秋の夜長…Part2

「いじめ」「殺人」「不況」など、社会的に暗い話題がおびただしいなかで、北海道から心温まる話題が届いた。
ばんえい競馬で活躍してきた“中高年の星”ゴールデンバージ号(15歳)の引退のニュースだ。馬の年齢は、人間の約4分の1という。競走馬がデビューする2歳は人間で言えば8~10歳、ゴールデンバージ号の15歳は60歳の還暦に当たる。ばんえい競馬では、もちろん現役最年長馬だった。

「ばんえい競馬」は、我々が普段目にしている競馬とはちょっと様相が異なる。出走する馬たちは、サラブレッドやアラブ系のスマートな馬ではなく、体重1トンにもなる農耕馬=ばん馬だ。そして、コースは全長200mの直線で、途中に二つの小山を越えなくてはならない。その障害コースを騎手と500キロから1トンもの重しを乗せた橇(そり)を曳いてスピードと持久力を競うのだ。ゴールインは、鼻面ではなく橇の末尾がラインを越えた時点である。この世界的に見ても類例のない形態の競馬は、かつて、北海道開拓期から農閑期の余興や催し物として道内で広く行われ、公営競馬場も数カ所にあったが、今や帯広市の「ばんえい十勝」が唯一の公式競馬場となっている。

話をゴールデンバージに戻そう。同馬のデビューは平成11年、以来8年間で31勝を上げたが、加齢による成績不振により11歳で一度は引退し、食肉として処分されそうになっていた。それを相馬眼のある調教師が同馬の持つ底力を見い出し、13歳にして競走馬として再登録した。“中高年の星”として人気を集めるようになったのは、この復帰後、普通であればとっくに競走馬としての峠を越えてから、5勝を挙げたためだ。
「ばんえい十勝」のHPには特設サイトが設けられ、専用のグッズも販売されている。
しかし残念ながら、競走馬にとって致命的な腱鞘炎(けんしょうえん)を患ったこともあり、惜しまれながらも10月28日が引退レースの日となった。

1,000人を超える声援を受けたラストランは、1番人気に支持されたものの、結果は最下位に終わった。声を嗄らして声援を送ったファンからは、「最後まで頑張って走り抜いた姿に感動した。自分もそういう人生を送りたい」「60歳とは思えない強さだった」と、絶賛するコメントが数多く寄せられたらしい。
“中高年の星”という地位を築き、ばんえい競馬の集客に貢献した成果により、殺処分されることなく、今後も牧場で暮らすことになるという。長年頑張ってきたご褒美だ。ゆっくり老後を過ごして欲しいと願うものである。

人生の最終コーナーをどのように生きるか?
数多の人々は想い、悩みそして若い者に任せ、やがて時代の表舞台から去っていくが、政界では80の齢を超えて、自ら先頭に立ち新党結成に走る猛者もおられる。様々な反応が寄せられているが、私はその志を是としたい。

「七十にして、心(こころ)の欲する所に従えども矩(のり)を踰(こ)えず」
有名な論語の為政の一文だ。
自由気ままに行動しても、決して人の道を外れることはない。孔子のようには行かないかもしれないが、そんな理想の老人格を形成したいものである。

しかし、これから勝負に挑もうとする私が、こんなことを考えるのは少々早いのかもしれない…。などとも思う秋の夜長だ。