スポーツの持つ力

23日、関西の野球熱が最高潮に達した。阪神タイガースとオリックス・バファローズが、それぞれリーグ優勝を果たしたことを祝して、神戸市の三宮と大阪市の御堂筋で盛大な優勝記念パレードを開催されたのだ。

セ・リーグとパ・リーグの球団が同時に優勝パレードを開催するのは史上初の出来事。日本シリーズで激突した両チームの選手たちを一堂に見ることができ、ファンにとっては「関西シリーズ」の興奮が再び呼び起こされた瞬間だった。

この共同開催は、兵庫県の齋藤元彦知事と大阪府の吉村洋文知事が提案したもので、これに経済界が協力して実現させた。9月の記者会見時には、2025年大阪・関西万博の公式キャラクター「ミャクミャク」と共に登場し、万博を盛り上げるとの表明もあったが…。

開催費用5億円を目指したクラウドファンディングが予想に反して低調だった一因には、この万博との無理な関連付けが挙げられる。

SNSでは、パレードの万博PR利用に反対する声が多く上がり、大阪府には「政治利用を避けるべき」との批判が数多く寄せられていた。批判を受けた吉村知事はトーンダウン。万博PRについては、「パレードとは別に扱う」と方針を転換した。当日のあいさつでも「万博」の言葉は意図的に避けられていた。

私もファンの一人として阪神優勝を政治に利用すべきではないと思っていた。状況に応じて適切に方針を変えたことは、正しい判断だ。

パレードはタイガースが三宮で、オリックスが御堂筋で11時にスタート。午後2時からは入れ替わり、タイガースは大阪、オリックスは三宮でパレードを続けた。オープンカー型バス3台が用意され、選手たちは車上からファンに手を振り、声援に応えた。

主催者によると、午前中の神戸会場には30万人、大阪会場には20万人が来場。大阪と神戸の2会場をはしごするファンの姿も多くみられた。午前と午後をあわせると、大阪では55万人、神戸では45万人が集い、のべ100万人もの方々が沿道で声援を送ったことになる。

阪神電気鉄道は、混雑を予想し、神戸から大阪への直通臨時列車を運行。この列車には岡田監督と選手11人がラッピングされた車両を使用し、38年ぶりの日本一に輝いたことを受けて、ファンに感謝を伝えるポスターが吊るされていた。

パレードが始まり、バスから選手たちが手を振ると、沿道は大歓声に包まれた。御堂筋は歩道の端まで来場者で埋め尽くされた。御堂筋に交わる交差点では、さらに奥の道路までファンが詰め掛けている様子が伺えた。選手たちの姿を見たファンの中には、涙を浮かべる人もいた。

プロ野球の優勝パレードに沸いた2日間後、25日の神戸ノエビアスタジアム。ファンの歓喜の渦の中に今季Jリーグを制覇したヴィッセル神戸の選手たちの姿があった。

創立29年にして、初めてJリーグのトップに至った選手たちの目にも、押しみない声援を送るファンの顔にも光るものがあった。野球とサッカーの違いはあっても、ファンが選手たちに贈ったのは、いずれも「ありがとう」と言う感謝の言葉であった。

内外とも明るい話題の少ない中で、「阪神タイガースの38年ぶりの日本一」と「ヴィッセル神戸のJリーグ初制覇」という二つの話題に、“スポーツの持つ力”を改めて感じている今日この頃である。

危険水域

政府は2日に臨時閣議を開き、物価高に対応し、持続的な賃上げや成長力の強化を柱とする“デフレ完全脱却のための総合経済対策”を決定した。
経済対策は、第一段階として緊急的な国民生活支援を年内から年明けをめどに行い、第二段階として賃上げや減税措置を来春以降夏にかけて行うとしている。

まず物価対策として、年内から住民税非課税所帯に1世帯当たり7万円を現金給付し、ガソリンや電力・ガス料金の負担軽減措置は来年4月末まで延長する。

第二段階では、持続的な賃上げにむけた税制措置や、6月には納税者と扶養家族1人あたり4万円(所得税3万円、住民税1万円)の定額減税など、本格的な国民所得の向上を図る。また、地方も含む成長力強化にむけては、中小企業が行う設備投資への支援や、半導体の生産拠点整備を支援する基金の積み増し等、国内投資促進策も打ち出されている。

このほかにも、人口減少対策や国土強靭化・災害復旧も盛り込められており、令和5年度補正として13.1兆円を計上し、所得税などの定額減税分も含めた経済対策規模は17兆円前半となる。なお、地方や民間の支出も含む事業規模は総額37.4兆円に上る。

一方で、去る10月22日に行われた衆参補欠選挙で自民党は1勝1敗とギリギリ踏みとどまったものの、もともと自民の議席だった高知・徳島参院選挙区で敗北、強い保守地盤である長崎4区でも接戦を強いられるなど、政権運営には暗雲が立ち込めている。

減税などの経済対策で内閣支持率アップを期待したが、目玉政策になる筈の減税が極めて不評で、政権浮揚策どころか裏目に出ている。報道各社の世論調査による内閣支持率を見ると、共同通信(3~5日)は前月比4%減の28.3%、JNN(4~5日)は同10.5%減の29.1%と下落傾向に歯止めがかからず、いずれも発足以来最低を更新した。政権運営の危険水域とされる2割台が続出し、与党は危機感を抱いている。

世論の厳しい眼は自民党支持率にも表れ始めた。読売新聞の調査では、自民支持率は第2次安倍政権以降は概ね40%前後で推移していたが、岸田政権は発足時の43%から今年5月に38%、10月には30%と下落傾向にある。

党内では、青木幹雄・元内閣官房長官が唱えたとされる“青木の法則”が現実味を帯びてささやかれ始めた。この法則とは内閣支持率と与党第1党の支持率の合計が60%を切れば政権運営に黄信号が点滅、50%を切れば赤信号で政権が倒れるとする経験則だ。すでに黄信号が点灯している。
もう一つ永田町で注目されているのが「内閣支持率と政党支持率の逆転」だ。内閣支持率が政党支持率を下回ったら、それは『岩盤支持層からも見放された』ことを意味する。

岸田首相と同じように「減税政策」で国民から批判を浴びた橋本竜太郎内閣が退陣した1998年6月の支持率は、内閣が24%に対して自民党は25.8%だった。そのほか、政権末期の森喜朗内閣(内閣支持率8.6%、自民支持22.5%)、麻生太郎内閣(同22.2%、23.4%)、鳩山由紀夫内閣(同19%、民主党支持率20%)など、過去の例では、いずれも二つのシグナルのレッドゾーンに該当する状況は政権の終焉を示していた。

10月末の日経・テレビ東京の調査では、内閣支持率が33%で自民党支持率が32%であり、何とかギリギリの線で双方の指標はクリアできている。しかし、岸田内閣の政権運営が「危険水域」に入りつつあることは明らかだ。政府・与党の一員として、国民に対する説明責任をより一層果たし、緊張感を持って国政に臨む必要がある。

六甲おろしをもう一度

阪神タイガースが2005年以来18年ぶり6回目のリーグ優勝を決めたのは9月14日のこと。阪神ファンは歓喜の渦に包まれた。岡田監督が宙に舞い、“六甲おろし”が甲子園の夜空に響き続けた。それから36日後の10月20日、セ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)のファイナルステージ第3戦で広島カープに4対2で競り勝ち、9年ぶりの日本シリーズ進出を決め、再び“六甲おろし”の大合唱が甲子園の夜空を覆った。

21日には、オリックスもパ・リーグのCSファイナルステージを突破、3年連続で日本シリーズ進出を決めた。この結果、今年の日本シリーズは、阪神タイガースとオリックスバファローズの戦いとなり、1964年以来59年ぶりに関西対決(※)、いわゆる「関西ダービー」が実現した。

 

経済効果測定の専門家宮本勝浩・関西大学名誉教授の試算では、関西ダービーによる経済効果は全国で約1449億円という。その内訳は、阪神優勝が約969億円、オリックスは約359億円。さらに、日本シリーズで25万人あまりの観客が見込まれ、121億円の上積みが期待される。これらの効果額のうち9割近い1304億円が関西エリアのものということだ。

宮本名誉教授は「物価高の世の中ではあるが、スポーツなどへの消費にはあまり影響は出ないとみている。関西のスポーツファンは、特に盛り上がりが激しく消費に繋がるので、関西経済に大きなプラスになる」と解説している。

 

いよいよ今週土曜日、28日から日本シリーズが開幕する。まずオリックスのホーム・京セラドーム大阪で2試合行い、31日からは甲子園での3連戦が予定されている。我らが阪神タイガースにはCSを全勝で勝ち抜いた勢いで、連戦連勝で日本一を勝ち取って欲しいものだ。もう一度、甲子園に“六甲おろし”の大合唱が響き渡ることを願いつつ、今年のプロ野球の総決算を楽しみたい。

 

その決戦の前に、先週末には第212回臨時国会が召集され、24日から岸田文雄総理の所信表明を受けた各党代表質疑がスタートする。先の内閣改造後初めての本格的な論戦である。当面の政策課題は物価高騰であり、早急に経済対策をとりまとめ、その裏付けとなる補正予算の成立を目指すことになる。

 

景気の“気”は、気分の“気”と言われる。先行きに明るい気持ちを持っていれば、自ずと消費や投資も拡大し、経済が活性化するものだ。関西ではタイガースとバファローズが上昇気流をもたらしてくれた。この流れを持続、拡大させるためにも、将来の不安を払拭し、日本全体が夢を描ける成長戦略を立案しなくてはならない。引き続き緊張感をもって国会審議に臨みたい。

 

 

※関西対決:阪神タイガースVS南海ホークス。阪神の主力選手は、村山実、ジーン・バッキー、吉田義男、山内一弘、遠井吾郎ら。南海は野村克也、杉浦忠、ジョー・スタンカ、広瀬叔功ら。タイガースは3勝2敗と王手をかけたが、6・7戦ともスタンカに完封され大魚を逸した。因みに、59年前は10月10日から東京オリンピックが開催されたため、シリーズは盛り上げに欠けた。

タイガース優勝に思う!

我らが阪神タイガースが、優勝マジック29を点灯させたのは8月16日のこと。残り37試合で2位広島に8ゲーム差をつけていた。その後、一時はマジックが消滅し不安が頭をよぎったこともあったが、9月1日に再点灯してからは破竹の11連勝。14日に2005年以来18年ぶりのセ・リーグ優勝!を決め、岡田彰布監督が6回宙に舞った。

 

タイガースが永年の悲願を達成できた伏線には、2015年の球団運営方針の“大転換”があると言われている。

前回優勝した後、06年からの10年間でタイガースは7回、Aクラス(リーグ3位以内)に入っている。この間、メジャーから移籍した福留孝介選手ら「FA組」はチームを精神的に支え、外国人選手は度々タイトルを獲得している。14年にはメッセンジャーが最多勝と最多奪三振、呉昇恒はセーブ王、マートンは首位打者と、助っ人は大活躍している。近年ではスアレスが記憶に新しい。

このように補強面で失敗したとは言えないのに、ペナントには手が届かなかった。2015年には、9月上旬に首位に立ちながら最終的には3位に終わった。

 

その年、当時の坂井信也オーナーから大号令がかかった。

「チームを壊して一から出直しや。地道に、ドラフトで素材の良い選手を取り、育てて、自前の骨太なチームにしよう」

オーナーの決断により組織の方向性が明確になり、資金の確保、新人選手の獲得、ベテランと若手の良好な関係構築など、多方面にわたる新戦略・新戦術が展開されていった。

 

当時の球団社長であった南信男氏(私と同郷の高砂市曽根町出身)は、坂井オーナーのビジョンを具体的な行動に移す役割を担い、組織の日々の運営において中心的な存在だった。特に、選手育成やスカウティングの強化、ファンエンゲージメントの向上、そしてマネジメント層とのコミュニケーションを効率化するなど、多くの面で貢献したと言われている。

 

新方針実現に向けて、球団は強いリーダー「アニキ、金本知憲監督」を熱望した。

南さんは「大転換だった。3年でも5年でもかけてやろう、となった。手始めの仕事は金本さんを口説くこと。承諾が得られるまで何度でも足を運ぶとの思いだった」と、当時を振り返る。

そして、金本新監督は“超変革”を唱え、ドラフト戦略を投手重視から野手重視に転換。16年以降のドラフト1位指名は、大山悠輔、近本光司、佐藤輝明、森下翔太選手らである。これら生え抜きの若トラが、今のチームの主力となっている。

 

私がこのドラマを知ったのはごく最近のことである。タイガース躍進の背景に、オーナーの決断と関係者のたゆまぬ努力があったことを知り、大いに考えさせられるところがある。

 

明確なビジョンを打ち出し、そのビジョンに基づいて具体的な戦略を立て、その実現に向けた種々の戦術を実行する。政治においても同じことが言える。心地よい響きだけのスローガンや誰からも不平の出ない人事を繰り返していては、世界をリードし、社会の変革をもたらすような大成果は得られない。

 

日本をどんな国にしようとしているのか明確なビジョンを打ち出し、そのビジョンに基づいたゆるぎない長期政策を立て、具体的なロードマップを作成し着実に事業を実行する。それが政治のあるべき姿ではないだろうか。

国際卓越研究大学

永岡桂子文部科学大臣は、1日、“国際卓越研究大学”について、「東北大学を初の認定候補に選んだ」と発表した。国際卓越大に選定されると、10兆円規模の大学ファンドから年間数百億円規模の支援を最長25年間受けられる。世界のトップ水準の研究力を目指すための新しい仕組みだ。

東北大の他に東大、京大、筑波大、東京科学大(東京工業大と東京医科歯科大が統合予定)、東京理科大、早稲田大、名古屋大、大阪大、九州大の計10大学が応募した。その選考に際し、国内外10人からなる有識者会議を設置して、書類審査やヒアリングを実施、6月には第一次選考候補を東京大、京都大、東北大の3校に絞っていた。

審査のポイントは、まずは国際的に注目される研究論文数などこれまでの研究実績、それに加えて「大学の目指す未来像」、すなわち3%程度の事業成長など、意欲的な事業・財務戦力や、大学運営の体制づくりの視点が重要とされていた。

東北大は、次世代型放射光施設「ナノテラス」などを運用して最先端研究を進めるとともに、日本語と英語の公用語化を導入し、外国人研究者と留学生の比率をそれぞれ30%に増やすことなどの意欲的な戦略提案が評価された。
ただし、東北大が掲げた▽民間起業家らの研究資金額10倍▽海外研究者の受け入れなどは課題が残るとして認定に留保をつけ、認定候補として同会議が来年度の計画認可まで伴走支援するとした。

そもそも「10兆円規模の大学ファンド」は、2020年6月に私が会長を務める自由民主党の科学技術・イノベーション戦略調査会から提言したものである。提言案をもとに財務省との厳しい折衝を経て、経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太の方針)に「世界に伍する規模のファンドの創設」と明記され、2020年と2021年の補正予算で運用資金の拠出が実現したものである。

それだけに私は、今回の審査結果を期待を込めて注視してきた。様々な意見が寄せられる中、非常に厳しい審査であったと推察される。ここに至るまで有識者会議のメンバー各位のご努力に心より敬意を表したい。今後1年間伴走支援ということだが、さらなるご尽力をお願いしたい。

英語教育待ったなし

政府観光局(JNTO)によると、7月の訪日外国人旅行者数は232万600人となった。コロナ前の2019年の約8割まで回復したという。確かに東京駅のホームやコンコースは、いつも海外からの観光客と思われる方々で溢れている。

国別では、韓国62万6800人(2019年比11.6%増)、台湾42万2300人(同8.0%減)、中国31万3300人(同70.2%減)、香港21万6400人(同0.2%減)、米国19万8800人(同26.7%増)。中国の減少幅が大きいが、8月10日付で日本への団体旅行・パッケージツアーの販売禁止措置が撤廃されており、今後の急増が予想される。

 

一方で、「地球の歩き方」の調査によると、外国人旅行者が訪日中に不便に思うことの第1位は、「Wi-Fi環境」で31.5%。次いで「施設等のスタッフとのコミュニケーションがとれない」(20.2%)、3位「多言語表示の少なさ・わかりにくさ」(17.5%)、4位「公共交通の利用」、5位「ゴミ箱の少なさ」ということらしい。2位と3位は言葉に起因するものだ。

最近話題のチャットGPTに同じ質問をしてみると、1位「言語の問題」、2位「Wi-Fiアクセス」、3位「交通機関」、4位「現金主義」、5位「習慣やマナー」、6位「宿泊施設」、7位「食事」となった。やはり「言葉」が大きな課題となっている。

 

経済がグローバル化する中で、海外投資家から「日本は治安・秩序・インフラ等において圧倒的に優れているが、英語力不足で現地人材の雇用が困難」と指摘されている。世界の共通言語は英語であり、国際社会で議論をリードするためにも、科学技術イノベーション戦略の推進のためにも英語力は極めて重要である。

加えて、観光客からもこのような声がでている状況をみると、改めて「日本人の英語力向上」に向けて何らかの対策を講じなければなるまい。

英語教育の充実強化については、これまでも様々な試みが行われてきた。しかし、アジアにおける英語力ランキングでは、依然として韓国や中国に大幅に後れを取っている。今、英語教育のあり方が改めて問われている。

 

その方策をめぐって、過日、自民党「教育・人材力強化調査会」において、猪口邦子参議院議員からある提案が行われた。

「幼稚園保育園年齢からnative speakerによる一定の午後の時間を確保する。地域の国公立大学に在籍するnative speakerや教員や留学生が、幼保・小中高までの教育課程で、ボランティアやアルバイトとして、貢献し、協力しやすい環境を整備する」と言うものだ。幼児期からネイティブスピーカーの英語に触れる機会を十分に確保することによって、英語力の向上を図ろうとするものである。

 

2002年から2004年まで、軍縮会議日本政府代表部特命全権大使を務めた猪口議員の提案は、国際社会の現場を数多く見てきた経験に裏付けされたものである。今やDXの時代であり、幼児や生徒と会話するネイティブスピーカーは遠隔地にいても差し支えないだろう。ひょっとしたらAIでもその役割が果たせるかもしれない。これ以上の課題先送りは許されない。猪口提案を参考に何らかの形で、すべての子どもたちが活用できるシステムを構築したい。

今年の夏

7月27日、世界気象機関(WMO)と欧州連合の気象情報機関コペルニクス気候変動サービス(C3S)は、今年7月は観測史上最も暑い月となる公算が「きわめて大きい」と発表。これを受け、国連のグレテス事務総長は「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と警鐘を鳴らし、各国の指導者に気候変動対策を強化するよう訴えた。

 

日本でも記録破りの猛暑日が続いているが、灼熱の太陽のもと高校野球の聖地甲子園では、今年も球児たちの熱い戦いが繰り広げられている。

その甲子園を本拠地とする我らが阪神タイガースは、全国高校野球選手権大会期間中は、長期ロードを強いられることになる。

 

新幹線もなかった昭和30年代には、夜行列車を利用し、宿泊は大部屋で雑魚寝ということもあったようで、選手の肉体的負担も大きかったことから“死のロード”と言われていた。

今では新幹線のグリーン車や航空機で移動し、シティホテルの個室に宿泊となり、負担はずいぶん軽くなっている。冷房が行き届いたドーム球場での試合が続く場合もあり、「甲子園での連戦よりも楽」との声もあるようだ。

今年のロードは8月1日から始まった。甲子園に帰ってくるのは約1ケ月後の29日のDeNA三連戦になる。

 

15年ぶりに岡田彰布氏を監督に迎えたタイガース。開幕ダッシュに成功したものの、4月はその上をいく猛ダッシュのDeNAに及ばず二位。しかし、5月にそのDeNAとの甲子園直接対決で3連勝し首位に立った。その後、7月に一度だけ広島カープに首位の座を譲ったが一日で奪還、現在まで首位を走り続けている。

節目の100試合を消化した10日までの戦績は、58勝38敗4分の勝率は6割4厘で貯金は20。二位の広島カープとは4.5ゲーム差となっている。

 

ペナントレースも残すところ43試合。このままシーズンを走り続け、岡田監督口癖の「アレ」を! 是非とも18年ぶりの栄冠を勝ち得て欲しいと、心から願っている。

 

本拠地甲子園はもとより、日本中どこの球場に行っても黄色いユニフォームを着たタイガースファンの見事に揃った応援には頭が下がる思いである。

得点が入るたびに、応援席から湧き上がる「六甲おろし」が球場全体に広がっていくのを聞くとき、タイガースファンは最高に幸せな気持ちになる。私も時間を見つけて球場へ足を運び、そんな幸せな気分を味わいたいものだ。

 

3年半のコロナ禍から解放された今年は、各地で夏祭りやイベントも復活し、久しぶりに地元で忙しい日々を送っている。

15日の終戦記念日には上京して、今年も日本武道館での全国戦没者追悼式に出席する。国のために命をささげられた方々、戦渦の犠牲になられた方々に哀悼の意を表することはもちろんであるが、この機に改めて平和の持続に感謝し、永久の不戦を誓いたい。

 

戦後78年が経とうとしている。私の人生とほぼ同じ歩みである。この国の戦後の歩みについて改めて振り返り、未来に思いを馳せると同時に、自らの人生を振り返り今後の行く末を考える。そんな終戦記念日にできれば幸いである。

高校授業料の無償化

少子化の議論の中心的課題である教育費の負担軽減について、大阪府が打ち出した「高校授業料の全面無償化」の計画案をめぐり、教育現場に波紋が広がっている。

大阪府では「高校間の競争と淘汰」を揚げた橋下徹府知事(当時)のもと、2010年度から無償制度を進め対象を徐々に広げてきた。その結果、府内では22年度の私立高校入学者は10年度比で6%増え、2割超減った公立とは対照的な姿をみせている。

 

今回の府の案は、対象世帯の所得制限を段階的に廃止し、2026年度に全生徒の授業料を実質無償にする内容だ。

統一地方選挙の目玉政策として打ち出したが、定員割れの相次ぐ公立高のみならず、私立高やその保護者も反発。不満が噴出している。無償化の進展とともに、恩恵を受けたはずの私立高にも反発が広がるのはなぜなのか。

 

その最大の理由は、私学の経営権に制限を加えるような制度設計にある。府の補助対象は私立高校授業料の平均から算出した「1人あたり年間60万円」を上限とし、超過分は学校側が負担する仕組みとなっている。従来の一般的な制度では、公費補助の超過分は家庭が負担するのものだが、今回の案では学校に負担を求めるという異例の形式だ。

大阪維新の歴代知事と同じく、負担を家計に回せば「無償化が形骸化する」との考えにこだわってきた経緯がある。

 

府内の私立高のうち、授業料が60万円以下なのは約6割にとどまる。今回の案を受け入れれば、残りの4割の学校で「持ち出し」=学校側の負担増が発生することになる。その額は全体で年間8億円に及び、学校経営が圧迫されることは避けられない。

授業料を無理に60万円以下に収めようとすれば、教職員の削減、校舎等の設備更新の先送りなどの経費抑制が必要となり、それは教育環境の質の低下を招くことになる。保護者が憂慮するのはまさにその点だ。

無償化に不参加という道を選べば、生徒募集で不利を被ることとなり、これも結果的に経営体力が奪われることにつながる。

このように教育を提供する側にも、受ける側にも不合理な結果が予想される案には、疑問を呈さざるを得ない。

 

大阪府の無償化案は、兵庫県をはじめ近隣府県の私立高校にも大きな影響を与える。大阪府から通学する生徒を受け入れる場合には、府内の私学と同様に超過負担を求める仕組みとなっているためだ。

6月19日、大阪市内で近畿2府4県の私学団体による意見交換会があった。

出席した灘高参与で前校長の和田孫博さんは、府の完全無償化を「兵庫の生徒にも不公平になる」と批判。ほかの参加者からも反対や懸念の声が相次いだ。

 

全国屈指の進学校である灘高では、約660人の生徒の3割が大阪府から通学している。200人分として年間約1600万円の学校負担が生じる、つまり収入が減少するという。

和田さんは「完全無償化は理念としては賛成だが、大阪府の施策によって兵庫県を含めた生徒たちの教育の質が下がるのは本末転倒だ」と話す。

兵庫県私立中学高等学校連合会によると、授業料平均は約45万円だが、施設整備などその他の費用は学校によって様々であるため、現時点では参加高校の見通しは不透明だとする。

 

大阪府は「賛同してもらえる学校だけに参加してもらう形を想定している」とし、近く同連合会に素案を説明。8月をめどに制度案をまとめるとのこと。

「全面無償化」と言う言葉にこだわり、学校経営の自由度を束縛し、教育の質の低下を招くことのないよう、ましてや周辺府県の学校運営に悪影響を与えないよう再考を求めたい。

安倍元総理一周忌に思う

安倍晋三元総理大臣が奈良市での街頭応援演説中に銃撃され、凶弾に倒れてから1年。8日には、東京・港区の増上寺で一周忌法要が営まれた。午前中の法要は、安倍昭恵夫人や親族のほか、岸田文雄総理をはじめ歴代総理、親交のあった政界・経済界の関係者のみで執り行われた。午後には我々国会議員にも焼香の機会が設けられたので、遺影にこうべを垂れ、手を合わせてきた。

 

境内に設けられた一般向けの献花台では、訪れた方々が次々と花を手向け、周囲に設置された安倍氏の生前のパネルの前で写真撮影をされる方も多かった。また、惨劇があった奈良市の近鉄西大寺前駅にも献花台が設けられ、朝から多くの方々が弔意を示したとも報じられている。

増上寺には約5,000人、奈良の現場には約4,000人の献花者が訪れたという。改めて安倍元総理の国民的人気の高さが偲ばれる。

 

私が初めて安倍さんに会ったのは1986年のこと。

当時自民党総務会長であった父君の安倍晋太郎先生が、タイのアジア工科大学院名誉工学博士の授与式に外遊された際に、当選したての新人議員として同僚とともに同行した時だった。

安倍さんは晋太郎先生の秘書として随行されていたが、当時はどちらかと言うと控えめな青年で、後の“闘う政治家”との印象は全くなかったと記憶している。

 

その後、晋太郎先生の死去に伴い後継者として衆院選に初当選されたのが1993年。私はその時の総選挙では、自民党を離党して「新党さきがけ」に所属していたので、接点はあまりなかったのだが…。

復党後の2005年のいわゆる郵政解散選挙で、若手のリーダーと言われメキメキ頭角を現していた安倍さんには、党幹部として加古川に応援に駆けつけていただいた。安倍さんはサラリーマン時代の初任地が神戸製鋼所加古川製鉄所だったので、街頭応援演説で駅前の焼鳥屋の話題などを懐かしそうにスピーチされたのを今も鮮明に記憶している。

 

仕事上での安倍さんとの思い出といえば、2018年の「公立小中学校等のクーラー設置」と2019年の「GIGAスクールの推進」の二つが思い起こされる。

これらのプロジェクトは時代の要請に応えたものなので、いずれは実現したであろうが、総理としての決断と指導力がなければ、ゆっくりとしか進まなかっただろう。

中でもGIGAスクールの推進は財務省の抵抗が強く、総理の強力な後押しがなければ、あのタイミングでの実現は難しかったと思う。結果論ではあるが、後のコロナ感染拡大による学校閉鎖などを考えると、本当にやっておいて良かったと思っている。

 

メディアでも報じられているが、安倍さんと生前に関係のあった人々をはじめ、多くの国民が様々な思いを馳せた7月8日であった。

一周忌にあわせて有志によって開かれた都内での集会で岸田総理は、1993年の初当選以来およそ30年にわたって親交を深めた思い出を語り、安倍さんの遺志を受け継ぎ我が国が直面するさまざまな課題の解決に全力を挙げる考えを強調された。

 

現政権が抱える政策課題には、憲法改正や拉致問題、防衛力の強化や自由で開かれたインド太平洋構想の推進など、安倍イズムを継承した案件が数多い。

一方で岸田総理は、自らが提唱する新しい資本主義の具体化やアベノミクスからの出口戦略など、そろそろ自らのカラーを前面に押し出した政策推進に力点を置いても良いのではないかと、私は思っている。

 

 

公立小中学校等のクーラー設置=近年、気候変動の影響により学校管理下において熱中症が多発。2018年度には全国で7,000件を超えた。2017年のクーラー設置状況は普通教室52.2%、特別教室(音楽室等)36.6%。それが2018年度補正で抜本的な設置加速を打ち出してから急速に改善。2022年9月現在、それぞれ95.7%と63.3%となっている。

 

GIGAスクール=全国の児童・生徒に1人1台のパソコンと、コミュニケーションツールとして高速大容量の通信ネットワークを一体的に活用整備する構想。2019年から導入され、コロナ禍でオンライン化の可能性が再確認された。教育現場が劇的に変貌しつつあり、海外からも「日本に倣え」と注目を集めている。

解散の大義

先週16日の衆議院本会議で、立憲民主党が提出した岸田文雄内閣不信任決議案の採決が行われた。泉健太代表による提案趣旨弁明は、防衛政策の戦略性欠如や防衛費大幅増額、子育て支援策の財源問題、マイナンバーカードを巡るトラブル等々、国民の不安を顧みない岸田政権の政治姿勢は政権を担当する資格がない、とするものであった。

採決では与党の自民・公明両党のほか、日本維新の会と国民民主党などの圧倒的反対多数で否決された。

 

内閣不信任決議案が提出されると他の審議はすべてストップし、その採決が最優先となる。憲法第69条は衆院で決議案が可決された場合、内閣は10日以内に衆院を解散しない限り、総辞職しなければならないと定めている。

かつて可決されたのは4回。1948年と53年の吉田茂内閣、80年の大平正芳内閣、93年の宮沢喜一内閣だ。いずれもドラマチックな展開で解散総選挙に至っている。

 

80年は野党が提出した決議案の採決に、党内反主流の福田派や三木派が欠席したため可決。憲政史上初の衆参同日選が行われ、そのさなかに大平総理が急死されたが、選挙結果は両院とも自民党が大勝した。

父・元三郎にとっては10回目の衆院選であったが、当時、肝臓を患い病床に伏していた。そのため、選挙が大嫌いだった私が父に代わって最前線で戦うことを強いられたのだった。ハプニング解散と名付けられたあの選挙がなかったら、その後の私の政治人生は無かったかもしれない。

 

93年は、政治資金や選挙制度改革を巡る自民党内の対立を受け、小沢一郎氏らが造反して賛成に回り不信任案が可決された。多数の離党者を出した自民党は総選挙で過半数を確保できず、非自民8党派による細川護熙連立政権が誕生。自社二大政党による55年体制に終止符が打たれた。

当時私は、仲間とともに秋に新党を結成すべく準備を水面下で進めていたが、急遽自民党を離党し、「新党さきがけ」の結党に参加して総選挙に臨んだ。あの時、不信任案可決という展開がなければ、その後の政局も大きく変わっていたかもしれない。

 

これらのケースのようにハプニングで不信任案が可決された場合はともかく、与党が議席の過半数を有する場合は粛々と否決すれば良いのであり、解散の必要はない。仮に解散を行うとすれば、それは憲法第7条に基づく天皇の国事行為ということだ。当然、それに値する大義が必要となる。大義とは国政を左右する政策転換に際して国民の信を問うということであり、不信任案提出自体は大義とは言えないだろう。メディア各社の調査でも、現時点での総選挙に肯定的な国民世論は高くない。強行していれば党利党略との批判は免れなかっただろう。

 

このコラムでも言及したが、私は現時点での解散には反対なので、今回の総理の判断は妥当だと考えている。

解散がなければ2年先の参議院選挙まで大型の国政選挙は行われない。国民から与えられた議席の重みを大切にして、この間に山積するこの国の課題解決に最大限の努力を行うべきである。岸田総理には政権延命に捉われることなく、この国の未来への責任を果たすべく、リーダーシップを発揮してほしい。