通常国会での最大の懸案は、4月からはじまる新年度の予算の早期成立である。
年度末3月31日までに成立しないと、4月分の国家公務員人件費をはじめとする新年度行政経費が執行できなくなる。憲法の規定で予算案は衆議院の議決が優先し、通過後30日で参議院の議決をまたずとも自然成立するので、この時期衆議院通過の日程をめぐり与野党の駆け引きが毎年のように繰り返される。
今年の通常国会は例年より遅く召集されたので、審議日程が非常にタイトになると予想されていた。加えて、“防災・減災、国土強靭化”などに資する平成30年度2次補正予算成立を優先したため、新年度予算は2月8日からの審議入りとなった。
前回のコラムでも言及したが、今国会の予算委員会での質疑の中心は厚労省の毎月勤労統計の不適切調査問題で、多くの時間が割かれてしまった。
野党は、①組織的な隠蔽行為があった、②首相秘書官の関与・官邸ぐるみ、③共通事業所の実質賃金「参考値」の公表など、同じ質問を繰り返している。つまり、アベノミクスの成果をねつ造するために賃金統計が操作されたのではないか?と印象づけたいのだ。
森友・加計問題では政権の支持率は大きくダウンしたが、今回の審議を経た後の最近の世論調査をみると、安倍内閣の支持率はメディア各社ともほぼ横ばいである。忖度という言葉でモリカケを連想させ、政権のイメージダウンを計ろうとする戦略が見て取れるが、今のところ功を奏しているとは言えない。
アベノミクスの評価や今後の経済政策、イノベーション戦略や人づくり政策、社会保障制度改革など、我が国の将来像について議論すべき重要課題が山積している。国際関係では日ロ外交交渉、日中関係、日韓関係、また米国とのTAG(物品貿易交渉)問題への対応も急がなくてはならない。米朝首脳会談の合意形成失敗により、朝鮮半島との外交戦略も再構築を迫られている。
しかし、国会では政局が優先され、大切な国民と国益のための政策議論がおろそかになっている。もう少し違った時間の使い方をすべきと考えているのは、私だけではあるまい。
今年の予算審議で一つ「おやっ」と感じたことがある。従来は野党第一党・立憲民主党の枝野幸男党首は対決型、第二党・国民民主党の玉木雄一郎党首は提案型であったのが、立ち位置が入れ替わったのだ。両党は参議院第一会派をめぐって激しい議員獲得競争を繰り広げている。おそらくこの争いも、従来の戦術を変化させているのだろう。さらには今年は4年ごとの統一地方選挙と3年周期の参議院選挙が重なる。少数野党にとっては存亡をかける選挙イヤーである。各党はこれからも春と夏の選挙を意識して独自性の発揮に腐心することになるのだろう。
新年度予算の年度内成立期限は3月2日の衆議院通過。激しい野党の論陣で審議がストップすれば暫定予算の編成が必要となるところであったが、幸い審議が空転することもほとんどなく、2日未明の衆議院本会議で予算案を可決し、とにもかくにも今年も年度内成立が確定した。
あと2カ月で平成の御代が終わる。平成の30年を総括するとともに、来るべき新しい時代に向け、政治の果たすべき役割について改めて考えなければならない。
TAG(Trade Agreement on goods)=複数国の間でモノにかかる関税引き下げや撤廃について定める協定。農産物や工業用品なども交渉対象。