新しい景色

現地の気候を考慮して11月開催となったワールドカップ2022カタール大会。大会前には盛り上がりに欠けるともいわれていたが、予選リーグでの日本代表の大活躍で、ここへきて異常な盛り上がりを見せている。

 

日本が入った1次リーグE組は「死の組」と呼ばれる厳しい組み合わせのグループ。世界ランキングではスペインが7位、ドイツは11位でコスタリカが31位、日本は24位だ。

そのE組で、日本がドイツに続いてスペインからも逆転勝利を収め、勝ち点6で決勝トーナメントに駒を進めた。下馬評を覆し、優勝経験のある欧州の強豪2カ国(ドイツ4回、スペイン1回)から奪った白星は、日本のサッカー史にしっかりと刻まれる快挙だ。

 

日本代表メンバー26人のうち19人は欧州クラブに在籍し、常に世界レベルの環境に身を置いている。もちろん長い歴史を誇る欧州サッカーからまだまだ学ぶべき点は多いが、今大会を通じて、日本のレベルは着実に上がっていることが証明されたと言えるのではないか。

 

スペイン戦での決勝ゴールとなった日本の2点目は、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)で得点が認められた。TVの映像では、MF三苫選手がクロスを上げる前にゴールラインを割っているように見えたが、VARが2分半かけて確認し、ゴールが認められた。

近年は様々なスポーツ競技でVARが導入されている。サッカーの競技規則では、ボールがラインを越えているかどうかについて、ボールの接地面がラインに触れていなくても、ラインの上空にボールの一部がかかっていれば(ラインから上空に引いた線の上にボールの端がかかっていれば)、インプレーとなるとのことだ。

 

今大会使用のボールにはドイツ製のセンサーチップが組み込まれていて、ミリ単位でボールの位置が確認できるとのこと。このシステムがなく審判の目視による判断だったら、結果が変わっていたかもしれない。テクノロジーの進歩がスポーツの勝敗を分けたともいえる。その結果、日本の勝利によりドイツは予選リーグ敗退となったのだから、何ともドラマチックな展開だ。

 

近年スポーツの世界では、テクノロジーの進歩により、様々な新しい試みが行われている。VARによる判定もその1つであるが、データサイエンスを駆使した練習方法やAIによる戦力の分析等は、競技レベルをさらなる高みに引き上げる可能性を持っている。

しかし、どんなにテクノロジーが進歩しても、スポーツの主役は人である。練習によって鍛えられたアスリートの体力や技術、精神力によるパフォーマンスが不可欠だ。そして、そんなアスリートの姿が、観る人の心に感動を届けるのだ。

 

空前のラグビーブームを巻き起こした2019ラグビーW杯から、2020東京オリンピック・パラリンピック、2021ワールドマスターズゲームズへとゴールデン・スポーツイヤーズが続くと期待されていた。残念ながらコロナウィルスのまん延により、オリパラは無観客開催となり、マスターズは2027へ延期されたが、サッカーW杯の日本代表の活躍によって、スポーツの興奮が再び戻ってきた。

 

日本代表は初のベスト8進出を目指しているが、その目標達成まであと1勝。決勝トーナメントの1回戦の相手は前回準優勝で世界ランキング12位のクロアチアだ。日本代表の歴史を更に塗り替える戦いとなることを期待したい。森保監督のいう「新しい景色」、明るい話題が少ない今の日本には、それが最大の景気浮揚策となるかもしれない。