政府の看板政策である“人づくり革命”の一翼を担う「人生100年時代構想会議」の初会合が9月11日に開催された。会議の趣旨は「人生100年時代を見据えた経済・社会システムを実現するための政策のグランドデザインを検討する」というもの。議長は安倍総理が勤め、メンバーは関係閣僚、大学教授や経済界代表に加え、起業家、元サッカー選手などの幅広い分野の有識者が名を連ね、年齢も10代から80歳代に及ぶ。
会議設置の発端は「LIFE SHIFT」という本だ。この書の著者であり会議メンバーでもあるリンダ・グラットン教授は、人生の長寿化をポジティブにとらえるためには、ライフステージを「20代前半までの“教育期間”」「20代から60代までの“就労期間”」「60代以降の“老後期間”」の三つに固定的画一的に分割するのではなく、多様な選択ができる社会を作るべきだと主張する。働き始めてから学び直すのも良いし、80歳になってから仕事を始めても良い。100年という長い人生、一人ひとりの才能や体力に応じて、様々な設計を行うべきという考え方だ。
11日の会合も、リンダ・グラットン教授のプレゼンテーションから始まり、「卒業」「就職」「引退」の“3ステージの単線型人生”の見直しや、生涯にわたる学習の重要性などについて提言された。これを受けて、学び直しや職業教育の充実を含めた大学改革や待機児童対策、また全ての世代にむけた社会保障などについて活発な意見交換が行われた。
今後、この会議では、(1)全ての人に開かれた教育機会の確保・リカレント教育、(2)人材教育のあり方、高等教育改革、(3)企業の人材採用の多元化、多様な形の高齢者雇用、(4)高齢者給付型中心の現行制度から全世代型社会保障への改革、の4本柱で議論を重ね、年内には中間報告をまとめることとなっている。
この政府の動きと並行して、自民党の政務調査会でも同様の議論を進めなければならないが、すでに党内には「人生100年時代の制度設計特命委員会」が設置されており、5月には幼児教育と社会保障を中心に中間報告もまとめている。今後、この委員会を活用し、多分野にわたる党内議論を深め、提言をまとめていくことになる。
提言の素材は、これまでの部会や委員会の議論の中にたくさん埋もれている。
例えば、(1)教育の無償化やリカレント教育(2)高等教育改革については、私も所属する教育再生実行本部から様々な提言を行ってきた。さらに財源も含めた制度設計の具体化を図るべく検討作業を開始した。
また大学改革(高等教育改革)については、近々、文部科学部会の下に新たなプロジェクトチームを設置する。このPTは抜本的な大学改革全般を議論する場であるが、当面は構想会議のテーマに添った論点整理をおこない、特命委員会に提案したいと考えている。
先日訪問したシンガポールでは「人的資源が唯一の資源」との考えのもと、国の人的資源を最大限に活かすべく、国家予算の約2割が投入されて教育政策が実施されている。人口や国土の広さ、歴史的背景は違っていても「人材以外の資源に乏しい」という意味では日本も同じ、すでに急速な人口減少社会に突入した我が国においては、個々人の能力を高め、生産性を向上させなければ、豊かな未来を描くことはできない。
今後の「人づくり革命」をリードすべく、なお一層、教育政策の充実に力を注いでいきたい。
この原稿の執筆中に解散風が突然吹き始めた。
人口減少が加速するなかで今回述べた「人づくり革命」が如何に急がれるか、人材育成とともに生産性を高めるカギとなる労働規制改革の推進、自国優先主義が勃興するなか国際経済連携を重視する経済政策の重要性、軍事緊張が高まるなか我が国の安全保障を高める同盟の強化、さらには自衛隊の明記を含めた憲法改正の必要性。この時期の解散にはいささか疑問を覚えるが、前述のような政策論を国民に訴える機会になるのかもしれない。