日本版NEC

 先月27日、平成31年度予算が参院本会議で自公などの賛成多数で政府案通り成立した。一般会計予算総額は過去最大の101兆4,571億円、当初予算で初めて100兆円を超えた。
29日には41道府県議選と17政令市議選がスタート。統一地方選の前半戦は、先に告示された11道府県知事選とあわせて7日に投開票される。政治は一斉に選挙モードに突入した。
政治日程が窮屈な中、先週は党本部で多くの会議が開催され、私にとっても会議室を梯子するほど、とても忙しい一週間だった。

 そんな中、私も所属するルール形成戦略議員連盟(甘利 明会長)で、戦略的外交・経済政策の司令塔となる「国家経済会議(日本版NEC)創設」の提言を急遽取りまとめた。従来、通商政策と安全保障政策は別個のものと捉えられて来たが、今や米中両国は経済力と安全保障を一体化して覇権争いを強めている。我が国もこういった情勢変化への対応を急がなくてはならない。

 デジタル帝国主義をめぐる争いとも呼ばれる米中新冷戦は、ハイテク摩擦、データ(デジタル)覇権争いを舞台に激化している。
 中国・通信機器最大手の華為(ファーウェイ)は、中国都市部を100%カバーするAI監視システム“天網”の基幹技術を担っている。一説には、僅か数秒で20億人の顔が判別できるシステムだと言われている。
この技術を展開すれば世界中の社会を管理(人々の動きを監視し、情報を入手)することも可能になる。中国は2017年に国内外の組織や個人に情報工作活動の協力を義務付けた「国家情報法」を制定しており、ファーウェイ社がこの法律の下に世界規模の諜報活動を行うことも否定できない。すでに同社は、80カ国・約200都市のプロジェクトに関わっており、世界中に“天網”システムが普及してしまう可能性もある。

 また、「一帯一路」(現代版シルクロード)経済圏構想では、AIIB(アジアインフラ投資銀行)によるインフラ投資への資金提供を切り口に、中国の政治的影響力を拡大している。
このような、経済的な外交術を操り安全保障上の国益を追求する経済外交策(エコノミック・ステイトクラフト)は、今後激しさを増していくだろう。

 米国は、英戦終結直後の1993年から国家経済会議(NEC)を設立しているが、中国のエコノミック・ステイトクラフトに対抗するために、NECを更に発展させなければならないと考え、現在、再構築に取り組み始めている。基本的には、国防権限法や安全保障上の最先端技術輸出規制強化や外国企業の対米投資の監視強化だ。

 また、米国はこういった政策の実効性を高めるため、自国のみならずUKUSA協定を締結しているファイブアイをはじめ、我が国および独仏にも同調を求めはじめている。
日本も米国等の要請に受動的に対応するのみでなく、自らの発想でエコノミック・ステイトクラフト政策を包括的に構想し、経済界とともに実行していく仕組みを早急に構築しなくてはならない。

 日本版NECのもとで、主体的に戦略的外交・経済政策を練りあげ、経済的パートナーシップと経済制裁、知的財産管理とデータ流通、国際標準やルール形成といった取組を主導していくこと。そして国際社会の安定と繁栄に積極的に貢献することが、平和を希求する経済大国“日本”の使命である。

*UKUSA協定=ウクサ協定。(United Kingdom-United States of America Agreement)
イギリス帝国の植民地を発祥とするアングロサクソン諸国の機関であること。ファイブアイとも呼ばれ、米、英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドで構成している。