OECD(経済開発協力機構)加盟34か国の中で、大学生に対して返済不要の公的な給付型奨学金制度が無いのは日本とアイスランドの2か国だけなのは、ご存知だろうか。
そのアイスランドも国立大学の授業料は無料で、大学院研究コースには給付金制度がある。
日本は大学の授業料がかなり高額にもかかわらず、卒業後に返済する“貸与型”(有利子・無利子)の奨学金のみ。実質的に国が大学教育を無償で提供する制度を持たないのは、我が国だけだ。
昨年の秋以降、自民党教育再生実行本部では「社会的格差が広がる中、学ぶ意欲と能力があるのに、経済的事情で大学進学を断念せざるを得ない子供たちを救えないものか。日本の未来のために放っておけない。教育費負担の軽減のために、新たな奨学金制度の創設について検討する」との認識のもと議論を重ねてきた。
当時私は議論を取りまとめる本部長の任にあり、4月4日には自公両党で策定した「教育再生の提案」の中で、大学生らを対象にした返済不要の“給付型奨学金”創設を安倍総理に提言した。
7月の参院選に際しては、党の公約検討チームのメンバーとして、「教育投資は未来への先行投資」と位置づけ、公の財政支出の抜本的拡充と財源確保を政権公約集「Jファイル」に明記した。それら一連の経緯もあって、8月2日に閣議決定された“一億総活躍プラン”の中で「給付型奨学金については、平成29年度予算編成の過程を通じて制度内容の結論を得、実現する」旨、明記されるに至った。
そして9月中旬、下村博文幹事長代行から「文部科学部会に設置する”給付型奨学金”のプロジェクトチームの座長を引き受けて欲しい」旨の連絡があった。
経緯からすれば引き受けるべきなのだろうが、ライフワークの科学技術政策の拡充に奔走していたため、最初は逡巡した。何度かのやり取りの後、それでも「どうしても引き受けてほしい。しっかりとサポートするから。貴方しか適任者がいない!」とも。
実はわたしはこの言葉に弱い。最終的に引き受けることになったが、下村氏は言葉とおり文科大臣経験者5人を含む強力なメンバーを揃えてくれた。
キックオフは9月26日。
まず、現況についての認識を共有した上で論点整理からスタート。主な論点は、①制度の主旨、②給付対象、③給付額、④給付方法、⑤開始時期、⑥財源に整理された。
プロジェクトチームの議論が白熱したのは②給付対象、③給付額、⑥財源についてで、結論を得るまで熟議は8回に及んだ。その後、公明党との与党間調整を経て11月末に方針を決定し、安倍総理に申し入れを行った。
決定された“給付型奨学金制度”の原案の概要は次のとおり。
・対象者は、住民税非課税世帯の若者。学習成績が十分に満足のできる高い成績を収めた生徒、科外活動で優れた成果を上げ概ね満足できる学習成績を収めた生徒。
・給付対象者数は2万人程度。
・対象学校は、国公立大、私立大、国公立短大・専門学校、私立短大・専門学校。
・給付額は、国公立は自宅2万円で自宅外3万円。私立はそれぞれ3万円と4万円。
・実施時期は、平成30年度。ただし経済的負担が特に厳しい学生を対象に限定して来年度から先行実施。
・児童養護施設出身者ら、社会的養護を必要とする学生らへの特段の配慮をするためにイニシャルコストコストを支援(入学金24万円支給)。
この制度骨子をもとに政府・与党は来年の通常国会での法制化を目指している。
が、社会保障費が毎年5000億円規模で増嵩する厳しい財政事情下にあって、財源確保が最大の難関である。
新制度の給付規模は、本格実施初年度の平成30年でも70億円強、4学年が出そろう平成33年度からは毎年220億円程度となると試算している。将来は実態に応じた見直しと制度の拡充も必要になると考える。
200億円を超える金額を少額とは言わない。
しかし、資源に恵まれない我が国にあっては人材が資源そのものである。その人材を育成する未来への投資を実現するために、この程度の財源をねん出することは政府の責任ではないだろうか。
一億層活躍社会の実現に一歩近づくためにも、制度設計に関わった責任者として、政府の英断を切に願っている。