ニッポン

開催の賛否をめぐって国論が二分された東京オリンピックも開会から早や一週

間が経過した。開催都市に非常事態宣言が発出されるという状況のもと、ほとん

どの競技が無観客という苦渋の選択を余儀なくされた大会である。国民の皆さん

がどのように評価されるか、些か心配していたのだが、前半戦から日本選手の活

躍が次々と報じられ、今のところ大いに盛り上がっているように感じる。



 朝刊の一面には、連日、金メダルを手にしたオリンピックチャンピオンの笑顔

が弾け続けている。水泳女子個人メドレー200mと400mの二冠を制した大橋悠依

選手。卓球では混合ダブルス世界ランク2位の水谷隼・伊藤美誠選手が五輪史上

日本人はじめての金メダルを獲得した。また、1896年の近代五輪アテネ大会から

競技種目であったフェンシング男子エペ団体優勝、日本勢初の快挙を成し遂げた。

 お家芸の柔道競技では、五輪同日金メダルを決めた阿部一二三・詩兄妹をはじ

めメダルラッシュ(金9、銀1、銅1)が続いている。30日現在の日本のメダル

獲得数は金17、銀4、銅7個。金メダル獲得数は過去最多の前回東京大会の16個を

すでに上回っている。



 2008年北京大会以来、久々に復活した女子ソフトボールでは、宿敵米国を決勝

で2対0で下し優勝。エース上野由岐子選手の13年前と変わらぬ熱投は、多くの

人々の感動を呼んだ。

 体操男子の個人総合では体操ニッポンの若きエース19歳の橋本大輝選手が、最

終種目の鉄棒で大逆転で優勝、団体でも首位と僅差の2位で銀メダルを獲得した。

 今回初めて採用されたスケートボード、サーフィン競技でも日本の若い力が躍

動した。国際的舞台で活躍する彼らの姿に我が国の未来の可能性を垣間見た思い

がする。



 反面、鉄棒で落下した体操界のレジェンド内村航平選手、金メダル最有力と言

われながら予選で敗退した桃田賢斗選手、同じく競泳の瀬戸大也選手など、期待

に応えられず悔し涙を流した選手も多い。開会式で聖火の最終ランナーを務めた

大坂なおみ選手もその一人だ。オリンピックは何が起こるか分からないと言われ

るが、まさにそのとおりである。

 勝利して流すうれし涙、敗れて流す口惜し涙。涙の種類は違っても選手の涙は

見る人に感動を運んでくれる。メダルの色は違っても、表彰台の選手たちは最高

に輝いている。多くの感動を運んでくれた選手たちに、心から拍手を送りたいと

思う。


 
 大会が盛り上がる一方で気がかりなのは、新型コロナウイルスの感染拡大であ

る。29日には全国の感染者数が10,000人を超え、30日には緊急非常事態が首都圏

3県と大阪府にも発出されることが決定された。

 感染拡大とオリンピック開催の関係が取り沙汰されているが、そのような議論

に時間を割くよりも、ワクチン接種を如何にして加速するか、不要不急の移動を

如何にして抑制するかを議論し、早急に具体的手立てを講じるべきである。さら

には、コロナ対策の切り札となる治療薬の開発も急がなければならない。私が会

長を務める科学技術・イノベーション戦略調査会の“医療分野の研究に関する小

委員会”の出番である。



 緊急事態宣言下のオリンピック開催の是非についての評価は、歴史の判断に委

ねることとしたいが、TOKYO 2020が「やって良かった」と言われるような結果に

なることを切に願っている。そのためにも、国民の不安が解消され迅速かつ適切

な対応が政治に求められている。