今年は12年に一度の統一地方選と参院選が重なる亥年の選挙イヤー。国会審議日程が非常にタイトとなるので政府は提出法案を絞り、加えて対決法案も避けた。その効果で国会は極めて平穏に推移していたが、ここにきて場外での失言に起因する閣僚の辞任、更迭騒ぎが続き、安倍政権は対応に追われている。
この状況に、統一地方選前半戦、大阪の維新以外はもう一つ振るわなかった野党各党が、にわかに勢いづいている。
閣僚の辞任ドミノとも言える光景は、ちょうど12年前の選挙イヤーでも見られた。
当時の第一次安倍政権は、相次ぐ閣僚の不祥事による辞任と消えた年金問題から弱体化、夏の参院選で自民党は歴史的大敗(改選64議席→37議席)を喫した。首相は続投を宣言したものの、自身の健康問題もあり最終的には退陣に追い込まれた。
参院の与野党勢力逆転(自83+公20VS民主109)により、以降の自公政権も苦しい国会運営を強いられ、平成21年(2009年)の政権交代へと繋がっていくことになる。
ただ、今年は前回の亥年と違い、野党勢力が分散しており、参院選に向けた選挙協力も進展がみられない。少々政権批判の声が高まっても、「安倍首相退陣、枝野内閣組閣」といった雰囲気には程遠い。(だからと言って、閣僚が失言を続けて良いというわけではない。)
野党の参院選候補者調整が難航している原因は、野党第一党の立憲民主党(以下、「立民」)と第二党の国民民主党(以下、「国民」)の再編にむけての主導権争いにある。両党とも選挙を意識して、一致点を見出すよりも、むしろ独自色を出そうとする傾向が強まっている。
統一地方選を見ても、両党の支持母体である連合が、官公労中心の旧総評系労組は主に「立民」を支援し、民間労組主体の旧同盟系労組は主に「国民」を支援するという、股裂き状態を強いられている。政策面での相違点は、憲法改正と原発政策だろう。
「国民」は憲法議論には積極的な態度を表明しているが、「立民」は安倍総理の下での憲法改正議論には一切応じないという。
原発に関しては、民主党政権時代にまとめた「2030年代原発ゼロ」の目標を維持して先の総選挙を闘った「立民」は、昨年3月に「原発ゼロ基本法」をいくつかの野党と国会に提案している。一方、電力総連の組織内候補を参院に擁立する「国民」は、「政治的スローガンとして既存原発ゼロを主張するだけでは無責任」と牽制する。
統一地方選前半終了直後、菅直人「立民」最高顧問がツイッターで「「国民」は政治理念が不明確なので解散し、参院選までに個々の議員の判断で「立民」との再結集に参加するのが望ましい」と投稿した。江田憲司氏も「「立民」がもっと積極的に候補者をぶつけていたら、「国民」は壊滅した」と投稿。いずれも統一地方選の結果を受けて、「立民」中心の野党再編成を主張したものだ。もちろん「国民」側はこれらの声に猛反発している。
これらの投稿には身内からも批判が噴出している。野田佳彦前首相は、「対自民党との決勝戦に勝つかどうかが大事なのに、準決勝のことしか考えていない」と苦言を呈した。
旧民主党から現在に至る経緯(民主党→民進党→希望の党→分裂)もあり、「立民」、「国民」両党の感情的なしこりは相当根深いものがある。
イギリスにおいてもブレグジット(EU離脱)をめぐって膠着状態が続き一向に出口が見えない。イギリス国民は「内輪もめと政治ゲーム」にうんざりしているようだ。
国会は経済や国民生活のために政策の方向を議論し、決定する場である。健全な議論のためには明確な政策の対立軸が必要であり、その主体として大きな主張の方向性に応じて結成されるのが政党であるべきだ。そして政党には、細かな意見の相違はあっても、党として一つの主張をまとめ上げる調整能力が求められる。
失言の追及ではなく、しっかりと噛み合った政策議論ができる与党と野党、政権交代可能な二大政党の時代は、いつ来るのだろうか?
とにかく「野党再編が進まない故に、政権与党内に気の緩みが生ずる」といったことがないよう、心を引き締めて選挙戦に臨まなくてはならない。