙いも確かにあったとは思う。しかし、本筋は実務型の人選をすることで着実に実績をあげ、加計学園問題や森友学園問題、また国会審議における一部閣僚の不適切な答弁対応で失墜した信頼を回復するためと考えるべきだろう。

発足を受けての記者会見の冒頭で、安倍首相は国民から不信を招いたことを深く反省するとして陳謝するとともに、「原点にもう一度立ち返らなければならない」と述べ、経済再生をはじめ、政策課題で結果を出すことで信頼回復に努める考えを強調した。

そのうえで新しい内閣について「党内の幅広い人材を糾合し、仕事に専念できるしっかりと結果を出せる体制を整えることができた」と言及、新内閣を『仕事人内閣』と命名した。

一般的に閣僚の適齢期(入閣の有資格者基準)と言われているのは衆議院議員で当選5回以上、参議院議員で3回以上とされているが、自民党内の入閣待機組は60人を超える。

内閣改造が行われるということで、期待をしていた議員も数多くあっただろう。結果的に今回の改造で新入閣を果たしたのは6人だけと、これまでの組閣と比べて少人数となった。

適齢期が訪れると選挙区の支持者の間に入閣の期待が広がる。ましてや新聞等の事前予想で名前が取りざたされると、支持者の期待は一層大きくなり、議員にはそれが大きなプレッシャーとなる。

今の季節、日本全国で夏祭りが行われ盆踊りや花火大会が開催される。数多くの方々が参加される会場への挨拶廻りは毎年恒例の議員活動である。7月のG20のあと、8月上旬に内閣改造する旨の発表がなされてから組閣当日まで、適齢期の議員にとってはさぞかし悩ましい日々であったことだろう。

私の初入閣は、今から10年前の平成19年9月のことだった。第一次安倍内閣が総理の突然の辞任表明により、福田康夫内閣にバトンタッチした際のことだ。ほとんどの閣僚は一か月前に改造したばかりの安倍内閣からの留任となったが、数少ない2つの空席ポスト、防衛大臣と文部科学大臣に石破 茂氏と私が就任した。

当時私は政調会長代理に就任して一か月も経っていなかった。今は複数となっているが、当時は政調会長代理のポストは1人だけ。しかも大変人気のあった重要なポストで、私としても張りきっていただけに短期間で終わるのは非常に残念だった。

内閣改造の前には、まず党の三役(今は選挙対策委員長を含む四役)が決まる。

政調会長が石原伸晃氏から谷垣貞一氏に代わり、私のポストを空けて欲しいと谷垣会長から要請されたのだが、「私からは辞任はしないので、どうしてもと言うのなら首を切ったらいい」と、谷垣氏を困らせた記憶がある。

そんな時、当時の派閥(近未来政治研究会)の会長であった山崎 拓氏から、官邸から入閣の連絡があるので「受けて欲しい」と電話があった。

政調会長代理のポストに未練があったし、同じ派閥に私より当選回数の多いのに未入閣の同僚議員がいたこもあったので一度は辞退した。しかし、山崎会長から「渡海さん、こう言う話は一度断ると今度いつ来るか分からないので、話が来た時には素直に受けた方が良い」と、アドバイスを受けたことを今も鮮明に覚えている。あの時に固辞していたら、未だに待機組の一人としてこの夏を悩ましい思いで過ごしていたかもしれない。

10年前の夏は大臣就任直後から「沖縄集団自決の記述についての教科書検定問題」で忙殺され、お祝いを受けて喜んでいる間もなかった。それでも、就任後初めての“お国入り”の際、自宅前で200人以上もの地元後援会婦人部の皆さんの大きな拍手で迎えられた時、我がことの様に喜んでくれる姿を目の当りにしてお礼の挨拶で言葉に詰まった。この時は大臣になって良かったと心から実感したものだ。

今、安倍内閣は発足以来最大の正念場を迎えている。内政・外交・安全保障上の課題が山積するなか国民の信頼を取り戻し、政策を着実に実行しなければならない。

今回初入閣された方々に、まずはお祝いを申し上げるが、喜びに浸るのはほどほどに、常に緊張感を持って難局に対応し、政治の信頼回復を実現して欲しいと心から願っている。

地球が危ない

東北に停滞する梅雨前線の影響で、秋田県の雄物川が氾濫し、大きな浸水被害が発生している。(被害の全貌は明らかになっていないが、被災者の皆さんが一日も早く下の生活に戻れることを願っている。)昨年は多数の台風が東北・北海道を襲い、大きな被害をもたらしたが、近年、北国での豪雨被害が多発している。また、先月の九州北部ように、全国的に熱帯のような局地的集中豪雨も増えている。「100年に一度の大雨」、「記録的な豪雨」という言葉が使わるのは日常茶飯のことだ。

 

一方で、全国的な降水量でみると、今年の梅雨は空梅雨ぎみであったようだ。関東、中部、四国地方など、全国7水系9河川で取水制限が行われている。今後の降雨量の状況次第で、より大規模な渇水対策が必要となるかもしれない。

気温の方は、全国115カ所の観測地点で5月の最高気温が更新されるという高温化が進んでいる。今も熱中症による被害がTVニュースで連日報道されている。

私の地元の実家は伝統的木造建築で風通しがよく、また川沿いにあるので夜になると涼風が通り抜ける。例年は湯上りと就寝前くらいしかクーラーのお世話にならないのだが、今年はスイッチを入れることが多くなっている。

 

激しい気候変動に襲われているのは我が国に限ったことではない。

ここ数年続けて記録的な猛暑に見舞われているインドでは、暑さや干ばつで多数の死者を出す事態となっている。昨年も最高気温が51度に達するなか、数百人が亡くなった。今年もそれに匹敵する暑さが予想されている。

 

7月12日、NASAは南極大陸で過去最大級の巨大氷山が棚氷から分離する映像を公表した。氷山の面積は約6,000平方kmで重さは1兆トンを超えるという。この氷山の分離自体も温暖化の結果であり、また巨大な冷媒の漂流は各地の気候に影響を与えるだろう。

 

地球規模の気候変動に対処するには、世界各国が協調した対策が必要である。にもかかわらず、6月1日にトランプ大統領は、米国内の石炭産業保護という理屈でパリ協定からの離脱を宣言した。パリ協定とはご承知のとおり、加盟各国が地球環境保全という共通の責任の下、それぞれの実施可能な目標と対策を講じて、温室効果ガスの排出を抑制する多国間協定だ。

 

米国という大国の離脱は、この協定の効果を半減させ、我々の孫子の代の地球環境の行方に大きな不安をもたらす。20世紀の産業革命を先導してきた先進国には今日の地球温暖化への責任がある。米国は「アメリカファースト」などという利己主義を振りかざすよりも、思いやりの心で、その地位にふさわしい責務を果たしてもらいたいものだ。(我が国の首都も同様だが‥‥)

 

我が国はパリ協定に基づき、2030年までに温室効果ガスを2013年度比26%削減するという意欲的な目標を掲げている。日本国内の対策を推進することはもちろん、必要とする国々に我が国の技術を移転し、地球全体の環境保全に貢献していくべきと考える。

無信不立

7月2日に投開票が行われた都議会議員選挙、事前予想でも苦戦が伝えられていた自民党は、改選前の57議席から大幅に議席数を減らし、過去最低だった8年前の39議席も大きく割り込み、最終的に23議席にとどまった。

翌日の朝刊各紙の一面には「歴史的大敗」と、大きな見出しで報道された。

前号で言及したように、森友学園や加計学園をめぐる一連の問題、国会終盤の組織犯罪処罰法の強引な国会運営に対する批判から、内閣支持率は大きく低下していた。

自民党にとっては大逆風の選挙になるとは思っていたが、これ程とは予想していなかった人がほとんどだろう。

 

これまでの自民党への高い支持の背景には、「受け皿がない」「他に選択肢がない」といった消極的な事情があったが、都議選では受け皿として小池知事率いる都民ファーストが登場し、自民党批判票を集めた形となった。

 

安倍総理は翌3日朝、首相官邸でのぶらさがり会見で「自民党に対する厳しい叱咤と深刻に受け止め、深く反省しなければならない」と語った。敗因について「安倍政権になって4年半、政権に緩みがあるのではないかという厳しい批判があっただろうと思う。しっかりと真摯に受け止めなければならない」とも言及した。

 

確かに、閣僚による失言や所属議員(特に安倍チルドレンと言われれる2回生)による不祥事など、「緩み」と言われても仕方がない出来事も数多くあった。

ただ、私は「緩み」よりも政権の「驕り」へ反省を求める声を、(地方公共団体の選挙が国政問題に影響されることの是非はともかく、)首都の有権者が示したと受け止めるべきだと強く感じる。

 

絶対的多数を擁して安定的な政権運営を続けてきた安倍政権。

自民党は今年3月の党大会で早々と党則変更し、総裁の3選を可能ともした。

これまで党内でも反対勢力はほとんどなく「安倍一強」といわれる体勢を保ってきた。

 

強いリーダーシップで安保法制をはじめ困難な法案も次々と成立させ、我が党の結党以来の課題である憲法改正も視野に入ってきた。4年半で延べ124の国と地域を歴訪する戦略的外交で、世界を牽引するトップリーダーの一人にも目されている。

その安倍政権を支えてきた国民の支持は、「他に選択肢が無い」という消去法の結果でしかなかったという事実が、今回の都議選で明らかになった。

 

局面を打開するにはまず国民の疑問に一つ一つ丁寧に答え、信頼回復に努めなければないない。前号でも言及したが、その第一歩として当面の課題である加計学園問題について求められれば、国会の場で説明責任を果たす必要がある。

記者会見で言及したように安倍総理は、積極的に国会に出席し丁寧に説明することで信頼回復を果たされるべきと思う。信頼回復なくしては自らの考えを国民に正しく届けることはできない。

 

憲法改正という大仕事を遂行する為にも、まずは信頼回復を最優先すべきだ。

「無信不立」。これまでも度々このコラムで言及してきたが、この言葉の実行が今また求められている。

戦略特区とは

通常国会閉会後、各メディアの世論調査が一斉に発表された。

第2次政権発足以来比較的高い水準を保ってきた安倍内閣の支持率だが、前回の5月調査と比較すると軒並み下落した。とりわけ厳しい結果が出たのは毎日新聞で、不支持率が44%(9ポイント上昇)となり、支持率36%(10ポイント下落)を大きく逆転した。

 

これは、“加計学園”をめぐる一連の対応や組織犯罪処罰法の与党の強引な国会運営に対する批判が招いた結果だ。特に加計学園対応については、各調査とも「安倍総理の説明が足りない」「納得できない」などと答えた人が7割以上になっている。

 

野党4党はこの件で国会での審査を要求しているが、自民党は応じる気配はない。野党は安倍総理が19日の記者会見で、「何か指摘があればその都度真摯に説明責任を果たして行く」と述べたにもかかわらず、与党が閉会中審査要求を拒否していると批判している。

 

世論調査の結果を反転させるためにも、総理の会見での発言を実行するためにも、国会での説明は必要だろう。ただ、選挙目当てのパフォーマンスではなく、事の本質について議論を深めなくてはならない。そのためにも東京都議選の期間は避ける方がよい。

本質議論とは、獣医数に関する総量規制と国家戦略特区制度の目的だ。

 

大学の獣医学部の総定員数は1980年代から30年以上にわたり930人で固定されてきた。この間に発生した鳥インフルエンザや口蹄疫といった家畜伝染病の流行によって、防疫対策の充実、そのための獣医師の社会的なニーズが高まっていることは考慮されていない。

 

私はこれまでから大学定員の制限によって、国内の特定人材の需給調整をすることに違和感を覚えている。国際的な資格の統一が求められる時代、国内の少子化が進む時代にあって、大学教育に求められるのは量(定員)ではなく質(内容)である。

従来、医師、歯科医師、獣医師の世界では、大学定員の制限により、供給抑制が行われてきたが、果たしてこの方法が良かったのか? これらの分野の資格者に必要なのは一定の質の確保であり、それは弁護士等と同様に国家試験で資格審査すれば足りるのではないか?

 

大学定員による総量規制手法は、人材の偏在という弊害も生んできた。新規獣医師は都市部(のペット獣医?)に集中し、畜産業が盛んな地方の家畜獣医の不足は常態化している。

 

このような国の行政による規制を実験的に緩和し、その効果を検証したうえで全国に拡大しようとするのが“特区制度”である。

そもそも、今治市での獣医学部新設は、平成19年から26年の8年間に15回にわたって構造改革特区制度(地方自治体の提案を国が認定する制度)を活用して国に求めたものだった。が、これらはすべて文部科学省に却下された。

 

このように規制を所管する省庁に判断を委ねていては、規制改革は前進しない。そこで、官邸主導で規制改革メニューを決定する方式をとったのが、平成25年にスタートした国家戦略特区制度である。

 

野党は、総理が学園理事長と古くからの友人であるというだけで 便宜供与疑惑があり、また役所における忖度があったかのように喧伝している。しかし、この国家戦略特区制度の本質からして、官邸サイドが規制所管省庁に指示を行うのは当然である。兵庫県養父市の農業特区についても、官邸の指導力で農業委員会から市長への権限移譲や企業による農地取得が認められた。

 

総理は24日の神戸の講演会で、今治市以外にも地域に関係なく意欲あるところには獣医学部の新設を認める方針や、さらには全国展開を目指したい旨も明らかにし、国民的な疑念の払拭にむけた意欲を示した。この総理の意見に私は賛同する。

 

獣医学部の特区制度で、前述の主旨で“一校に限り”認可対象としたのは、おそらく総量規制を維持したい方々の働きかけによるのではないのか?

議論されるべきは、文科省内の記録文書の真贋などではなく、規制改革の効用とそれを妨げる圧力団体の存否である。

暗雲

イギリスの総選挙は通常「議会任期固定法」(注)に基づき5年に一度行われる。次回総選挙は2020年のはずだった。ところがメイ首相は任期を3年残した議会を電撃的に解散し、総選挙に踏み切ったのは4月18日のこと。

 

そもそもメイ政権の誕生は、昨年6月のEU離脱の賛否を問う国民投票の結果を受けてのもの。EU残留を訴えていたキャメロン前首相の辞任により、その後を継いだ。保守党の党首選は経ているが、国民の審判は受けていない。

 

英国は3月29日にEU離脱を正式に通告している。交渉の期限は2年間で2019年3月末までに離脱に関する様々な条件整備をすることになる。この困難な交渉を主導する保守党政権が保有する下院議席は330議席だった。総議席数650議席の過半数はかろうじて超えているものの、安定過半数には達していなかった。

メイ首相が今回の総選挙に踏み切ったポイントは、EU市場からの離脱交渉の本格化に備えて政権基盤の強化を狙うこと。そして、勝利によってEU離脱交渉の進め方について、国民の信任を得ることにあった。

 

加えて、4月時点の支持率で労働党に20ポイント以上の差をつけていたことも、解散総選挙を後押しした。事実、主要マスメディアも選挙前には保守党の圧勝を予想していた。しかし、選挙のマニフェストに高齢者負担増を提案したことで情勢は一変、相次ぐテロ事件も追いうちをかけた。

 

6月8日の選挙の結果、保守党の議席は318議席に減少。基盤強化どころか過半数も失い、英国上院は、いずれの政党も過半数に達しない「ハングパーラメント(宙吊り議会)」となった。メイ首相は、北アイルランドの地域政党の協力を得て政権を維持する見込みだが、単独過半数の議席を失ったことについては、与党からも責任を問う声が燻っている。

 

英国のEU離脱交渉の方針は、「移民の受け入れを制限する一方でEUとの経済関係は維持したい」というもの。政権基盤が揺ぐなか、このような虫のいい話を強く主張することができるのか? 交渉の先行きに暗雲が漂いだした。テロ対策やエリア独立などの国内問題も含め、メイ首相には高度な政治的力量が求められている。

 

一方、大西洋を挟んだアメリカでも、大統領選挙へのロシアの干渉疑惑を巡る連邦捜査への介入問題で、トランプ政権にも暗雲が漂っている。8日の上院公聴会でコミー前FBI長官は、いわゆる「ロシアゲート」をめぐりトランプ大統領から捜査中断の圧力を受けたと証言したが、大統領は「そんなことは言わなかった」と、自らも宣誓証言をする用意があることを表明。双方とも相手方がウソをついていると非難しあっているが、大統領の言動が「司法妨害」に当たるかどうかは、ここに至ってはモラー特別検察官に委ねざるを得ない。

 

我が国の企業は、正しく英語国であるイギリスにヨーロッパの拠点を置いているケースが多い。明治の近代化の時代には、イギリスから多くを学んだ。アメリカは言うまでもなく、日本にとって最も重要な同盟国であり、70年にわたり世界のリーダーであり続けてきた。この両国の不安定な政治情勢は、対岸の火事というわけにはかない。

両国の状況、そして世界各国の動きをしっかり見据え、経済面でも安全保障面でも必要な対処策を考えていかなくてはならない。

 

幸い、我が安倍政権、自公連立政権は、比較的安定した運営を続けている。しかし、よくよく考えてみると、自民党や内閣への高い支持率は、野党の力不足に助けられているだけかもしれない。現状の国会での質疑状況では積極的な支持がいただけるとは思えない。

 

通常国会の会期末を目前に控え、テロ等組織犯罪準備罪法案や加計学園問題など、すっきりしない問題が残っている。安倍政権が国民の信頼を得て、対外政策にしっかりと取り組むためにも、これらの内政問題に真摯な態度で丁寧に説明責任を果たし、迫りくる暗雲を消し去る必要がある。

 

 

 

注)議会任期固定法:2011年に制定され、総選挙の選挙日を原則として5年ごとの5月の第一木曜に固定した。この法律により、首相の助言による国王大権に基づく議会の解散権は失われた。内閣は議会の解散権を失ったことになる。
ただし、①内閣不信任案可決後、新しい内閣の信任決議案が可決されずに14日経過した場合と、②下院の議員定数2/3(434議席)以上の賛成で早期総選挙の動議が可決された場合は、解散となる。今回の解散総選挙は②のケース。

G7

昨年の伊勢志摩サミットからがらりと顔ぶれが変わり、首脳7人のうち4人が初参加となった今年のG7(サミット・主要国首脳会議)が、5月26日と27日の両日、イタリアの景勝地シチリア島タオルミナで開催された。

これまでのG7は、自由と民主主義、人権、法の支配といった共通の価値観によって世界をリードしてきた。そして、常にその先頭に立ってきたのは米国だった。しかし、その米国を率いるトランプ大統領の主張は内政優先の「米国第一主義」。主役の豹変とともに、これまでの会議とは様相が一変し、首脳宣言の取りまとめの難航が予想されていた。

 

その予想どおり、北朝鮮やテロを巡る宣言については異論なく合意されたものの、自由貿易や気候変動を巡るパリ協定遵守の議論では、トランプ大統領の主張が欧州諸国と対立し、会議は混乱した。

 

貿易に関するトランプ大統領の発言は、長年にわたりサミットが目指してきた自由貿易ルールの確立からはかけ離れた自国の利益重視、二国間取引の主張。米国の貿易赤字解消を目指すごとく、「米国の関税に併せて、各国も関税を引き下げるべき。できなければ対抗措置として米国の関税を引き上げる」と迫った。安倍首相をはじめ各国の説得により「保護主義と闘う」という文言は宣言に盛り込まれたものの、トランプ大統領の言動は保護主義者そのものであり、他の6か国との亀裂は深い。

 

地球温暖化対策については、自国の石炭産業保護を理由に「パリ協定」の離脱もほのめかしたトランプ大統領。26日の討議で欧州各国から非難を浴びた。そんななか安倍首相は「環境保護は重要だが、明日の雇用が失われると不安を持つ人もいる。温暖化対策はビジネスと両立できる。ドナルドの力が発揮できる分野じゃないか」と、大統領の顔をたてるとともにパリ協定の迅速実施も宣言に併記し合意形成に努めた。サミットでの両論併記は珍しいが、首相の発言によって決定的な亀裂は一応回避された。しかし、米国はパリ協定遵守への回答を“留保”したのであり、“同意”はしていない、欧州対米国の火種は残ったままだ。

 

首相はまた、G7諸国とロシアとの関係が改善すれば日露交渉に有益と判断したのか、ロシアとの対話の重要性にも言及したほか、北朝鮮のミサイルを「新たな段階の脅威」と位置づけて「国際社会における最重要課題」と宣言に盛り込んだ。

G7の根幹をなす「共通の価値観」が不明瞭となり、結束力に揺らぎをみせた今回のサミットだが、6回目の参加となった安倍首相にとっては、歴代首相のなかでも、最高レベルの存在感を示した会議だったのではないだろうか。

 

G7も終わり、各国首脳は厳しい国内問題を抱えそれぞれの母国に帰って行った。

メイ首相には総選挙が、トランプ大統領にはロシアゲート疑惑が、そして安倍首相にはテロ等準備罪の参院審議と加計学園の獣医学ぶ新設問題が待ち受けている。

サミットで共同宣言に盛り込まれた様々な課題に責任を果たすためにも、まずはそれぞれの国内問題を解決していかなければならない。国政を預かるトップリーダーには休日はないと言えよう。