国立大学再編

少し前の話になるが、創立100年以上の歴史と伝統を有する2つの国立大学、東京工業大学と東京医科歯科大学が研究力強化のため、統合に向けた協議を始めるとの発表があった。

2004年の国立大学の独立法人化を契機として、多くの大学統合が行われてきたが、研究力が国内最高水準に指定されている「指定国立大学*」同士としては初めてのこと。今後、合同の会議を設けて議論を重ね、運営法人の傘下に2つの大学を置くか、1大学とするかなど、具体的な方針を決めるとされている。異分野融合により幅広い先端研究を展開し、社会の課題解決に貢献する大学が誕生することを期待したい。

さらに私見を加えさせていただければ、イノベーションを次々と引き起こすには「文理融合の思考力」が必須の時代が訪れている。理科系の両大学に、社会科学分野で強みを持つ一橋大学が加われば、さらに強力かつ存在感のある大学になるのではないかとも思う。

今回の動きは、昨年創設した「大学ファンド」の影響だろう。10兆円規模のこのファンドの支援を受け、革新的研究開発に取り組むためには、大学間競争に打ち勝ち「国際卓越研究大学」の資格獲得が有力な手段となる。両大学はこの認定を受けるために統合への道を選択したと考えられる。

大学ファンドの議論の中で、大学再編が起こることは想定していたが、今回の統合はインパクトも大きく、心から歓迎したい。これを契機に、今後、次々と統合連携が進み、各大学の研究開発力が充実強化していくことを期待している。

我が国の人口は、今後、数十年にわたり減少を続ける。よほど留学生が増大しない限り、リカレント学習需要が急拡大しない限り、学生数の減少に応じた大学の再編は避けられない。国・公・私の垣根を越えた再編・統合も望まれるが、それぞれの法人の成り立ちからして極めてハードルは高い。国による助成制度が大きく違うことも障害となっている。容易ではないだろうが、一つひとつ課題を解決し、統合促進策を生み出していきたい。

26日の党・科学技術イノベーション戦略調査会では、前述の大学ファンドの「公募に向けての基本方針」の策定について、出席議員から多くの意見が出された。過去の実績よりも未来のビジョンや可能性を重要視するとの主旨が大半で、政府案の承認は見送り再検討となった。大学ファンドは当調査会からの発案であり、これからもしっかり議論してより良いものに仕上げていきたい。

猛暑に見舞われた今年の夏も、ここへ来て少しは凌ぎやすくなってきた。政府与党内では来年度予算の概算要求のとりまとめ作業が大詰めを迎えている。昨年10月に誕生した岸田内閣としては、自ら手がける初めての概算要求となる。しっかりと岸田カラーを打ち出すべくメリハリの効いたものとしなければならない。

私が会長の任にある科学技術・イノベーション戦略調査会でも、新しい資本主義の中心テーマである「人への投資」を充実すべく諸課題に取り組んでいる。今年は特に「国際頭脳循環」をテーマに、国際共同研究や国際的な人事交流に力を注ぎたいと考えている。概算要求でもその方向性をしっかりと打ち出したい。

※指定国立大学法人:平成29年4月、国立大学法の改正により、我が国の大学における教育研究水準の著しい向上とイノベーション創出を図るため、文部科学大臣が世界最高水準の教育研究活動の展開が相当程度見込まれる国立大学法人を「指定国立大学法人」として指定することが出来る制度を創設。