誠心誠意

TPP参加に向けての政府の意思決定は、予算委員会の審議を避けるかのように一日先送りとなり、「TPP交渉参加に向けて、関係国との協議に入る」との表現で結着した。
大和言葉では玉虫色の解釈がなされているが、APEC首脳会議での英語による表現は明瞭(「decision to join talks on establishing the TPP」?)であろう。(残念ながらこの原稿記載時点では正確な表現は不明…)。
前号で“参加を是”とする意見を表明した私としては、一定の評価をしたいと思う。この判断が、アジア太平洋の新経済秩序を築くための第一歩となることを期待したい。

それにしても、民主党のTPP反対派の往生際の悪さはいかがなものか? 菅直人前総理がいつ辞めるのか、辞めないのかを巡って繰り広げられた、初夏の内紛が思い出される。
これで、同一の政策目標を掲げる一つの政党と言えるのか? 非常に疑問である。

加えて、民主党政府がTPP問題を初めて取り上げたのは、もう1年も前。横浜でのAPECを前に、前総理が唐突に参加協議開始を表明してからだ。それから1年間、何の説明も、吟味もないまま無為に時間を過ごし、会議直前になって大騒ぎとは…。
東日本大震災が起きたとは言え、政権与党として大いに反省すべきだろう。

TPP参加問題がひとます落ち着いた今、次なる最重要課題は税と社会保障の一体改革だ。

先週、生活保護受給者数が過去最大の205万人を記録したとの発表があった。これはこれで大変な問題だが、生活保護費の給付額は3兆円強である。これと比べて年金は50兆円、医療保険は30兆円、介護保険は10兆円だ。(いずれも概数)しかも、年々兆円規模で増大している。

総理は11月4日のG20で、国際社会に消費税率の10%への引き上げを表明されたが、そのサミットで議論の中心となったのは、ギリシャやイタリアの財政構造である。
もちろん増税で収入額を確保することは必要不可欠だが、支出面=社会保障給付額の増嵩を放置していては、財政構造の改善は覚束ない。

国政を担う者の責任として、消費税増税と社会保障改革の具体的手順を一日も早く国民に示し、早急に議論を始めなくてはならない。
そして改革に向けた与野党協議に入るためには、財政構造の実態を無視した民主党マニフェストの総括(国民への説明)が必須だ。

にもかかわらず、先日の予算委員会における論戦。茂木政務調査会長が、この夏まとめられた「民主党マニフェストの統括」の問題点を鋭く指摘した質問への答弁を聞いても、政府民主党はいまだに理由にならない言い訳(税収減、ねじれ国会、東日本大震災)を続けている。

いいかげんに、かつての自己主張の正当化をあきらめ、素直に「野党だったから情報不足で見通しが甘かった」と認めれば、与野党協議は大きく前進する筈だ。
野田総理は、マニフェストの総括について正面から向き合い、党代表として改めてケジメをつけるべきだ。

それが「誠心誠意」ということだと、改めて私は言いたい。