通常国会の会期末を目前にして繰り広げられた「社会保障と税の一体改革関連法案」に関する修正協議。(予定どおり?)先週末の15日、自民、民主、公明の3党は、同法案を修正し、我が党が提案した「社会保障制度改革推進法案」とともに可決することに合意した。
3月末の法案閣議決定から2か月半、2月の「社会保障・税一体改革大綱」の閣議決定から5か月、そして「社会保障・税一体改革成案」(平成23年7月1日閣議報告)からは約1年である。
今回の修正協議で、税制改正については、ほぼ、1年前の「成案」のとおり実施されることとなった。一方の社会保障制度改革は「成案」の段階に戻った形で、年金・医療保険・介護保険・少子化対策・生活保護の制度改革について、論点を確認した上で、(民主党マニフェストの枠に捉われることなく)現実的な改革をめざし「社会保障制度改革国民会議」で超党派の協議を始めることとなる。
余談だが1年前の「成案」の実質的な作成者は、麻生内閣の財務大臣を務め、後に自民党を飛び出した与謝野馨氏であり、その内容に我が党が異議を唱える余地は少ない。
既にこのコラムでも言及したが、数週間前の特別委員会の質疑で、茂木政調会長が「国民会議」の提案をした時に、私は「助け舟」との印象を持ち、合意の成立は時間の問題だと考えていた。ともかく、衆参ねじれ国会が常態化している現状で、与野党が国家の基本政策について合意形成のプロセスを見いだしたことは画期的であり、今回の結論を歓迎したい。
社会保障は全ての国民に関わる問題であり、長期の持続性・安定性が求められる。どの政党が政権を担当しようと短期的な視野による制度急変は許されない。故に与野党の枠を超えて制度設計に責任を持たなければならない。
その意味でも今回の合意=超党派で国民的議論を行う方針が決定された意義は大きい。
週末の報道番組で、コメンテーターのジェラルド・カーティス氏[※]が、「半年前にこの問題について問われたら、『今のタイミングで消費税を上げるより、他にすることがあるだろう』と話したろうが、今日、6月15日の時点で現実的に考えれば、この法案がもし通らなかったら、政治が混乱し、経済にもマイナスだろうし、国際的にも信頼がなくなる。『国益』を考えればこの法案は通すべきである」と言及されていた。極めて的を射たコメントだと思う。
ギリシャ議会選挙の結果を踏まえEUとユーロの危機が唱えられるなか、今日(18日)からメキシコでG20が始まる。速報によると緊縮財政派の2党で過半数を占め、ひとまずギリシャのEU離脱は避けられるようだが、ユーロ経済圏の状況が即座に安定するとは思えない。各国首脳の話題は、ヨーロッパ発の世界経済危機をどう抑止するかという点に集中するだろう。
ここ20年も停滞しているとは言え、アメリカ、中国に次ぐ第三の経済大国“日本”に求められる役割は大きい。内政問題に終始している場合ではないのだ。
我が国の通貨“円”が安定した地位を築いているのは、経常収支の黒字に個人金融資産の大きさ、そして国民負担率の低さ=消費税の引き上げ余力があると言うのが国際的な認識だろう。
約20%の消費税のさらなる引き上げを迫られているEU諸国から見れば、多額の資産を抱える日本が、わずか10%への引き上げに何を躊躇しているのかというところかもしれない。(まして、与党民主党内の派閥抗争で決断が遅れているとは思ってもみないだろう…)
野田首相は21日の会期末までに衆議院で「社会保障と税の一体改革関連法案」の採決を行うと明言されてきた。ただ、民主党では与野党合意の後に自党内の了承を取り付けるという、極めて異例な手続きが進められている。
政治生命を賭した総理の決意が、まさか先送りになるようなことはないと思うが…?
[※]アメリカの政治学者。コロンビア大学東アジア研究所所長、東京大学法学部客員教授等歴任。