大学など高等教育の負担軽減をめぐり、昨年末の2兆円政策パッケージで検討事項となっていた中間所得者層の対策について、自民党教育再生実行本部は17日、在学生の授業料を国が立て替え、卒業後の収入に応じて“後払い”とする案をまとめた。
自民党は昨年の総選挙の目玉公約の一つに、「真に支援が必要な所得の低い家庭の子供たちに限って」との表現で、低所得世帯の高等教育無償化を掲げた。公約を受けて政府は、住民税の非課税世帯とそれに準ずる世帯(年収380万円未満相当を検討中)については、授業料の減免措置を行うとともに必要な生活費を賄う給付型奨学金の拡充することを、政策パッケージとして閣議決定している。
実行本部が今回取りまとめた案は閣議決定済みの政策内容とは異なるので、18日の朝刊ヘッドラインには「自民提言 政府の“無償化”反対」「自民教育再生本部 政府の減免案に異論」との文字が躍った。
確かに閣議決定された無償化案とは異なる提案をするのだから、「反対」とか「異論」とか言われても仕方ない。だが、卒業後に一切の負担を生じない制度は、その適用を受ける者と受けざる者の間に著しい不公平感をもたらす。我々は、それのみで高等教育を受ける権利と確保したと言い切るのは不十分だと考えた。
そもそも教育再生実行本部では一年以上前から、高等教育の経済負担軽減について「恒久的な教育財源に関する特命チーム」を設置し、有識者ヒアリングや議論を重ね精力的に検討を続けてきた。その過程で、一時「教育国債の発行」が取り沙汰されたこともあったが、当初から最有力視していたのはオーストラリアの“高等教育拠出金制度(HECS)”だ。
昨夏にはオーストラリアに出向いて、HECSの設計者であるオーストラリア国立大学のチャップマン教授から詳細な説明を受け、日本型(仮称 J-HECS)を提案すべく検討を進めていた。だが、突如の総選挙で制度設計作業は一時中断せざるを得なかったのだ。
だから今回の提案はそんなに唐突なものではない。閣議決定済みの減免制度との違いは二つ、①18歳で親から経済的に自立する社会を想定し、高等教育を本人と社会の共同負担とすることと、②支援の対象を中所得者世帯まで拡大するという点だ。具体的には、対象者の所得制限を年収1,100万円未満相当の世帯まで引き上げ、授業料と入学金を国が学校に支払う(立て替える)。そして卒業後、就業してから所得に応じて学費等を国に納付する(返済する)仕組みだ。
このJ-HECSと減免制度を対象者の所得に応じて使い分ける方法もあるが、当然のことながら制度間の不公平は大きい。むしろ就学時は全所得層にJ-HECSを適用し、低所得者対策は卒業後の国庫納付額の軽減措置で行う方が合理的であろう。
授業料の立て替えには大きな財源が必要だが、財政投融資を活用することで国が負担するのは利子と返済未納金のみとなり、授業料減免財源の振替で十分確保できる。
選挙公約に反するとの意見もあるが、教育の機会均等という大きな方向性は違わないし、
消費税の使途の変更という重要な政策課題である。
国民に丁寧に説明すれば必ず理解は得られると考えている。
2兆円政策パッケージの財源は来年秋の消費税率の引き上げ。新財源が実質的に使えるのは2020年度予算からだ。今ならまだ充分間に合う。閣議決定が非常に重要な政治決定であることは論を俟たない。ただ、より良い選択肢があると判った時には、勇気をもって変更することがあっても良いと私は思う。もちろんその際、国民への説明責任が重要なことは言うまでもない。