自民党の各派閥は、毎週木曜日に昼食を兼ねた総会を開く。その際には会長が時々の政治課題に言及するのが慣例で、その発言がTVや新聞で取り上げられることも多い。連休明けの5月11日(木)の総会で、各派とも憲法改正についての発言が相次いだ。
発端は憲法記念日の5月3日、安倍首相がビデオメッセージで「自民党総裁として憲法改正を実現し、2020年(平成32年)の施行を目指す方針」を表明したことである。この方針では改憲項目として、①9条1項、2項を残したまま、新たに自衛隊の存在を明記した条文を追加することと、②高等教育の無償化を定めた条文の新設の二つを挙げ、自民党で具体的な改正案の検討を急ぐことを明らかにした。
首相は、平成18年の第1次安倍内閣では「戦後レジームからの脱却」を唱え、憲法改正、特に9条改正を悲願としていた。にもかかわらず、平成24年に第2次内閣を組閣してからは、各委員会などで改正に関する質問をされても、明確な答弁をしてこなかった。
それだけに今回の改正方針表明を巡っては、首相の意図を含め、様々な憶測が飛び交うなか、党内各派で意見表明がなされた。石破茂氏は「党の議論を粗略にして憲法改正できるとは全く思っていない」と強調。岸田文雄氏は「当面、9条の改正は考えてない」。石原伸晃氏は「3項をつくった場合(戦力不保持を定めた2項との)整合性は非常に重要だ」等々。連立の公明党からも理解を示す一方で、唐突感がありすぎ今までの案と大きな内容の違いを指摘するなど、懸念の表明もなされた。
そして12日には、安倍総裁から保岡興治・憲法改正推進本部長に「衆参両院の憲法審査会に出す自民党案をまとめるよう。具体案がないと審議が活発にならない」と指示が出された。
これを受けて、すべての所属国会議員が参加できる憲法改正推進本部で改憲項目や手順、あるいは2012年に作成した党憲法草案との整合性などの検討が始まることになる。すでに党内の一部では、たたき台となる改正試案と、国民投票までの工程表の試案なるものが飛び交っている。
一端を紹介すると、第9条に関しては、「第9条の2」として「前条の規定は、我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、自衛隊を設けることを妨げない。」との新条文を追加するというもの。
第9条の第3項に「自衛隊に関する規定」を追加すると、どうしても第1項の「武力」や第2項の「戦力」と、「自衛隊」との並びが悪く、関係が分かりにくくなる。このため、現行の第9条は「戦争の放棄」と「戦力の不保持、交戦権の否認」の条文として、そのまま存置し、別の条文で「自衛隊は、『戦力』ではない実力組織」という現在の解釈を確認するのがポイントだ。「加憲」らしさを強調したともいえる。
高等教育の無償化については、第26条1項(教育を受ける権利)を手直しし、教育の機会均等を図ることを明確にする趣旨から「経済的理由によって教育を受ける機会を奪われないこと」を明記するというもの。さらに、「教育が国の未来を切り拓く上で不可欠なものであること」「国に大幅な教育無償化措置等の教育環境を整備する責務があること」を明記し、無償化を含む教育環境整備規定の明確化も第26条に盛り込むという案のようだ。
個人的には、「ここまで憲法に書き込む必要があるのか?」との感もあるが、現在、高等教育の無償化実現に向けて、財源措置も含め検討を進めている教育再生実行本部の議論を強力に後押しすることになるのは間違いない。
私は憲法改正に関して、「時代の変化に柔軟に対応して必要な改正を行うべき」との考えだ。
今回の方針表明を機に、憲法改正推進本部での党内議論が活発化することは間違いない。
自民党案、与党案を早期に取りまとめ、衆参の憲法審査会の場での具体的な議論の展開につないでいきたい。そのためには(改憲派の)野党の皆さんにも、国民の声、社会の実態を踏まえた改正案を提示していただきたいものだ。
前回述べたように、国会が発議しない限り、国民は「国民投票」という形での意思表明ができない。「改正案の発議」は国会が担っている。今はその任務を果たさなければならない時である。
<参照条文>
第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
第26条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。