APECの一員

野田総理最後の外交舞台となるのだろうか?先週末から極東ロシアのウラジオストックでアジア太平洋経済協力会議(APEC)が開催された。

今回の会議で合意された首脳宣言は6本柱。各国の貿易制限措置を控えることを確認した「保護主義の抑止」、APECの経済を一つにする「アジア太平洋自由貿易圏の検討」、太陽光パネルなどの貿易を拡大する「環境物品の関税引き下げ」、シェールガスの開発やLNG基地の整備による「天然ガスの利用促進」、旺盛なエネルギー需要に対応する「原子力の安全利用の支持」、食料の生産性向上と輸出制限による高騰防止をねらう「食料安全保障の強化」である。
自由貿易の推進による圏域全体の経済成長をめざす姿勢を強く打ち出した格好だ。

プーチン大統領が基調演説で語ったように、アジア太平洋地域21か国の経済力は世界のGDPの過半を有する。しかも全体として若く、急速に成長しつつある。この経済圏に位置している我が国は、もう一つの成熟国家群であるEUと比べて恵まれているのだ。

人口が減少し、高齢化していく成熟国家が、持続的な経済成長を遂げるためには、アジア太平洋の活力を取り込み、市場の拡大と生産性の向上を図る必要がある。そのためには、貿易や投資の自由化、そして知的所有権をはじめとする国際経済ルールの統一が不可欠だ。
このため、世界各国は自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)の締結に躍起となっているが、なかでも最も高いレベルの自由化と連携をめざすのが、環太平洋経済連携協定(TPP)である。

思えば一昨年の横浜APECを前に当時の菅総理がTPP参加を急遽提案し、民主党内から反発を受けて取り下げた。そして昨年は野田総理がハワイでの会議で、「TPP参加に向けて協議に入る」旨を表明した。しかし、民主党政府の議論は2年間全く進まず、放置されたままである。ようやく先週末になって民主党のTPPプロジェクトチームが、「関税撤廃は認められない」などと指摘し、交渉参加について「慎重に判断することを求める」とする従来どおりの消極的な報告書をまとめた。
この間、先送りを続ける日本を追い越すかたちで、カナダとメキシコが参加を表明した。米国の新大統領選びが終われば、広域経済圏の新ルール作りの交渉が一気に進むだろう。歩みが(とてつもなく)遅い日本抜きで…。

APEC最大の消費力を有する米国がTPPを軸に経済連携を進めるという政策をとっている以上、我が国がこの協定に不参加という選択肢はありえない。参加しなくても、そのルールを使用せざるを得なくなるのだから。日中や日中韓で独自のFTAを進めようにも、米国と日本の協定(TPP)=米国の力が無くては、中国の経済力に対抗できないだろう。
その意味でも、国家全体の利益を尊重すれば、TPP交渉への参加は不可避であると私は考える。

領土問題で課題を有する日ロ、日中、日韓関係だが、そもそも領土紛争が生じる大きな要因は、そこに存する資源の利用権という経済的な問題だ。係争地域を含み完全に一体となった共同経済圏を築いてしまえば、双方の国民が共有できる財産としてしまえば、水産資源もエネルギー資源も共同利用が可能となり、もはや大きな問題にはならないのではないだろうか。
永らく停滞する北方領土問題でも、双方の国民が自由に出入りし、水産資源、エネルギー資源を共有できるなら、解決策は見いだせるように思える。サハリンやシベリアの天然ガスを利用し、我が国のエネルギー安全保障を強化するためにも、ロシアとは大人の関係を築きたいものだ。

野田総理はプーチン大統領との間で、12月のロシア訪問を約束した。これは間もなく行われるであろう総選挙によって、政権のバトンが移ろうとも、必ず実現しなくてはならない。
外交とはそういうものだ。中長期の我が国の舵取りは、一般的な国内施策の調整と同様に扱ってはならない。ましてや総理の思いつきで操舵することは許されない。消費増税を実現した三党合意の枠組みは、一過性のものではなく今後の社会保障制度の議論に引き継がれる。同様に、外交通商、安全保障等を定めるに際しても、恒久的な枠組みとして維持、活用したいものである。