「まぼろしの落選劇」

公約違反の代償は非常に大きかった。

平成2年2月、私の2度目の選挙は消費税廃止を求める世論の大合唱の中での戦いとなった。

先輩からは、選挙に勝つために地元では『消費税には反対だ』と言っても構わないといわれたが‥‥

それでは有権者に嘘をつくことになる。

「消費税は必要だ」と説明を続けてきたミニ集会も意味を失う。

私は消費税から逃げずに、むしろ選挙に於いて必要性を訴えることを決心した。

政権放送でもそのことに言及した。

支持者の方々からは「わざわざ言うことはない」とお叱りも受けたが、それでも必要性を訴え続けた。

「たとえ辛くても信念を曲げる訳にはいかない。」 そんな気持が、当時、私の中にあったと思う。

ただ、尾上小学校の側を通り過ぎた際、私の選挙カーを見つけた児童達から「あっ渡海だ、消費税反対!」と言われた時は本当に悲しかった。

将来への責任を感じる私の思いが、この子どもたちに伝わっていない。

心の中で「君達が将来苦労しないように頑張っているのに‥‥」私は心の中で叫び、同時に虚しさを感じていた。

この選挙で自民党は300から275へ、大きく議席を減らし、野党第一党の社会党は85から136議席へと大きく躍進した。

社会党土井たか子党首が選挙戦で訴えた「ダメなものはダメ」という言葉は流行語にもなった。

後で分かったことだが、私はこの選挙で一度落選した‥‥、と言うより落選させられた。

候補者である私は、開票当日、呼び出しがあるまで自宅待機している。

社会党の永井孝信氏は追い風に乗って早々と当選、続いて自民党の井上喜一氏も当確となり、最後の一議席を私と民社党の塩田晋氏が争う展開となっていた。

戦いを終えた以上待つしか仕方がない私は自宅で、NHKの速報を見ながら待っていた。

そんな時「もうすぐNHKが当確を打つと連絡があったのですぐ来て下さい」と秘書から連絡が入った。

家を出たところで友人がいて声をかけてくれた。

「えらいことやったなぁ」と友人。

「苦労したけど良かった」と私。

「えっ?」と不思議そうな友人。
後で分かったことだが、ローカル局が誤報で塩田氏に当確を打っていたのだ。

支持者の多くも一度はがっかりされ、選挙事務所から帰られた方もいた様だが、私は全く知らなかった。

それ以来、我が陣営ではNHKの速報しか信用しないこととなっている。

今、考えると、あの時当選していなかったら、その後の一連の動きから新党さきがけへの参加もなかったと思う。

その意味で、強い逆風の選挙を支えてくれた支援者の皆さんには、改めて心から感謝しなければいけない。