ムーンショット

前号でも言及したが、通常国会からの懸案だった“研究開発力強化法改正法案”(改称:科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律)。一時は今国会での成立も危ぶまれたが、国対や文部科学委員会、参院の文教科学委員会関係者の尽力もあり、会期末の8日(土)未明にようやく成立した。

 

振り返れば、私が会長を勤めている党政務調査会の科学技術・イノベーション戦略調査会に小委員会を設置し、議論をスタートさせたのは昨年の6月だった。有識者ヒアリングや議論を経て、議員立法として改正案をまとめたのが今年の2月。その後、法案の与党内調整を経て、野党各会派とも協議を重ねて概ね合意を取り付け、通常国会で法案提出一歩手前まで漕ぎつけていた。しかし、会期末の政局優先の与野党の政治的駆け引きにより、審議日程のメドが立たなくなり、今国会まで提案がずれ込んでいた。

 

我が国の科学技術の目覚ましい進歩は、豊かで便利な生活と長寿をもたらしてきた。多くのノーベル賞受賞者も輩出してきた。しかし、近年、日本の科学技術・イノベーション力は明らかに低下しつつある。世界ランキングで見ると2012年5位が2016年には8位に後退。大学ランキングでは2014年までは200位以内が5大学だったが、2015年以降は東大・京大の2校のみとなっている。

 

我が国が激化する一方の国際競争に勝ち抜き、持続的な発展を維持するためには、「イノベーション」の創出・活性化に更に重点を置いた制度改革を急ぎ、産業競争力の低下を食い止めなくてはならない。

 

改正案のポイントは知識・人材・資金の好循環を実現することを目的に、①組織的な産学官連携とベンチャー創出力・成長力の強化、②社会ニーズに的確かつ迅速に応えられる研究開発法人および大学等の体制整備と経営能力の強化、③若手研究者の育成・活躍の促進(研究環境整備や雇用安定)、④日本学術振興会や科学技術振興機構などの5つの研究開発法人への基金創設(個別の法改正によらず資金の柔軟な執行と多様化)、⑤個性豊かで活力に満ちた地方創生などである。

 

この法案の成立によって、政府与党が現在調整中の平成30年度第2次補正予算で、④の公募型基金の設置を促すことができる。基金から事業者への迅速かつ柔軟な資金配分は、新たな政策ニーズに対応した研究開発プログラムの立ち上げや、ハイリスク・ハイインパクトの破壊的イノベーションを目指した研究をもたらすだろう。

 

基金事業で想定しているのは、「何ができるか?」ではなく、「こんなことができたらいいな」という、人類の夢を現実のものとする研究への支援だ。アイデアを幅広く募集して、基礎研究から実現まで、研究段階で可能性を確認しながら絞り込んでいく研究手法(ステージゲート方式)を採用する予定である。失敗するリスクが高く、通常民間では行わないような研究開発を政府が予算措置を講ずることで、イノベーションに繋げていくことができると考えている。

 

このような研究開発の手法を“ムーンショット”と呼ぶ。

ケネディ大統領が「1960年代が終わる前に月面に人類を送り、無事に帰還させる」という目標を、未来から逆算して立てた言葉に由来する。斬新で困難だが実現すれば大きなインパクトをもたらす「壮大な課題、挑戦」を意味する。

今回の法案成立と1月提出予定の補正予算によって、我が国でも“ムーンショット”の形が整うだろう。会期内に改正法案を成立させることができて、胸をなでおろしている。

 

今国会の最重要法案だった“出入国管理法改正案”も同じく8日の朝方に成立し、予定通り本日10日に臨時国会の幕を閉じる。今年も残すところ、あと3週間。間もなく新しい年がやって来る。1年が過ぎるのが本当に早いと感じる今日この頃である。