一般会計総額97兆4,500億円余の平成29年度予算案は、2月27日衆院本会議で可決され、論戦の舞台は参議院予算委員会に移った。
しかし、論戦は政策論議とはほど遠い。文科省の天下り問題、学校法人への国有地払下げ問題といった疑惑の解明が必要ないとは言わないが、本来、予算委員会は当初予算案の内容、各種施策の方向性を議論する場である。野党の皆さんからも施策案を提示していただき、政策についての論戦をしっかりと行っていきたいものだ。
今国会で真剣に議論したい課題の一つが「教育の無償化」である。
安倍総理は施政方針演説で、70年前に施行された日本国憲法が普通教育の無償化を定め、小・中学校9年間の義務教育をスタートさせたことに触れた上で、「誰もが希望すれば、高校にも、専修学校にも、大学にも進学できる環境を整えなければならない」と言及した。
「教育の無償化」については、各党で様々な提案、議論が重ねられている。
日本維新の会は憲法改正による完全無償化を目指している。民進党も次期衆院選の公約原案で大学までの無償化を検討しているし、さらには共産党もその必要性には賛同している。与野党とも無償化を目指す方向性は一致している。しかし、具体策となると千差万別だ。
特に、日本維新の会の提案である憲法改正の要否という点で、大きく意見が分かれている。私の見るところ、自民党、民進党はそれぞれの党内で賛否両論がある。改憲に慎重な公明党や共産党、社民党は改憲の必要性なしという見解だ。
私自身は、改憲は無償化の必要条件ではないと考えている。
教育の機会均等については教育基本法第4条に規定されているが、要約すると「国民はその能力に応じて教育を受ける機会を均等に与えられなければならないし、能力以外の事由(人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位、門地)によって教育上差別されない。また、能力がありながら経済的理由によって就学が困難な者に対して、国および地方公共団体は奨学の方法を講じる義務がある」という内容である。
これは憲法第14条第1項(法の下の平等)、第26条第1項(教育を受ける権利)の精神を具体化したものである。そして、憲法は第26条第2項で、保護者に普通教育を受けさせる義務と、義務教育の無償化について規定している。これは義務教育の無償を明示したものであり、その他の教育を無償とするか否かについては、法律の規定に委ねられているという解釈だ。
現行の義務教育(無償教育)制度は1947年(昭和22年)の学制改革から続いているが、制定当時と現在では教育環境も社会も大きく変化している。
2016年(平成28年)の高校進学率は98.7%、大学進学率は56.8%で、専修学校等を含めた高等教育への進学率は80.0%となっている。キャリア教育の充実など教育の多様性を確保するため、6・3・3・4制の学制そのものの改正を求める声もあるが、まずは無償教育の枠の拡大から始めてはどうだろう。
教育の格差は、所得の格差に繋がり、所得格差が教育格差をもたらす。こうして親から子へと連鎖しながら、格差の固定化を招いてしまう。無償化による教育格差の解消は、この問題を解決する有効な手段であり、結果的に労働生産性や出生率も高めるという説もある。まさに、すべての教育の機会均等を実現する無償化は時代の要請であると言っても過言ではない。
そのための第一歩として、給付型奨学金制度を導入する予算案を今国会に提案している。この制度をステップに本格的な教育の無償化の実現を検討すべく、今般、自民党教育再生実行本部内に馳浩・前文科相を主査とする特命チームを立ち上げた。
教育は洋の東西を問わず「国家百年の大計」と言われる。
この機会に日本あるべき教育の姿について、原点に返って改めてじっくりと考えてみたい。