「安全保障技術研究推進制度」は2015年から実施された制度で、防衛省が設定したテーマに基づいて大学や企業から研究を公募し、採択されれば研究費の助成を行うというもの。
今年度は昨年度6億円の予算計上に対して110億円、18倍の予算が計上された。
日本学術会議は先週14日(金)の総会で、「軍事的安全保障研究に関する声明」を出した。
先の大戦で科学者が軍の兵器開発に協力したことへの反省から、学術会議は1950年(昭和25年)に「戦争を目的とする科学研究は絶対にこれを行わない」旨の決意表明をし、また1967年(昭和42年)には同じ文言を含む「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を発表している。
今回の声明では「軍事目的の科学研究を行わない」とする、これまでの声明を「継承する」とし、防衛省が大学などの研究機関に資金を提供する「安全保障技術研究推進制度」は、「将来の装備開発につなげるという明確な目的に沿って公募や審査が行われ、政府による研究への介入が著しく、問題が多い」と指摘している。
果たしてそうだろうか。
防衛省は装備開発に必要だから設定したテーマに基づいて大学や企業などから公募し、採択されれば研究資金を提供しているのであり、研究者の自由研究を促す予算などない。
装備開発が嫌なら公募に申請しなければよいだろう。また、公金を投入する以上、研究の進捗状況をチェックするのは、文科省等の他省庁の研究においても行われており、当然のことである。科学者の研究の自主性、自律性、研究成果の公開性の尊重についても明確に担保されており、学術会議の懸念は的外れである。
戦闘機のステルス技術や弾道ミサイル迎撃システム、潜水艦の非大気依存推進機をはじめ防衛装備品の技術は年々高度化している。また、複数国での共同開発も多く、初期段階から参加しなければライセンス生産はもとより、整備ノウハウの伝授さえ認められないケースがある。日本にとって防衛装備に関する研究開発力の向上は不可避な状況である。これからも大学に協力を求める機会は増えるだろう。
そもそも科学技術研究において軍事利用と民生利用を区別する意味があるだろうか。コンピュータもインターネットもGPSも原点は軍事用に開発された技術だ。これらの技術が現代の生活を豊かにしてくれている。
逆に、たとえ民生利用を目的に開発したと言ったところで、大半の研究成果は軍事用にも転用できるのではないだろうか。トラックも輸送機も使い方によっては軍用になるのだから。
理論科学の分野でも同様である。相対性理論は核兵器の開発につながり、量子力学の成果である半導体は様々なエレクトロニクス技術を生み出し、精密誘導兵器等々に利用されている。
「軍事」と「民生」の双方で活用できる「デュアルユース技術」を無理に分離し、軍事色を消そうとすれば、応用範囲の広い有益な研究のほとんどを排除することになるだろう。
科学技術と安全保障の関係については、党の科学技術・イノベーション戦略調査会でもこれまで慎重な議論を重ねてきた。
調査会では、科学技術の成果が安全保障にも使われ、民生と防衛の区別を行うことに意味がなくなっていることに鑑み、研究の在り方については「安全保障や防衛を研究目的から排除する」よりも、「科学技術の成果が及ぼす影響を個の研究者が自ら主体的・自律的に判断できる健全な環境を整備する」ことを重視すべきとの見解をまとめた。
我が国はいま、「世界で最もイノベーションに適した国づくり」を目指している。
肝心なのは「軍事」「民生」の区別なく幅広いターゲット領域の設定によるイノベーションフロンティアの拡大に資する基礎研究に、研究者が自らの力を最大限に発揮できる環境を整えることだ。