高校授業料の無償化

少子化の議論の中心的課題である教育費の負担軽減について、大阪府が打ち出した「高校授業料の全面無償化」の計画案をめぐり、教育現場に波紋が広がっている。

大阪府では「高校間の競争と淘汰」を揚げた橋下徹府知事(当時)のもと、2010年度から無償制度を進め対象を徐々に広げてきた。その結果、府内では22年度の私立高校入学者は10年度比で6%増え、2割超減った公立とは対照的な姿をみせている。

 

今回の府の案は、対象世帯の所得制限を段階的に廃止し、2026年度に全生徒の授業料を実質無償にする内容だ。

統一地方選挙の目玉政策として打ち出したが、定員割れの相次ぐ公立高のみならず、私立高やその保護者も反発。不満が噴出している。無償化の進展とともに、恩恵を受けたはずの私立高にも反発が広がるのはなぜなのか。

 

その最大の理由は、私学の経営権に制限を加えるような制度設計にある。府の補助対象は私立高校授業料の平均から算出した「1人あたり年間60万円」を上限とし、超過分は学校側が負担する仕組みとなっている。従来の一般的な制度では、公費補助の超過分は家庭が負担するのものだが、今回の案では学校に負担を求めるという異例の形式だ。

大阪維新の歴代知事と同じく、負担を家計に回せば「無償化が形骸化する」との考えにこだわってきた経緯がある。

 

府内の私立高のうち、授業料が60万円以下なのは約6割にとどまる。今回の案を受け入れれば、残りの4割の学校で「持ち出し」=学校側の負担増が発生することになる。その額は全体で年間8億円に及び、学校経営が圧迫されることは避けられない。

授業料を無理に60万円以下に収めようとすれば、教職員の削減、校舎等の設備更新の先送りなどの経費抑制が必要となり、それは教育環境の質の低下を招くことになる。保護者が憂慮するのはまさにその点だ。

無償化に不参加という道を選べば、生徒募集で不利を被ることとなり、これも結果的に経営体力が奪われることにつながる。

このように教育を提供する側にも、受ける側にも不合理な結果が予想される案には、疑問を呈さざるを得ない。

 

大阪府の無償化案は、兵庫県をはじめ近隣府県の私立高校にも大きな影響を与える。大阪府から通学する生徒を受け入れる場合には、府内の私学と同様に超過負担を求める仕組みとなっているためだ。

6月19日、大阪市内で近畿2府4県の私学団体による意見交換会があった。

出席した灘高参与で前校長の和田孫博さんは、府の完全無償化を「兵庫の生徒にも不公平になる」と批判。ほかの参加者からも反対や懸念の声が相次いだ。

 

全国屈指の進学校である灘高では、約660人の生徒の3割が大阪府から通学している。200人分として年間約1600万円の学校負担が生じる、つまり収入が減少するという。

和田さんは「完全無償化は理念としては賛成だが、大阪府の施策によって兵庫県を含めた生徒たちの教育の質が下がるのは本末転倒だ」と話す。

兵庫県私立中学高等学校連合会によると、授業料平均は約45万円だが、施設整備などその他の費用は学校によって様々であるため、現時点では参加高校の見通しは不透明だとする。

 

大阪府は「賛同してもらえる学校だけに参加してもらう形を想定している」とし、近く同連合会に素案を説明。8月をめどに制度案をまとめるとのこと。

「全面無償化」と言う言葉にこだわり、学校経営の自由度を束縛し、教育の質の低下を招くことのないよう、ましてや周辺府県の学校運営に悪影響を与えないよう再考を求めたい。