官民連携ゲノム解析チームを!

 政府は5日夜、新型コロナウイルス感染症の対策本部会合を開き、首都圏4都県に発令中の緊急事態宣言について、期限を21日まで2週間延長すると決定した。またこの延長に伴い、感染再拡大の予兆や感染源を早期に掴むためのモニタリング検査の実施や、感染者の濃厚接触者などを調べる「積極的疫学調査」の強化等を新たに対処方針に盛り込んだ。

 RNAウイルスは絶えず変異を繰りかえす。今回のコロナウイルスも既に英国型、南ア型等の変異株が次々と現れている。日本オリジナルの強力な変異株が、いつ生まれないとも限らない。

 そこで過日、慶応大学医学部臨床遺伝学センター長の小崎健次郎教授を、党の科学技術・イノベーション戦略調査会にお招きし、14病院での全ゲノム解析に基づく研究成果を「新型コロナウイルスの変異のモニタリング」と題してお話し頂いた。

 その中で小崎教授から、現下の変異株問題への対応策として早急に整備すべき体制について有意義な提案を頂いた。

それは、

①  国(厚労省・感染研)が全体の司令塔となる。

②  大学医学部とその連携病院等の「臨床研究ネットワーク」を、保健所・地方衛生研究所・国立感染症研究所の「公衆衛生ネットワーク」とリンクさせ、全国をカバーして立ち上げる。

③  現行の「公衆衛生ネットワーク」での変異株同定と並行し、ゲノム解析能力を有する大学等がウイルス全ゲノム解析を行い、既知の変異株に加え新たな「日本型」変異株も常時同定可能とする。

④  大学等での解析データは、感染研に集約すると同時に連携病院等に還元、院内感染管理、治療法開発等に寄与する。

⑤  同時に係るデータは、個人情報保護を前提に時期や場所を特定しつつ国民、研究者、製薬企業等、世界に積極開示し、国際データベースのGISAIDへも公開する。

⑥  大学等は、研究・論文作成を加速し、未知の変異株解明に寄与する。

というものだ。

 実はこのような趣旨は、昨夏以来、自民党の行革推進本部からも、コロナ対策本部感染症対策小委員会からも、私が会長を勤める科学技術・イノベーション戦略調査会からも、政府に対して提言が行われている。いずれも、(1)有事は国が司令塔となる、(2)「公衆衛生・疫学研究」と「地域医療・臨床研究」の一体化を行う、(3)感染症データは国が一元管理データは国が一元管理するとともに積極開示を行う、という点で共通する。

 ウイルスの変容を早期に捉え、素早く対応策を講ずるには、水も漏らさない広範な調査と高精度のゲノム分析を迅速に行う体制が求められる。これは今回のコロナ対応に限らず、一般的な感染症対策として必要な備えである。しかしながら、現在我が国の疫学調査は、保健所ごとに対象もレベルもバラバラで統制がとれていない。また、ゲノム解析は国立感染症研究所のみが担うという極めて貧弱な体制である。

 それにも関わらず、未だに政府の総合体制整備が進んでないことに、些か苛立ちを覚えている。特に(2)「公衆衛生・疫学研究」と「地域医療・臨床研究」の一体化については、政府(主に厚労省と文科省)に任せていても一向に進展しないだろう。

 ここは政治の出番、政治の責任とリーダーシップで解決しなければならない。真っ先に実施すべきは、変異株を漏れなく発見する「官民連携ゲノム解析チーム」体制の構築だ。大学医学部や民間検査会社等、ゲノム解析能力を保有する機関を連携させる必要がある。感染症サーベイランスの充実は必須の課題だが、仮に日本で第4波が発生し、欧米のような感染者の急拡大、重症者の急増を招いても、しっかりと対応できるようシミュレートしておくことも重要である。

 自民党コロナ本部ガバナンス小委員会での変異株対策検討作業が先週から始まった。データヘルス推進特命委と科学技術・イノベーション戦略調査会がともに協力して、三者一体でこの課題を早期に解決しなければならない。