夏まで、「7月の参院選が終われば衆議院を解散しない限り三年先の参院選まで大型の国政選挙はない。選挙を意識することなく、党派を超えて国政の重要課題の議論ができる、いわゆる『黄金の3年間』になる」と言われていた。
政権発足直後の衆院選で勝利し、以降の内閣支持率も比較的高位で安定していた岸田政権。参院選に勝利すれば、「黄金の3年間」を獲得し、安定政権の下で政策実現に専念できる筈だった…。
それがここに来て、政治情勢は全く違った展開、様相を呈してきている。安定して推移してきた支持率は下落の一途を辿り、調査によっては政権維持が困難な危険水域と言われる3割を割り込んでいる。
安倍晋三元総理の国葬や旧統一教会問題への対処で躓き、この1カ月の間には3人の閣僚が相次いで辞任するという失態が生じた。このような状況を招いた岸田総理の政権運営には党内からも疑問が投げかけられている。
政権浮揚のために、総理が人事を刷新する内閣再改造を検討しているとの説が流れているが、8月に改造したばかりで現実的ではなかろう。また、党内には野党の選挙態勢が十分でない内に、解散総選挙に打って出て国民の信を得て政権を強化すべきとの意見もあるそうだが、私はそうは思わない。
世論調査を見る限りでは、自民党は若干支持率を下げているものの、各党ともそれほど大きな変化も見られない。今はまだ政権与党が国民に信を問わなければならないという状況ではない。このような時期の解散は、いたずらに政治空白を作るだけであり、日本のためにはならない。
今議論すべき政策課題は山積している。なかでも急激に進展した円安と物価高騰対策、コロナの先を見据えた経済政策は一刻も早く実行に移さなくてはならない。社会保障改革や少子化対策、防衛力強化など、国民に新たな負担を求めなければならない課題もある。長年の懸案である憲法改正の議論を進める上でも、この3年間は貴重な時間だ。
この前の「黄金の3年間」は、2013年参院選から2016年の参院選までの3年間であった。この間、アベノミクスによる異次元の金融緩和が進み、消費税率の引き上げにより社会保障財源が拡大した。自衛隊法の改正をはじめとする平和安全法制も整った。
今回の3か年の年月も有意に活用し、大きな政策の変革期としなくてはならない。目の前の課題への対応はもとより、与野党の垣根を越えて日本の未来について大いに議論をする、そんな「黄金の3年間」にできないものだろうか。
この機会を逃したら、当分の間、同じような政治的安定は得られないのだから。