憲法改正

自民党の各派閥は、毎週木曜日に昼食を兼ねた総会を開く。その際には会長が時々の政治課題に言及するのが慣例で、その発言がTVや新聞で取り上げられることも多い。連休明けの5月11日(木)の総会で、各派とも憲法改正についての発言が相次いだ。

 

発端は憲法記念日の5月3日、安倍首相がビデオメッセージで「自民党総裁として憲法改正を実現し、2020年(平成32年)の施行を目指す方針」を表明したことである。この方針では改憲項目として、①9条1項、2項を残したまま、新たに自衛隊の存在を明記した条文を追加することと、②高等教育の無償化を定めた条文の新設の二つを挙げ、自民党で具体的な改正案の検討を急ぐことを明らかにした。

 

首相は、平成18年の第1次安倍内閣では「戦後レジームからの脱却」を唱え、憲法改正、特に9条改正を悲願としていた。にもかかわらず、平成24年に第2次内閣を組閣してからは、各委員会などで改正に関する質問をされても、明確な答弁をしてこなかった。

 

それだけに今回の改正方針表明を巡っては、首相の意図を含め、様々な憶測が飛び交うなか、党内各派で意見表明がなされた。石破茂氏は「党の議論を粗略にして憲法改正できるとは全く思っていない」と強調。岸田文雄氏は「当面、9条の改正は考えてない」。石原伸晃氏は「3項をつくった場合(戦力不保持を定めた2項との)整合性は非常に重要だ」等々。連立の公明党からも理解を示す一方で、唐突感がありすぎ今までの案と大きな内容の違いを指摘するなど、懸念の表明もなされた。

 

そして12日には、安倍総裁から保岡興治・憲法改正推進本部長に「衆参両院の憲法審査会に出す自民党案をまとめるよう。具体案がないと審議が活発にならない」と指示が出された。

これを受けて、すべての所属国会議員が参加できる憲法改正推進本部で改憲項目や手順、あるいは2012年に作成した党憲法草案との整合性などの検討が始まることになる。すでに党内の一部では、たたき台となる改正試案と、国民投票までの工程表の試案なるものが飛び交っている。

 

一端を紹介すると、第9条に関しては、「第9条の2」として「前条の規定は、我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、自衛隊を設けることを妨げない。」との新条文を追加するというもの。

第9条の第3項に「自衛隊に関する規定」を追加すると、どうしても第1項の「武力」や第2項の「戦力」と、「自衛隊」との並びが悪く、関係が分かりにくくなる。このため、現行の第9条は「戦争の放棄」と「戦力の不保持、交戦権の否認」の条文として、そのまま存置し、別の条文で「自衛隊は、『戦力』ではない実力組織」という現在の解釈を確認するのがポイントだ。「加憲」らしさを強調したともいえる。

 

高等教育の無償化については、第26条1項(教育を受ける権利)を手直しし、教育の機会均等を図ることを明確にする趣旨から「経済的理由によって教育を受ける機会を奪われないこと」を明記するというもの。さらに、「教育が国の未来を切り拓く上で不可欠なものであること」「国に大幅な教育無償化措置等の教育環境を整備する責務があること」を明記し、無償化を含む教育環境整備規定の明確化も第26条に盛り込むという案のようだ。

 

個人的には、「ここまで憲法に書き込む必要があるのか?」との感もあるが、現在、高等教育の無償化実現に向けて、財源措置も含め検討を進めている教育再生実行本部の議論を強力に後押しすることになるのは間違いない。

 

私は憲法改正に関して、「時代の変化に柔軟に対応して必要な改正を行うべき」との考えだ。

今回の方針表明を機に、憲法改正推進本部での党内議論が活発化することは間違いない。

自民党案、与党案を早期に取りまとめ、衆参の憲法審査会の場での具体的な議論の展開につないでいきたい。そのためには(改憲派の)野党の皆さんにも、国民の声、社会の実態を踏まえた改正案を提示していただきたいものだ。

 

前回述べたように、国会が発議しない限り、国民は「国民投票」という形での意思表明ができない。「改正案の発議」は国会が担っている。今はその任務を果たさなければならない時である。

 

 

<参照条文>

第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

第26条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

憲法記念日

今年のゴールデンウイークは4月29日(土)から5月7日(日)まで。1日と2日を休めば、9日間の大型連休となる。ただ、報道によると今年の傾向は「安・近・短」と家でゆっくりと、近場で過ごす人が多いとのことである。

 

失言による今村雅弘復興大臣の辞任問題等で審議がストップしていた国会。野党は審議入りの条件として予算委員会の開催を要求した。衆参で1日と2日の開催提案(?)もあったらしいが、結局連休明けに開催することになり実質的に国会も9連休に入った。

 

毎年この連休を利用して海外に出かける議員も多いのだが、今年は朝鮮半島情勢の緊迫化もあり、外遊を取りやめた議員は2桁に及んだらしい。特に衆院小選挙区で敗れ比例復活した議員や、選挙基盤の固まっていない若手議員、7月に都議選を控える東京都選出議員に対して、「それぞれの地元でしっかり活動するように」との外遊禁止の幹事長通達が出された。

私の連休の大半は、地元で開催されるスポーツイベントやお祭りなどへの出席に費やされ、それ以外の時間は、自宅で資料整理や読書で過ごすことになる。

 

その中日となる5月3日は憲法記念日。今年は昭和22年(1947年)に現行憲法が施行されてから70周年の節目の年となる。施行以来今日に至るまで憲法改正の議論は幾度となく行われてきたが、発議の段階で両院2/3以上の議員の賛同が求められるという、ハードルの高さから、具体の改正案は提示されることさえなかった。「日本国憲法」は、改正された経歴のない現行憲法という意味で世界最古であるという。

 

護憲派の方は「素晴らしい」と言われるが、果たしてそうだろうか? 制定時と現在とでは世界情勢も、我が国を取り巻く近隣情勢も大きく変化している。

戦後間もない昭和20年代は勝者である連合国の共和の時代であり、国家間の紛争、安全保障を巡る問題は存在しなかった。その後、米ソの冷戦時代を経て、社会主義国の崩壊に至ったのが30年前。東西のイデオロギー対立は無くなった。一方で、快適さを求めるための「環境権」など、70年前は存在すらしなかった新しい権利意識念も出てきている。

 

世界の国々は時代の要請に応じて憲法を改正してきている。フランスは27回、ドイツに至っては60回を数える。憲法と言っても法律の一種、決して不磨の大典、金科玉条ではない。我が国でも時代の流れに柔軟に対応し、憲法改正の議論を進めなければならない。ところが、衆参の憲法審査会の現状を見ると、一応の議論は行われてはいるものの、政党の思惑が複雑に絡み合い、合意形成には程遠いのが現状だ。

 

改正すべき項目を例示すれば、「自衛隊の位置づけ」「環境権などの新しい権利」「緊急事態条項」「統治機構の在り方」「憲法改正の発議要件の緩和」など。加えて、「財政規律の確立」を明記することも重要だと考えている。

 

現行憲法が、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の堅持により、我が国の平和と繁栄の礎となったことは率直に評価すべきである。しかし、先に示した種々の項目等について国民はどう考えているのか?最近の世論調査では改正賛成の意見が若干ながら反対を上回っている。

 

言うまでもないが、現行憲法が憲法改正手続きにおいて“国会”に期待するのは、「改正案の発議」である。改正の是非は最終的に国民投票によって決定される。国会が改正案を発議できず国民に投票の機会が生まれないとしたら、それは憲法に対する国民の意思表明の権利を国会が奪っていると言っても過言ではない。

 

繰り返すが、憲法改正の是非は国会のみが決める事柄ではない。国民投票により、国民の直接の声を聴き、そして憲法改正案について賛同を得た時、改正が実現に至る。

これが、自民党立党時の綱領にある「自主憲法制定」への道筋であり、党是でもあるのだ。

 

 

 

*不磨の大典:すり減らないで、長く価値を保つこと。転じて、長期間改定されていない重要な法案や規則のことをいう。

安全保障技術研究

「安全保障技術研究推進制度」は2015年から実施された制度で、防衛省が設定したテーマに基づいて大学や企業から研究を公募し、採択されれば研究費の助成を行うというもの。

今年度は昨年度6億円の予算計上に対して110億円、18倍の予算が計上された。

 

日本学術会議は先週14日(金)の総会で、「軍事的安全保障研究に関する声明」を出した。

先の大戦で科学者が軍の兵器開発に協力したことへの反省から、学術会議は1950年(昭和25年)に「戦争を目的とする科学研究は絶対にこれを行わない」旨の決意表明をし、また1967年(昭和42年)には同じ文言を含む「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を発表している。

 

今回の声明では「軍事目的の科学研究を行わない」とする、これまでの声明を「継承する」とし、防衛省が大学などの研究機関に資金を提供する「安全保障技術研究推進制度」は、「将来の装備開発につなげるという明確な目的に沿って公募や審査が行われ、政府による研究への介入が著しく、問題が多い」と指摘している。

果たしてそうだろうか。

 

防衛省は装備開発に必要だから設定したテーマに基づいて大学や企業などから公募し、採択されれば研究資金を提供しているのであり、研究者の自由研究を促す予算などない。

装備開発が嫌なら公募に申請しなければよいだろう。また、公金を投入する以上、研究の進捗状況をチェックするのは、文科省等の他省庁の研究においても行われており、当然のことである。科学者の研究の自主性、自律性、研究成果の公開性の尊重についても明確に担保されており、学術会議の懸念は的外れである。

 

戦闘機のステルス技術や弾道ミサイル迎撃システム、潜水艦の非大気依存推進機をはじめ防衛装備品の技術は年々高度化している。また、複数国での共同開発も多く、初期段階から参加しなければライセンス生産はもとより、整備ノウハウの伝授さえ認められないケースがある。日本にとって防衛装備に関する研究開発力の向上は不可避な状況である。これからも大学に協力を求める機会は増えるだろう。

 

そもそも科学技術研究において軍事利用と民生利用を区別する意味があるだろうか。コンピュータもインターネットもGPSも原点は軍事用に開発された技術だ。これらの技術が現代の生活を豊かにしてくれている。

 

逆に、たとえ民生利用を目的に開発したと言ったところで、大半の研究成果は軍事用にも転用できるのではないだろうか。トラックも輸送機も使い方によっては軍用になるのだから。

理論科学の分野でも同様である。相対性理論は核兵器の開発につながり、量子力学の成果である半導体は様々なエレクトロニクス技術を生み出し、精密誘導兵器等々に利用されている。

「軍事」と「民生」の双方で活用できる「デュアルユース技術」を無理に分離し、軍事色を消そうとすれば、応用範囲の広い有益な研究のほとんどを排除することになるだろう。

 

科学技術と安全保障の関係については、党の科学技術・イノベーション戦略調査会でもこれまで慎重な議論を重ねてきた。

調査会では、科学技術の成果が安全保障にも使われ、民生と防衛の区別を行うことに意味がなくなっていることに鑑み、研究の在り方については「安全保障や防衛を研究目的から排除する」よりも、「科学技術の成果が及ぼす影響を個の研究者が自ら主体的・自律的に判断できる健全な環境を整備する」ことを重視すべきとの見解をまとめた。

 

我が国はいま、「世界で最もイノベーションに適した国づくり」を目指している。

肝心なのは「軍事」「民生」の区別なく幅広いターゲット領域の設定によるイノベーションフロンティアの拡大に資する基礎研究に、研究者が自らの力を最大限に発揮できる環境を整えることだ。

教育の無償化

先月の27日(月)、過去最大規模となる97兆4,500億円の平成29年度予算が参院本会議で可決成立し、あわせて同日、地方税改正などのいわゆる予算関連法も成立した。年度末の31日には、私が昨秋に与党の座長として取りまとめた給付型奨学金創設法(日本学生支援機構法の一部改正)も成立した。

 

国会はいよいよ後半戦へ突入するが、今後審議すべき重要法案は、テロ等準備罪を新設する組織的犯罪処罰法改正、衆院小選挙区の区割りを見直す公職選挙法改正、今上天皇のご退位を可能にする新法などである。

 

そのような中、30日(水曜日)には、前半国会で森友学園問題とともに、多大な審議時間が費やされた「文科省の再就職あっせん問題」に関する内部調査最終報告書が公表された。新たに35件のあっせん行為を国家公務員法違反と認定し、37名を処分した。最終的な違法天下り行為は合計62件、処分を受けた幹部は43人にのぼる。調査の全容については、新聞紙上などで詳しく報じられているので言及しないが、処分者には将来の次官候補と目されていた人物も含まれている。

 

今回の不祥事についてはいささかの弁解の余地もないが、多くの有能な人材がその能力を発揮する場を失うことになるのも事実。我が国の未来を左右する、教育政策の立案と推進に影響が出なければよいのだが、と案じている。

 

その教育政策について、格差是正、生産性向上、少子化対策などの視点から、「あるべき教育の姿」を改めて示すべく、党内で広範な議論が進められている。その中で、最もホットな話題が、「教育の無償化」である。無償化の対象は、もちろん義務教育以外の分野。一つは幼稚園や保育所における幼児教育、もう一つは大学、専門学校などの高等教育である。

 

文科省の一つの試算によると、幼児教育で7000億円、大学で3.1兆円もの年間予算が必要となる。さらに経済的理由で進学を断念している者を加えると、総額では5兆円規模の財源が必要となるのではないだろうか。

 

この巨額の財源確保の手法を巡る議論が党内で活発化している。例えば、①さらなる消費増税での対応、②使い道を教育に限定した「教育国債」の発行、③年金保険料に上乗せした「こども保険」の導入、などである。①と②は、最終的に全国民の税で賄うという点では違いはない。現在の納税者が薄く広く負担するのが①で、将来の納税者が償還金を負担するのが②である。①については高齢者対策経費との棲み分けが課題となり、②の場合は、全国民で奨学金を借り入れるようなイメージ(=負担の先送り)となる。③も①と同じく現役世代が負担することになるが、そもそも将来リスクに備える保険という概念が子育て経費の一環である教育財源になじむか否か?企業の理解が得られるか?という問題がある。いずれも一長一短で検討課題も多い。

 

安倍首相は今国会の施政方針演説で「誰もが希望すれば、高校にも専修学校、大学にも進学できる環境を整えなければなりません。」と教育無償化への大方針を示している。一方で、我が国の財政が極めて厳しい状況にあることは間違いない。財源確保への理論武装、新たな発想が必要なこの時期に、教育政策のシンクタンクであるべき文科省がその機能を低下させているのは残念ではある。

 

それだけに、我々政治家に課せられた責任が重くなっているともいえる。知恵を振り絞り、国民的議論を経て、「未来への投資」である人材育成政策の大きな柱となる教育無償化を前進させていきたい。政治には強いリーダーシップが求められている。

国会審議に思う

3月も早や20日を過ぎ春爛漫の季節が近づいてきた。

新年度も目前に迫り、平成29年度予算審議が大詰め迎えているはずだが、国会では森友学園の国有地払い下げ問題が一向に収束しない。参院の予算委員会をはじめ衆院の財政金融、国土交通、安全保障など他の関係委員会でも、政策課題や法案審議は棚上げ状態だ。

 

16日には、参院予算員会の委員らが豊中市に出向き建設中の小学校を現地視察し籠池泰典理事長と面会した。当日現地で視察団を出迎えた籠池理事長から、「平成27年9月に塚本幼稚園に講演に訪れた安倍総理の昭恵夫人から、100万円の寄付を受けた」との爆弾発言が飛び出した。

 

籠池氏の発言はこれまでも何度も変遷しており、この件についても信ぴょう性は薄い。だが、この発言を受けた形で、23日に衆参両院予算委員会で籠池氏の証人喚問が急遽行われることになった。証人喚問は、正当な理由がないかぎり出頭を拒否できず、虚偽の発言をすれば議院証言法で偽証罪に問われ刑罰の対象となる。

 

そもそも今回の騒動の端緒は、森友学園が国有地を評価額より大幅に安い価格で取得した点にある。まずは売却した財務省が価額低減の理由としている地下埋設物の撤去費用算出根拠の適否を明らかにすべきだろう。そして不適切であった場合には、その行政手続きへの政治家の介入の有無を明確にしなければならない。財務省の売却手続きについては、本来、会計検査院の審査案件であり、その審査を急がせる必要がある。にもかかわらず、国会では同じ質問が手を変え品を変えて繰り返し行われており、すでに多くの時間が浪費されている。

 

また、公文書偽造や公金横領詐欺などの可能性も浮かび上がっているが、これらも捜査当局に委ねるべき事案だ。もちろん国民の疑念には丁寧に説明責任を果たす必要はあるのだが、これ程の時間を割いて国会で論議されなければならないのか疑問に思う。とにかく23日の証人喚問をもって、森友問題が収束に向かうことを望むばかりである。国会は不毛な政局議論の場ではなく、健全な政策論議の場とすべきである。

 

森友問題に加えて国会質疑に多くの時間を費やしているのは、自衛隊の南スーダン国連平和維持活動(PKO)派遣部隊の「日報」隠蔽問題である。

防衛省が「陸上自衛隊が破棄した」としていた日報の電子データが再調査により見つかったことで、「防衛省統合幕僚監部が保管事実を隠すよう指示したのではないか」という隠蔽疑惑が浮上した。稲田防衛相は特別防衛監察で真相解明の実施を指示しているが、シビリアンコントロール(文民統制)の綻びをめぐり責任が問われかねない事態だ。

 

さらには、文科省の組織的な再就職斡旋問題では、内部調査により新たに30件超の国家公務員法違反事案を認定し、計60件もの違反事案があったことが報告された。

政府が国民の信頼を失えば正しい行政を執行することができない。霞ヶ関の官僚機構全体に隠蔽体質がこびりついているとすれば、それを浄化する責務は官僚はもとより、行政府の頂点に立つ与党国会議員にもある。我々政治家は、常に行政機構の意識改革に努め、国民の信頼を得るように努めなければならない。

 

あと1週間もすれば桜前線が列島に到達する。今年は関東より西では平年より遅め、関東・東北は平年並とのことだ。内外とも多くの政治課題が山積しているなか、我々国会議員には、ゆっくり花見を楽しむ余裕は望むべくもないが、せめて桜の花が散るまでには国会が政策論議の機能を回復させたいものだ。

国家百年の大計

一般会計総額97兆4,500億円余の平成29年度予算案は、2月27日衆院本会議で可決され、論戦の舞台は参議院予算委員会に移った。

しかし、論戦は政策論議とはほど遠い。文科省の天下り問題、学校法人への国有地払下げ問題といった疑惑の解明が必要ないとは言わないが、本来、予算委員会は当初予算案の内容、各種施策の方向性を議論する場である。野党の皆さんからも施策案を提示していただき、政策についての論戦をしっかりと行っていきたいものだ。

 

今国会で真剣に議論したい課題の一つが「教育の無償化」である。

安倍総理は施政方針演説で、70年前に施行された日本国憲法が普通教育の無償化を定め、小・中学校9年間の義務教育をスタートさせたことに触れた上で、「誰もが希望すれば、高校にも、専修学校にも、大学にも進学できる環境を整えなければならない」と言及した。

 

「教育の無償化」については、各党で様々な提案、議論が重ねられている。

日本維新の会は憲法改正による完全無償化を目指している。民進党も次期衆院選の公約原案で大学までの無償化を検討しているし、さらには共産党もその必要性には賛同している。与野党とも無償化を目指す方向性は一致している。しかし、具体策となると千差万別だ。

 

特に、日本維新の会の提案である憲法改正の要否という点で、大きく意見が分かれている。私の見るところ、自民党、民進党はそれぞれの党内で賛否両論がある。改憲に慎重な公明党や共産党、社民党は改憲の必要性なしという見解だ。

私自身は、改憲は無償化の必要条件ではないと考えている。

 

教育の機会均等については教育基本法第4条に規定されているが、要約すると「国民はその能力に応じて教育を受ける機会を均等に与えられなければならないし、能力以外の事由(人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位、門地)によって教育上差別されない。また、能力がありながら経済的理由によって就学が困難な者に対して、国および地方公共団体は奨学の方法を講じる義務がある」という内容である。

 

これは憲法第14条第1項(法の下の平等)、第26条第1項(教育を受ける権利)の精神を具体化したものである。そして、憲法は第26条第2項で、保護者に普通教育を受けさせる義務と、義務教育の無償化について規定している。これは義務教育の無償を明示したものであり、その他の教育を無償とするか否かについては、法律の規定に委ねられているという解釈だ。

 

現行の義務教育(無償教育)制度は1947年(昭和22年)の学制改革から続いているが、制定当時と現在では教育環境も社会も大きく変化している。

2016年(平成28年)の高校進学率は98.7%、大学進学率は56.8%で、専修学校等を含めた高等教育への進学率は80.0%となっている。キャリア教育の充実など教育の多様性を確保するため、6・3・3・4制の学制そのものの改正を求める声もあるが、まずは無償教育の枠の拡大から始めてはどうだろう。

 

教育の格差は、所得の格差に繋がり、所得格差が教育格差をもたらす。こうして親から子へと連鎖しながら、格差の固定化を招いてしまう。無償化による教育格差の解消は、この問題を解決する有効な手段であり、結果的に労働生産性や出生率も高めるという説もある。まさに、すべての教育の機会均等を実現する無償化は時代の要請であると言っても過言ではない。

 

そのための第一歩として、給付型奨学金制度を導入する予算案を今国会に提案している。この制度をステップに本格的な教育の無償化の実現を検討すべく、今般、自民党教育再生実行本部内に馳浩・前文科相を主査とする特命チームを立ち上げた。

 

教育は洋の東西を問わず「国家百年の大計」と言われる。

この機会に日本あるべき教育の姿について、原点に返って改めてじっくりと考えてみたい。

「挑む Tigers Change」

今年の冬将軍は立春を過ぎても弱まりを見せず、寒波が度々来襲。特に西日本の日本海側、特に山陰や中国地方の降雪が際立つ。11日には鳥取県や兵庫県の但馬で例年の10倍もの積雪を記録し、山陰線や高速道路が長期にわたり麻痺した。その後も日本列島は寒暖の変化が激しい日々が続き、体調管理が大変である。

そんな中、今年もTV各局のニュースのスポーツコーナーでは、プロ野球各球団のキャンプ便りが主役となってきた。毎年のことながら、各チームともペナントレース優勝を目指して始動している。

昨シーズンは“超変革元年”を掲げ、若手選手にチャンスを与え補強せずの方針で臨んだ金本タイガース。

ルーキー髙山をはじめ、実績にとらわれずに新しい戦力を積極的に投入し、若手の活躍を引き出した。その結果、開幕から好調に滑り出し、セ・パ交流戦前までの成績は25勝25敗3分け。

金本新監督のスローガン通りの新鮮な采配に大きな期待が集まった。だが、交流戦を7勝11敗と負け越すと、その後は完全に失速して、一時は15年ぶりに最下位に転落する。最終的には64勝76敗3分で勝率は0.457の4位。ペナントレース優勝どころかクライマックスシリーズへの進出も果たせなかった。日本シリーズは、日本ハムVSカープで行われ、大谷翔平を擁する日本ハムが日本一に輝いたのは周知の通り。

私なりに分析すれば、タイガースの昨年の成績不振はローテーション投手の不調に尽きる。先発投手が序盤に失点を重ね、試合半ばで勝負が決まってしまうケースが目立った。メッセンジャーはともかく、藤浪、能見、岩田のパフォーマンスが軒並み悪かった。大黒柱のはずの藤浪が7勝11敗では話にならない。プロに復帰し、先発にまわった藤川にも往年の球威は残されてなかった。

唯一の救いは、3年目で開幕ローテーション入りし10勝9敗、防御率2.90の好成績を収めた岩貞の台頭。先発投手の再建、整備が喫緊のチーム課題だと思う。

一方の打撃陣も、ゴメスの不振と鳥谷の精彩なさが際立った。鳥谷はチームリーダーに指名された重圧によるものか、それとも衰えなのか?復調を期待したい。

今年のチームスローガンは“挑む Tigers Change”。

「どんな相手にも立ち向かう。どんな局面にも己の限界にトライする。その精神を全員が強く持ち、タイガースが変革し続ける一年にしたい」。2年目の金本監督は、自分たちは挑戦者だと改めて宣言した。

3年間で65本のホームランを打ったゴメスは退団したが、新たに日ハム、オリックスで活躍した糸井が加入した。18日の屋外フリー打撃で44スイング中11本の柵越えを連発するなど、“超人・糸井”のスラッガーぶりが報道されている。

今年の打撃陣はこの糸井をはじめ福留、鳥谷、西岡の主軸に、有望な若手たちが加わる。タイガースの新人安打数を塗り替えセの新人王に輝いた髙山、育成から這い上がってきた原口、そして、鳥谷の座を脅かす北條などだ。

監督が目指す若手生え抜きを「育てながら強くする」という、ブレない方針が結実しつつある。投攻守が噛みあった戦いを繰り広げ、シーズン終了まで頑張って欲しいものだ。

懲りもせず“タイガース優勝”の淡い期待を抱きながらキャンプ地便りを追っかけている今日この頃である。

昨年はペナントの行方に早々と興味を失い、一度も甲子園球場に足を運ばなかった。今年こそは是非、あの歓喜のスタジアムを体感してみようと思う。2年目のチャレンジャー金本監督と選手たちが繰り広げる熱き戦いを目の前に、5万人のトラキチとともに声援を送りたいものだ。聖地甲子園球場で「六甲おろし」を熱唱できる夏の日を楽しみに、しばし国政に専念したい。

国会論戦スタート

平成28年度第3次補正予算成立を受けて、1日から新年度予算案の本格的論戦がスタート。

 

3日間の審議過程で明らかになった今国会の中心的な政策議題は、①トランプ政権誕生に伴う安全保障と経済関係の「新日米関係の構築」、②国際組織犯罪防止をめざす「テロ等準備罪新設」、③長時間労働規制等を盛り込んだ労働基準法の改正による「働き方改革」の三点である。

 

まず、新たな日米関係の構築についてだが、安全保障を経済・通商の取引材料とするようなことは絶対避けなくてはならない。幸い、早々とマティス国防長官が来日し、アジア太平洋地域の平和と安定に日米軍事同盟が重要であることを再確認できた。今後の交渉に向けて大きな収穫である。一方で、新国防長官が最初に、政権発足後わずか2週間で、NATO諸国ではなく日韓を訪れたことは前代未聞。それだけ、北朝鮮の核・弾道ミサイル開発、中国の力による南シナ海への進出が東アジア地域の緊張を高めているとも言える。

 

通商政策では、トランプ大統領がTPP離脱を宣言し、二国間交渉への方向転換を明示した。そして貿易赤字の原因を相手国の政策に転嫁し、対象国を見境なく批判している。しかし、自動車輸出入の不均衡について我が国とトヨタを槍玉にあるのはお門違いだ。

米国が2.5%の自動車関税を課しているのに対して日本はゼロ、理不尽な非関税障壁があるわけでもない。その証拠に欧州車はどんどん輸入されている。むしろ日本の自動車産業は30年も前から米国での現地生産を行い、今では150万人もの雇用を生み出している。

 

10日に予定されている安倍総理とトランプ大統領との首脳会談では、総理から米国のモノづくり産業の振興に日本企業が如何に貢献しているかを説明することになるだろう。そして、インフラ整備や雇用確保に向けての協力、モノの輸出入のみでなく投資や知的財産に関する多国間のルールづくりが如何に重要かなど、両国の経済発展に向けた未来志向の協議をして欲しいものだ。

 

次に「テロ等準備罪」だが、野党の質問は従来の共謀罪か否かという形式論やレッテル貼りに終始し、法案の内容についての議論に至っていない。協力行為の必要性を認めながら、「個別的自衛権で説明できればOK」で、「集団的自衛権ならNO」といった一昨年の安全保障法制の議論とどこか似ている。

 

この法案の目的は、国際組織犯罪防止条約に加入するための国内法制整備であり、我が国を国際組織犯罪から守るための国際協力の一層の強化である。オリンピック・パラリンピックを控え、政府は野党の質問に惑わされず、法案の趣旨と内容を丁寧に説明し、国民の不安を払拭するとともに理解を得ていかなければならない。

 

三つ目に「働き方改革」。アベノミクスの主役となるべきテーマのはずだが、どうも過労死問題に端を発する長時間労働是正のみが注目されている感がある。確かに私自身もサラリーマン時代には残業が月100時間を超えることも日常茶飯、時間管理には苦慮したものだ。時間外労働の上限設定も必要だろう。

しかし、働き方改革の本質は、多様な働き方の実現を通じた生産性の向上ではなかったか。

 

工業社会の時代に作られた、労働の対価を時間で計測する制度から、知的創造力の時代に適した制度に、成果指標で業績を評価することも検討しなくてはならない。成長分野に人的資源を迅速に投入するため、雇用の流動性を高める仕組みも必要だ。政府の法案提出により、本質的な働き方改革の議論が始まることを望む。

 

最後に、政策議論ではないが、文科省から端を発した天下り問題について。

数年前に規制ルールを強化したばかりなのに、なぜ、その直後から法の網をくぐるようなことが起きるのか? 制度のあり方よりも組織全体の倫理観、公務員としての資質が問われるべきだろう。国民の信頼が揺らいでいるのは残念だが、今回の不祥事で教育行政が滞ることがあってはならない。

 

文科省が今国会に提出する法案は、「給付型奨学金の創設」、専門職大学の仕組みづくりための「学校教育法の改正」、そして地域に密着したコミュニティスクールの設置を目指す「地方教育行政法の改正」など、いずれも重要な法案である。

人材育成への投資は未来への投資である。いま、教育投資の拡大を計らなければ、この国の未来はない。

 

以上、これまでの予算委員会審議への雑感を述べた。

世界各地で変革への動きが高まるなか、人口減少という課題を背負う日本。長期的視点に立った制度構築と、目の前の変化への機敏な対応力で未来を開きたい。当初予算の早期成立はその第一歩だ。

視界不良

平成29年も松の内が明け、家々の玄関先の門松やしめ縄もすっかり姿を消した。この“松の内”と呼ばれる期間、前年の1213日から始まるらしい。私もこの歳になって初めて知ったのだが、先人たちは新年を迎える半月も前から正月飾りで装いを整え、年明けを待っていたようだ。

今年の初春の日本列島、“松の内”の間は、概ねうららかなお天気に恵まれた。

しかし、“松の内”が明け、世の中が本格的に活動を始めたとたんに、列島は大寒波に包まれ、世界は波乱の年の幕開けを迎えたようだ。

17日には、英国のメイ首相が「EU離脱」を正式に表明した。昨年6月の国民投票の時点で分かっていたことではあるが、離脱演説は改めて世界に衝撃を与えた。「移民制限の権限を取り戻す」という限定的な目的のために、英国は、人、モノ、サービス、資本移動の自由を原則とする「EU単一市場」を放棄することになる。

EUとの間で2年間の交渉期間があり、その後も一定の経過措置が設けられるとは思うが、その間に我が国の企業も営業拠点や工場の移転等の欧州戦略を練り直さなくてはならない。政府としても、EUとのEPA交渉とは別に英国向けの経済連携交渉もスタートする必要がある。さらには、このようなナショナリズム優先が他の諸国に波及すれば、EU崩壊といった事態も想起される。今年の欧州諸国の動向は予断を許さない。

20日(日本時間21日未明)には、米国のトランプ新大統領の就任宣誓式が執り行われた。数十万人の観衆を前にした就任演説で、今後の政策は米国を最優先する「米国第一」を改めて宣言し、「米国を再び安全にする。米国を再び偉大にする」と締めくくった。

ホワイトハウスのホームページには、即日、TPPからの離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉等の新政権の基本政策が掲げられた。残念ながら、その内容は大統領選協中の無謀ともいえる主張そのものである。米国が一部の国民の利益を優先するあまり、短絡的に保護主義に走れば、結果として多くの国民の利益を奪うことになるのではないだろうか。そして、世界経済にとって、米国という大市場の前に壁が生じることは重い足かせとなるに違いない。 

トランプ大統領は就任直前に、英国のEU離脱を「賢い選択」と評価したり、シリア等の難民を積極的に受け入れているメルケル独首相の政策を「破滅的な間違い」と扱き下ろすなど、ナショナリズムを他国にも勧めるがごとき発言を繰り返してきた。

今後もこのような発言が続くようであれば、G7における米国のリーダーシップは凋落するだろう。少なくとも国際政治における我が国の役割が重要度を増すことは間違いない。海外との交流の中で成長してきた日本だからこそ、世界の繁栄を導く自由貿易を堅持しなければならない、新しい多国間の経済連携システムの構築を主導しなければならない。 

このような世界情勢の中、20日には第193通常国会が召集された。審議すべき課題は、補正予算と当初予算の早期成立、働き方改革による生産性の向上、介護保険など社会保障制度改革、テロ等の組織犯罪対策強化等々多岐にわたる。今年は、天皇陛下の退位をめぐる法整備や施行70年の節目を迎える憲法の議論も進めなければならない。政府にとっては、これらの内政課題に加え、外交と通商政策のかじ取りが例年以上に重要となる一年となりそうだ。 

いずれにしても今年は、ベルリンの壁崩壊以来の世界的な「変革の年」となりかねない。

昨年の一文字世相は「金」であったが、今年は早くも「乱」だとか「変」だとか揶揄されている。私は、このような国際的信頼関係が重視される年だからこそ、国民から政治への信頼が必要な年だからこそ、「信」と言える一年にしたいと思っている。

2017年新春を迎えて

明けましておめでとうございます。

 

昨秋公表された国勢調査で、日本の人口が初めて減少局面に入ったことが確認されました。今後50年で総人口は約4千万人減少し、8500万人程度になると見込まれます。しかし、人口の減少は国力の減退を示すものではありません。例えば欧州主要国のドイツ、フランス、イギリスの人口は8000~6000万人です。これらの国々は我が国以上の存在感を世界に示しています。それは国外の人々を惹きつける固有の文化や技術を保有しているからではないでしょうか。

 

アジアで最初の成熟国家である日本も、世界の人々を魅了する個性を磨き、発信しなければなりません。そのためには新時代に相応しい戦略が必要です。

一つには、次代を担う人材の育成。今世紀、日本のノーベル賞受賞者はすでに17名。米国に次ぐ数です。この流れを加速するため、基礎研究を志す若者を増やさなければなりません。科学分野に限らず「人材の育成」こそが未来の日本を拓く最大の投資となるでしょう。

二つには、日本各地の文化創生。経済効率重視の東京一極集中は地方の疲弊を招きました。生活文化重視の時代、その主役は地方です。各地域で培われてきた人々の営みこそが、日本文化の源です。地方を重視し個性を磨くことが我が国の文化力を高めるでしょう。

三つには、開かれた国際社会の形成。台頭する排他主義的な発想は、世界の発展を阻害します。TPP交渉で我々が求めたものは、知的財産を含む新時代のルールづくり。すでに情報は世界を飛び交い、人と物の流れも国境を意識しません。この時代に相応しい自由な交流と連携こそが地域間格差を解消し、世界の共栄の礎となるでしょう。

 

これらのビジョンを実行する基盤は、政治への信頼の確立です。「信なくんば立たず」を肝に銘じ、しっかりと国民の皆様に説明し、そして責任を持って実行に移します。

今年も格別のご指導とご鞭撻をお願いいたします。