視界不良

平成29年も松の内が明け、家々の玄関先の門松やしめ縄もすっかり姿を消した。この“松の内”と呼ばれる期間、前年の1213日から始まるらしい。私もこの歳になって初めて知ったのだが、先人たちは新年を迎える半月も前から正月飾りで装いを整え、年明けを待っていたようだ。

今年の初春の日本列島、“松の内”の間は、概ねうららかなお天気に恵まれた。

しかし、“松の内”が明け、世の中が本格的に活動を始めたとたんに、列島は大寒波に包まれ、世界は波乱の年の幕開けを迎えたようだ。

17日には、英国のメイ首相が「EU離脱」を正式に表明した。昨年6月の国民投票の時点で分かっていたことではあるが、離脱演説は改めて世界に衝撃を与えた。「移民制限の権限を取り戻す」という限定的な目的のために、英国は、人、モノ、サービス、資本移動の自由を原則とする「EU単一市場」を放棄することになる。

EUとの間で2年間の交渉期間があり、その後も一定の経過措置が設けられるとは思うが、その間に我が国の企業も営業拠点や工場の移転等の欧州戦略を練り直さなくてはならない。政府としても、EUとのEPA交渉とは別に英国向けの経済連携交渉もスタートする必要がある。さらには、このようなナショナリズム優先が他の諸国に波及すれば、EU崩壊といった事態も想起される。今年の欧州諸国の動向は予断を許さない。

20日(日本時間21日未明)には、米国のトランプ新大統領の就任宣誓式が執り行われた。数十万人の観衆を前にした就任演説で、今後の政策は米国を最優先する「米国第一」を改めて宣言し、「米国を再び安全にする。米国を再び偉大にする」と締めくくった。

ホワイトハウスのホームページには、即日、TPPからの離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉等の新政権の基本政策が掲げられた。残念ながら、その内容は大統領選協中の無謀ともいえる主張そのものである。米国が一部の国民の利益を優先するあまり、短絡的に保護主義に走れば、結果として多くの国民の利益を奪うことになるのではないだろうか。そして、世界経済にとって、米国という大市場の前に壁が生じることは重い足かせとなるに違いない。 

トランプ大統領は就任直前に、英国のEU離脱を「賢い選択」と評価したり、シリア等の難民を積極的に受け入れているメルケル独首相の政策を「破滅的な間違い」と扱き下ろすなど、ナショナリズムを他国にも勧めるがごとき発言を繰り返してきた。

今後もこのような発言が続くようであれば、G7における米国のリーダーシップは凋落するだろう。少なくとも国際政治における我が国の役割が重要度を増すことは間違いない。海外との交流の中で成長してきた日本だからこそ、世界の繁栄を導く自由貿易を堅持しなければならない、新しい多国間の経済連携システムの構築を主導しなければならない。 

このような世界情勢の中、20日には第193通常国会が召集された。審議すべき課題は、補正予算と当初予算の早期成立、働き方改革による生産性の向上、介護保険など社会保障制度改革、テロ等の組織犯罪対策強化等々多岐にわたる。今年は、天皇陛下の退位をめぐる法整備や施行70年の節目を迎える憲法の議論も進めなければならない。政府にとっては、これらの内政課題に加え、外交と通商政策のかじ取りが例年以上に重要となる一年となりそうだ。 

いずれにしても今年は、ベルリンの壁崩壊以来の世界的な「変革の年」となりかねない。

昨年の一文字世相は「金」であったが、今年は早くも「乱」だとか「変」だとか揶揄されている。私は、このような国際的信頼関係が重視される年だからこそ、国民から政治への信頼が必要な年だからこそ、「信」と言える一年にしたいと思っている。

2017年新春を迎えて

明けましておめでとうございます。

 

昨秋公表された国勢調査で、日本の人口が初めて減少局面に入ったことが確認されました。今後50年で総人口は約4千万人減少し、8500万人程度になると見込まれます。しかし、人口の減少は国力の減退を示すものではありません。例えば欧州主要国のドイツ、フランス、イギリスの人口は8000~6000万人です。これらの国々は我が国以上の存在感を世界に示しています。それは国外の人々を惹きつける固有の文化や技術を保有しているからではないでしょうか。

 

アジアで最初の成熟国家である日本も、世界の人々を魅了する個性を磨き、発信しなければなりません。そのためには新時代に相応しい戦略が必要です。

一つには、次代を担う人材の育成。今世紀、日本のノーベル賞受賞者はすでに17名。米国に次ぐ数です。この流れを加速するため、基礎研究を志す若者を増やさなければなりません。科学分野に限らず「人材の育成」こそが未来の日本を拓く最大の投資となるでしょう。

二つには、日本各地の文化創生。経済効率重視の東京一極集中は地方の疲弊を招きました。生活文化重視の時代、その主役は地方です。各地域で培われてきた人々の営みこそが、日本文化の源です。地方を重視し個性を磨くことが我が国の文化力を高めるでしょう。

三つには、開かれた国際社会の形成。台頭する排他主義的な発想は、世界の発展を阻害します。TPP交渉で我々が求めたものは、知的財産を含む新時代のルールづくり。すでに情報は世界を飛び交い、人と物の流れも国境を意識しません。この時代に相応しい自由な交流と連携こそが地域間格差を解消し、世界の共栄の礎となるでしょう。

 

これらのビジョンを実行する基盤は、政治への信頼の確立です。「信なくんば立たず」を肝に銘じ、しっかりと国民の皆様に説明し、そして責任を持って実行に移します。

今年も格別のご指導とご鞭撻をお願いいたします。

年の瀬に思う

平成28年(2016年)の申年もあと数日。恒例の今年の世相を表す漢字は、オリンピックの年らしく「金」が選ばれた。「金」は2000年のシドニー五輪、2012年のロンドン五輪の年に続き3度目となる。

 

オリンピックの舞台となったリオは、日本から見ると地球の真裏で時差は12時間。朝と夜が逆転する。日本中を睡眠不足に陥れた17日間、日本は金12個に銀8個と銅21個の計42個という過去最高のメダルを獲得した。その期間(8月5日~21日)はちょうど国会が夏休み、地元スケジュールの調整も比較的容易で、私も思う存分TV観戦することができた。

勝利して感極まって流す涙もあれば、敗れて流す悔し涙もあった。日の丸を背負って大活躍し、私たちに大きな感動を届けてくれた選手たちに改めて拍手を送りたい。

 

オリンピックと言えば、2020年の東京大会の施設整備や運営方法について国、東京都、組織委員会の間で協議が行われている。費用負担を巡って議論が紛糾しているようだが、一日も早く問題を解決し、大会成功に向けて力を結集して頑張って欲しい。

 

私は今年もライフワークである科学技術政策を中心に活動をしてきた。

党科学技術・イノベーション戦略調査会長として、4月には一億総活躍社会実現の旗印の下、科学技術振興をアベノミクスの大きな柱の一つと位置づけた。予算編成の季節は、「科学技術は未来への先行投資」と訴え、新規・拡充予算の獲得に奔走した。その成果として、歳出抑制の基調のなか、科学技術振興費はかろうじて0.9%の伸びを確保できた。

 

秋の日本人のノーベル賞受賞ニュースも年中行事となってきた。今年は大隅良典先生が昨年の大村智先生に続き、生理学・医学賞を受賞された。受賞決定後の早い段階に科学技術・イノベーション戦略調査会に出席いただく機会に恵まれたが、先生からは「若手研究者が十分に研究に取り組める環境の実現」を求める言葉が繰り返された。

そう言えば2012年に、iPS細胞で生理学・医学賞を受賞された山中伸弥先生も「日本は科学が国を支える柱、ぜひ多くの若者たちに科学者になって欲しい」と言っておられた。

 

日本の未来を切り拓く上で、人材の育成は大きな課題である。

その意味でもこの3カ月間、与党のプロジェクトリーダーとして、大学生を対象とする「給付型奨学金」の制度設計に取り組んできた。

学ぶ意欲と能力があるのに、経済的事情で大学進学を諦めざるを得ない子どもたちの一助になればと願っている。今後もこの課題に全力で取り組む所存である。

 

今年は世界が大きく揺れ動いた一年でもあった。

英国では6月にEU離脱の是非を問う国民投票が行われた。その結果は、予想に反するEU離脱派の勝利に終わり、キャメロン英首相が辞任に追い込まれた。

米大統領選挙でも大半の予想を覆し、共和党のドナルド・トランプ候補が民主党のヒラリー・クリントン候補に勝利。トランプ氏は来年1月20日には合衆国大統領に就任する。

米英両国とも既存秩序体制(エスタブリッシュメント)に対する大衆の不平・不満が底流にある。全世界の経済活動が一体化し、(移民も含め)人の移動も容易となる一方で、移民排斥をはじめとする排外主義的思想の拡大は気にかかるところである。

 

今年から来年にかけて、昨春伊勢志摩に集ったG7メンバーが相次いで、その座を退くことになる。すでにキャメロン英首相が去り、レンティ伊首相も退陣。オバマ米大統領は間もなく任期を終える。オランド仏大統領も来春の再選に不出馬を表明した。以上で7人中4人が交代。さらにドイツでは、秋に連邦議会総選挙が予定されているが、メルケル独首相の支持率は難民施策を巡って低迷している。

 

サミットにおいて古参となる安倍総理の地位は当然高まるだろう。そして、その言動はG7の動きを左右するのではないだろうか。日本が国際社会でリーダーシップを発揮するためにも、国内政治の安定が求められる一年になりそうだ。

 

今年も私どもの政治活動に対してご理解ご協力を賜り、有難うございました。

来年も引き続きご支援ご鞭撻をお願いします。良い年をお迎え下さい。

給付型奨学金

OECD(経済開発協力機構)加盟34か国の中で、大学生に対して返済不要の公的な給付型奨学金制度が無いのは日本とアイスランドの2か国だけなのは、ご存知だろうか。
そのアイスランドも国立大学の授業料は無料で、大学院研究コースには給付金制度がある。
日本は大学の授業料がかなり高額にもかかわらず、卒業後に返済する貸与型(有利子・無利子)の奨学金のみ。実質的に国が大学教育を無償で提供する制度を持たないのは、我が国だけだ。

昨年の秋以降、自民党教育再生実行本部では「社会的格差が広がる中、学ぶ意欲と能力があるのに、経済的事情で大学進学を断念せざるを得ない子供たちを救えないものか。日本の未来のために放っておけない。教育費負担の軽減のために、新たな奨学金制度の創設について検討する」との認識のもと議論を重ねてきた。

当時私は議論を取りまとめる本部長の任にあり、44日には自公両党で策定した「教育再生の提案」の中で、大学生らを対象にした返済不要の“給付型奨学金”創設を安倍総理に提言した。

7月の参院選に際しては、党の公約検討チームのメンバーとして、「教育投資は未来への先行投資」と位置づけ、公の財政支出の抜本的拡充と財源確保を政権公約集「Jファイル」に明記した。それら一連の経緯もあって、82日に閣議決定された“一億総活躍プラン”の中で「給付型奨学金については、平成29年度予算編成の過程を通じて制度内容の結論を得、実現する」旨、明記されるに至った。

そして9月中旬、下村博文幹事長代行から「文部科学部会に設置する給付型奨学金のプロジェクトチームの座長を引き受けて欲しい」旨の連絡があった。

経緯からすれば引き受けるべきなのだろうが、ライフワークの科学技術政策の拡充に奔走していたため、最初は逡巡した。何度かのやり取りの後、それでも「どうしても引き受けてほしい。しっかりとサポートするから。貴方しか適任者がいない!」とも。
実はわたしはこの言葉に弱い。最終的に引き受けることになったが、下村氏は言葉とおり文科大臣経験者5人を含む強力なメンバーを揃えてくれた。

キックオフは926日。
まず、現況についての認識を共有した上で論点整理からスタート。主な論点は、①制度の主旨、②給付対象、③給付額、④給付方法、⑤開始時期、⑥財源に整理された。
プロジェクトチームの議論が白熱したのは②給付対象、③給付額、⑥財源についてで、結論を得るまで熟議は8回に及んだ。その後、公明党との与党間調整を経て11月末に方針を決定し、安倍総理に申し入れを行った。

決定された給付型奨学金制度の原案の概要は次のとおり。
・対象者は、住民税非課税世帯の若者。学習成績が十分に満足のできる高い成績を収めた生徒、科外活動で優れた成果を上げ概ね満足できる学習成績を収めた生徒。
・給付対象者数は2万人程度。
・対象学校は、国公立大、私立大、国公立短大・専門学校、私立短大・専門学校。
・給付額は、国公立は自宅2万円で自宅外3万円。私立はそれぞれ3万円と4万円。
・実施時期は、平成30年度。ただし経済的負担が特に厳しい学生を対象に限定して来年度から先行実施。
・児童養護施設出身者ら、社会的養護を必要とする学生らへの特段の配慮をするためにイニシャルコストコストを支援(入学金24万円支給)。

この制度骨子をもとに政府・与党は来年の通常国会での法制化を目指している。
が、社会保障費が毎年5000億円規模で増嵩する厳しい財政事情下にあって、財源確保が最大の難関である。
新制度の給付規模は、本格実施初年度の平成30年でも70億円強、4学年が出そろう平成33年度からは毎年220億円程度となると試算している。将来は実態に応じた見直しと制度の拡充も必要になると考える。

200億円を超える金額を少額とは言わない。
しかし、資源に恵まれない我が国にあっては人材が資源そのものである。その人材を育成する未来への投資を実現するために、この程度の財源をねん出することは政府の責任ではないだろうか。
一億層活躍社会の実現に一歩近づくためにも、制度設計に関わった責任者として、政府の英断を切に願っている。

冬将軍

真冬並みの強い寒気の影響で、24日(木曜)は関東甲信の各地で雪が降った。11月に都心で初雪を観測するのは54年ぶり、しかも1875年(明治8年)の気象統計開始以降初めての積雪となった。

 

11月はともかく冬に雪が降るのは毎年のことで、雪対策の経験も積んでいるはずなのだが、相変わらず都会は雪に弱い。

今年1月の大雪では公共交通機関のダイヤが大幅に乱れ、鉄道やバスは本数を減らして運行したほか、空の便の欠航も数多く発生した。降雪が朝のラッシュの時間帯と重なったこともあり、都内の鉄道各駅には乗客がホームにあふれ駅構内への入場制限するところが相次いだ。積雪が多かった地域では路面が凍結するなど、雪が止んだあとも混乱が続いた。

 

今回は1月ほどではなかったが、昼間も気温が4°Cまでしか上がらず、街行く人は足元の悪い中コートの襟を立てて足早に行き交う姿が印象的であった。関東を中心にスリップ事故や転倒で怪我をした人は350人に及んだという。

週末にかけて寒さは少し緩んだものの最高気温は15°Cに至らず、予報では今週も寒い日が続くらしい。いよいよ冬将軍来襲かと思われる。

 

一方、国会では参議院でのTPP承認案の審議、また衆議院では年金改革法案の本会議での採決を巡って激しく衝突している。

萩生田光一官房副長官が23日都内の会合で、TPPを巡る民進党の国会対応を『田舎のプロレス。ある意味、茶番だ』と言ったとかで、不適切だったと謝罪することとなったが、表現は不適切だったかもしれないが、言いたくなる気持ちも分からないでもない。

 

発言に抗議した野党も委員長席に詰め寄っていながら、「年金カット反対!」とか「強行採決反対!」のビラを、TVカメラに向けて掲げて叫んでいるのは何故か?

与党が提出する法案に野党が抵抗し審議をボイコットしたりするのに、採決しようとすると阻止しようと委員長席に詰め寄る。毎回繰り返される光景は、与党の横暴による強行採決に見えるよう演出しているとしか、私には思えない。

 

今国会の会期は月末30日まで。TPPや年金改革法案を成立させるためには会期延長は避けられない。延長を巡っての与野党の対決は不可避だ。寒い空模様とは反対に国会では与野党の熱い(?)攻防が続いている。

 

今年も早や師走を迎えようとしている。

税制改正、予算編成と与党にとっては1年の中でも最も忙しいシーズンを迎える。

私がプロジェクトチームの委員長として取りまとめを進めてきた“給付型奨学金”も、29年度?からの導入も視野に入れ、与党内で大筋合意がほぼ整った。いずれこのコラムでも詳報したい。

「未来への責任」を果たすために、臨時国会の終盤戦と来年度新政策のとりまとめ、ともに最後まで緊張感を持って臨みたい。

アメリカの選択

世界の行く末に大きな影響を与える4年に一度のビッグイベント“アメリカ大統領選”。

全米で1年に渡り繰広げられた選挙戦は、ご承知のとおり、去る8日劇的な幕切れを迎えた。

 

メディアの事前予想は僅差ながらクリントン候補の優勢を報じていたが、最終的に戦いを制したのは序盤では泡沫候補扱いであったトランプ候補。党の内外を問わず、既成勢力を敵視し、歯に衣着せぬ物言いで打ちのめす手法には猛烈な抵抗もあったが、結果的にトランプ旋風を巻き起こし栄冠を勝ち得た。

結果を受け私の脳裏に浮かんだことは、6月に行われた英国のEU離脱に関する国民投票だった。この投票も事前予測と真逆の結果となった。

 

英国のEU離脱は、移民の増大により現国民の雇用が奪われ、犯罪が拡大するのではないかという漠然とした社会不安が底辺にある。これが、極右集団による移民排斥運動によって助長され、欧州統合によるメリット、現在得られている経済繁栄の利点を忘れさせてしまった。

 

米国でもリーマンショック後の不況に、有効な対策を打てない政府や経済界に対する不満は根強いものがある。上位1%の持てる者が346%の富を有し、次位19%の者が505%の富を有すると言われる格差社会に問題があるのは事実。これに対する米国民の怨嗟の声は止めることはできない。

自動車産業で栄えた旧工業地帯がグローバリズムに取り残され、これによって“プアーホワイト”と呼ばれる集団に脱落した中産階級労働者が、改革の希望の星をトランプに求めた。社会の閉塞感の蔓延とともに、この動きが全米に広がったのは自然の流れとも言える。

 

米英双方とも、既存体制側(エスタブリッシュメント層)に対する大衆の不平が予想以上に大きかったということだ。

クリントン候補はファーストレディ、上院議員、国務長官を歴任するなど、政治エリートの道を歩んできた。片やトランプ候補はビジネスエリートとは言え、行政経験も政治経験も軍歴も無い。

変化を求める国民の声は、長らく政治の舵取り側にいたクリントン候補より、ビジネス社会での成功者であるトランプ候補への期待となり投票行動に結びついたということだろう。

 

英米国民どちらの行動も理解はできる。しかし、移民排斥やアメリカファーストと言った排他主義、自分たちさえよければ良いとする内向きの思考が全世界に広まるのは阻止しなければならない。

最早、全世界の人、物、金、情報の流れは一体化し、その分断は何らかの歪み、デメリットを生み出すに違いない。世界は協調と共栄への道を探るべきであり、先進国にはその推進役を担う責務がある。

 

古い話になるが、1992113日、私はアーカンソン州リトルロックでビル・クリントン政権の誕生祝賀会場にいた。当時アメリカで行われていた「電子投票」を視察するための訪米中、大統領誕生の瞬間に臨場するために急遽予定を変更したのだ。

当地はクリントン氏の地元であるにもかかわらず、祝賀会にもかかわらず、「俺はクリントンが大嫌い」とか「私はブッシュ支持だ」と堂々と表明する人たちが少なからずいた。あの時私は、お互いが堂々と自らの考えを表明しつつも、互いに相手の主義主張も受け入れている姿を目のあたりにし、アメリカンデモクラシーの懐の深さを垣間見た気がした。

 

今回の選挙戦では候補者同士が聴くに耐えない中傷非難合戦を繰り返し、支援者間でも激しい対立が見られた。今なお、全米各地で選挙結果に不満を持つ集団が反トランプデモを展開している。

しかし、私はアメリカンデモクラシーの力に期待したい。非難合戦はまもなく収束し、米国民は一本化するはずだ。客観的に見れば今回の選挙の結果、オバマ政権一期目から続いているねじれが解消され、大統領も共和党、上下両院とも共和党が多数という、極めて安定した体制が生まれる。党内方針さえ定まれば政権運営はずっと楽になるはずだ。

 

超大国アメリカが内向きの自国中心主義に陥り、世界秩序の安定維持や経済発展を牽引する役割を放棄することは、あり得ない、と言うよりも許されない。

トランプ氏もそれを理解しているのか、選挙後は従来の過激さが影を潜め、一変して穏便な発言に終始している。政権移行チームにも共和党主流派からの登用が報じられている。新政権が発足するまで2ヶ月余り、現実的な政策の立案には十分な時間がある。

 

安倍総理は、各国首脳の先陣を切って、17日にトランプ氏と会談する。日米の不安、世界の不安を払拭するため、この会談の意義は大きい。

アジア太平洋の未来に向けて、世界の繁栄に向けて、今こそ日本のリーダーシップが問われている。地球を俯瞰する安倍外交の出番だ。

2016年、残り2か月

播磨地方一円の秋祭りが終わり、先週末には西日本に木枯らし1号が観測された。季節はいよいよ秋から冬へと向かう。今年もあと2ヶ月を残すのみ、臨時国会も折り返しを過ぎた。

衆院では10月14日から、TPP(環太平洋経済連携協定)を巡って特別委員会で審議が行われている。この協定の承認が臨時国会の最重要案件である。
政府与党は11月30日の会期内の成立を目指して、週末の28日(金曜)の衆院通過を目論んでいた。ところが、与党理事や関係閣僚の委員会強行採決に関する不穏当な発言で審議が度々ストップするなどして、採決は週明けにずれ込んだ。

衆院を通過した条約案は30日以内に参院で議決されない場合は自然承認となる。この「30日ルール」適用で会期末までに承認されるタイムリミットは、11月1日(火曜)である。
政府与党は1日の衆院通過をまだ諦めていないが、慎重審議を求める野党の反発は必至だ。成立を確実にするために会期延長も視野に入れているが、週明け以降の国会は緊迫した展開になると予想される。

世界のどの国よりも、人口減少のスピードが速い日本。この国にとって、世界各国との経済連携なくしては、将来の経済発展はあり得ない。TPPはその先駆けとなる協定だ。今後、EUとのEPA、東アジア全域のRCEP、環太平洋全体のFTAAPのひな形ともなるのがTPPである。痛みを伴う分野もあるだろうが、国家全体の利益を求めて、2010年の民主党政権時代から交渉に参加し、5年間の困難な協議を経てたどり着いたのが今の条約案である。

野党は慎重審議を主張するなら、審議拒否(退席)などせず、出席して堂々と論戦すれば良い。もちろん、強行採決発言は不穏当なものであるが、「強行採決しないと約束しないなら審議に応じない」という野党の主張も、如何なものかと思う。私にはスケジュール闘争にしか思えない。

“国会劇場”と揶揄される、あいも変わらない与野党の駆け引きを国民はどの様に受け止めているのだろうか?
おそらく「どっちもどっち」というのが大方の受け止め方だろう。
11月1日に採決をするにしても会期を延長するにしても、どこかの局面で緊迫した場面は避けられない。

27日、昭和天皇の末弟で今上陛下の叔父にあたる三笠宮崇仁親王殿下が、入院中の都内の病院で薨去(こうきょ)された。百歳。
戦前は旧日本陸軍参謀として大陸で従軍。戦後は一転、東大文学部研究生として「古代オリエント史」を専攻し、歴史学者として大学の教壇にも立たれられるなど、学問、スポーツといった幅広い分野で国民と親しく接せられ、国民の福祉向上のために貢献してこられた。
特に、戦火をくぐり抜けられたご体験からか、一貫して平和の尊さを訴えられた宮様であられたことは国民が広く知るところである。心からご冥福をお祈り致したい。

今年もあと2ヶ月。季節の変わり目で寒暖の変化が激しい今日この頃、皆様もくれぐれも体調管理に気をつけて頂きたい。

ふるさとの宝

数度に亘る台風の来襲や集中豪雨など天候不順に見舞われ、猛暑にも悩まされた今年の夏。
10月に入ってからはやっと秋らしくなり、このところは「朝夕はめっきり涼しくなり、日に日に寒くなって来る・・・」などの言葉が様々な挨拶の冒頭で使われるようになってきた。

そんな中、13・14日には我がふるさとの一年で最大のイベント、曽根天満宮秋季例大祭が挙行された。
今年は2日とも絶好の祭り日和に恵まれ、町中が老若男女問わず大いに盛り上がった。我が曽根をはじめ播州地方(特に浜手)の一年は“祭り”を中心に廻っていると言っても過言ではない。祭りが終わった次の日から来年の祭りにむけて、新しい暦が始まるのだ。10月末には各町で打ち上げや反省会が行われ、来年の祭りに向けての思いを熱心に語り合う。それほどに生活の中で“祭り”は重要な地位を占めている。

曽根天満宮では正月の初詣に、振る舞い酒とカレンダーの無償配布が恒例となっているが、カレンダーを飾るのはもちろん各町の屋台の雄姿だ。これは大人気の品で、手に入れるには、紅白が終わる前から行列していただかなくてはならない。この氏子青年会によるカレンダー配布が始まってから、初詣のお客さんが爆発的に増えたという。
ちなみに正月の本殿には真新しい大しめ縄が飾られているが、それは氏子青年会が梅雨明けの頃から天日干しした藁で年末に編み上げたものである。

秋祭りの本格的な準備は、お盆が明ける頃からそれぞれの町内でスタートする。8月中は下準備の会合が頻繁に行われる。9月になると、各町持ち回りの“一ツ物”(*印)当人が決まり、あちこちの屋台蔵からは太鼓の音が聞こえてくる。

9月末からは屋台の飾り付けがはじまり、主な通りには祭り提灯と屋台のシンボルカラー紙垂棒が飾られ、徐々に祭りモードが町内の隅々まで浸透していくのだ。
このころから神戸新聞の播磨版では、どこそこの町の屋台が新調されたとか、どこそこでは太鼓合わせの稽古を始めたとか、秋祭りの話題が毎日のように紙面をにぎわすようになる。

10月10日過ぎになると、まちに若者が増えてくる。東京や大阪に出て行った者が祭りのために帰ってくるのだ。お盆や正月に帰省しなくとも、秋祭りには必ずふるさとに帰り、締め込みをしめて屋台を担ぐ。それが曽根で生まれ育った若者の責務だ。
13・14日の本番を迎えると、近隣から多くの見物客も訪れ、人々があふれる境内での屋台練りが始まると祭りは最高潮に達する。

古来より“鎮守の森”と称される神社は、地域を見守ってきたシンボルであり、街づくりの中心でもあり地域の人々の心の拠りどころであった。
今、人口減少による地方の衰退が大きな課題となっている。大都市圏の力に依存せず、地方から元気をつくっていくためには、住民一人ひとりのふるさとへの思いが一番大切だ。
各地域の神社で執り行われる“祭り”への参画は、ふるさとへの意識醸成に大きな力となるのではないだろうか。

我がふるさと曽根の祭りは、数百年の歴史(神社は平安時代の創建)を有する。今の様な祭りは氏子である住民が長年にわたり作り育て上げてきた行事で、地域の宝であり、誇りである。故に遠方へ巣立っていった若者も祭りの季節を忘れない。だから、彼らは決して“ふるさと”を忘れることはない。
地域創生のためにも、歴史あるふるさとの宝を次の世代にしっかりと引き継ぎ、さらに繁栄させたいものだ。

*一ツ物:祭りの期間中に一ツ物当人(6~7歳以下の男子児童)に神が宿り、その所作や言葉で神の意志を見ようとする最も大事な祭りの神事。

蓮舫新代表

民進党の新党首選びは、15日の選挙の結果、大方の予想通り圧倒的多数の支持で蓮舫氏が代表に選出された。岡田前代表、野田前首相、細野元環境相など、幅広い支持を取り付けて出馬したこと、党勢の低迷が続く中、ルックスや弁舌も含め次期衆院選の顔として党員の期待を集めたことが勝因のようだ。東京都知事選の切り札としての出馬打診を「国政でのガラスの天井を破りたい」と一蹴した甲斐があったということか。

他党の内部手続きにあまり言及したくもないが、今回の民進党代表選、「政権交代を目指す野党第一党の代表を決める選挙」という意味では、政策論争がもの足りず、国民的な盛り上がりにも欠けた感がある。中国でのG20開催、北朝鮮による核実験やミサイル発射など、世界が注目する事象が間近にあったにもかかわらず、世界経済や安全保障に関する言及が乏しかったことが一因かもしれない。

北東アジアの外交・安全保障に緊張感が高まっていることは、国民の知るところである。にもかかわらず、民主党代表選においては、ほとんど争点にならなかった。沖縄基地問題や安保法制についての言及はあっても、目の前で繰り返される暴挙への対応案は聞こえてこない。
国政に携わる者の第一の責務は、国民の生命と財産を守ることである。寄り合い所帯の多様性の故か、党内で基本政策をまとめ切れず、刻々と変化する課題に的確に対応できない様子。旧民主党政権を崩壊させた党内事情が依然として残存しているようで残念だ。

そもそも民進党は勤労者の代表である連合を支持基盤としているはずだ。それにもかかわらず、雇用改善に大きく寄与したアベノミクスをなぜ批判するのか?また、なぜ財政収支の早期均衡達成にこだわり消費税増税を急ごうとするのか?理解しがたい面がある。かつての労働者政党なら、政府支出の増大による仕事量の確保を訴えていたのではないだろうか?
世界的に見て、リベラル政党の中心的政策は雇用確保対策であるはずだが、安倍政権への対立軸を強調するあまり、党の政策理念を忘れ去っているようにも見える。

選挙途中からは蓮舫氏の“二重国籍者”疑惑も浮上した。各所からの指摘に対して説明が二転三転したあげく、結局、事実の弁明は、党員、サポーター、地方議員票の投票が完了した後の13日となって、今も自身の台湾籍が残っていることを明らかにし、謝罪した。つまり、蓮舫氏は1985年に日本国籍を取得した後も台湾籍を有し、国会議員となってからも二つの国籍を維持し続けていたことになる。

(万が一?)総選挙で勝利すれば、新政権を率いる総理の大役を担うのが野党第一党の党首である。違法かどうかはともかくとして、道義的に、外国籍を有するまま代表戦に立候補するというのは余りにも自覚がない、軽率ではないだろうか。外野からの指摘がなければ、台湾籍の日本国総理大臣誕生という可能性もあり得たのだから。
遅すぎる釈明と謝罪も含め、他党のことながら代表選の正当性に疑義が生じ、今後の党運営に影響しないかと心配する。

安倍総理は26日から始まる臨時国会で「党首同士で正々堂々の議論をさせてほしい」と語ったが、民進党内からは早くも人事を巡って不協和音が聞こえてくる。ベテラン議員の一人は、「新たな船出だがタイタニックかもしれない」と言及したらしい。

新代表の船出は必ずしも順風満帆とはいかないようだが、民進党にしっかりしてもらわないと国会での政策論議も活性化しない。個人的見解に依存した意見・主張のやりとりはもう必要ない。野党第一党として、政権交代可能な「影の内閣」を準備し、組織としての統一政策をとりまとめてもらいたい。そのためには、まず党内ガバナンスの強化が必要だろう。
民進党の積極的な政策提言により、緊張感のある政治状況が生まれることが、今この国の政治に求められている。政党間の競争が無くては、我が国の政治の進歩もままならない。
その意味で蓮舫新代表が、秘めたる経営手腕を発揮されることを期待する。

対中外交

今日4日から中国浙江省杭州市でG20が開催される。内政外交とも行き詰まり感のあるホスト国・中国政府にとって、世界経済の成長を中心課題に据えてG20を成功に導くことが必須である。 このためか、安倍首相の先遣として訪中した谷内正太郎国家安全保障局長に対して、李克国首相が自ら対応するなど、なりふり構わぬ“対日重視”外交活動が見受けられる。

先月末の日中韓外相会談では、王毅外相が「海空連絡メカニズム」(偶発的な衝突を防ぐホットライン)の設置に関して、これまで難色を示してきた姿勢を一転させる発言が注目を集めた。

我が国外交の懸案の一つが、東シナ海、南シナ海における平和の確立、すなわち中国の領土的野心とそれに基づく実行行為に歯止めをかけること。安倍首相はG20の場で、東・南シナ海で展開される中国の暴挙に対して、国際法に則った毅然とした対応を望む姿勢だ。
中国政府が対日重視の姿勢を強めているのなら、今が日本の主張を認めさせる好機ではある。だが、中国はしたたかだ。王毅外相は、「客はホストの意向に沿ってその勤めを果たせ」という上から目線の発言など、国内向けの自己主張も忘れてはいなかった。

安倍首相は5月のG7伊勢志摩サミットでも「南シナ海問題」を取り上げ、「南シナ海の軍事拠点化に対して“重大警告”」を明記した首脳宣言の採択を導いた。
これを受けた形で、ハーグの仲裁裁判所は、7月、フィリピンの提訴に対して南シナ海における「中国の領有権は無効」とする判決を下している。中国は「1枚の紙切れにすぎない」と拒否し、軍事力を背景に実行支配を継続中だが、一連の強行姿勢は中国を国際法と秩序を守らない国と印象づけ、国際的孤立を招来している。

このような状況の中で、8月はじめから東シナ海の“尖閣諸島”周辺領海に中国公船が侵入する案件が頻発している。我が国の連日の強い抗議にもかかわらず、盆前には中国公船20隻以上とともに400隻以上の中国漁船が押し寄せたこともあった。日本とフィリピンの連携により不利な状況に陥った南シナ海問題への報復、G20での対応への威嚇と受け取れないこともない。

世論調査では、中国に対する外交姿勢は対話より「もっと強い姿勢で臨むべきだ」という選択肢が、無党派層にまで浸透し全体で55%も占めているものもある。尖閣周辺の領海に連続侵入するという挑発行為が、国民感情に影響を与えていることは否定できない。
興味深い数字であるが、両国のナショナリズムの高揚があらぬ方向に暴走しないよう、政府には冷静な対応が求められる。

一方、8月11日に尖閣沖で中国漁船がギリシャ貨物船と衝突し、沈没するという事態が発生した。わが海上保安庁の巡視船は当然のことながら中国漁民6名を救助し、捜索活動にも協力した。この行動については、中国政府からの「協力と人道主義の精神を称賛する」との謝意はもちろん、中国国民の間でも「中国公船は何をしていたのか?」との声が上がったという。

かつてエルトゥールル号の海難救助が、日本とトルコ国民との100年を超える友情を作り上げた。粛々と正当な行為を行い、堂々と正当な主張を行えば、必ず理解しあうことができる。世界中がネットでつながる時代。我が国の情報を全世界の人々に伝える発信力を磨くことも重要だ。それが政府間の外交交渉にも力を与えてくれる。