フランス、イタリア、ギリシャ…、EU諸国を政権交代の嵐が襲っている。経済的には優良国であるドイツでも、地方選挙で野党(反メルケル勢力)が躍進している。いずれの国でも、昨年来、各国協調のもと取り組んできた緊縮財政に対して国民は否とする答えを提示している。
EUが加盟各国に厳格な財政規律を求めざるを得ないのは、単一通貨ユーロの金融政策と財政の主体が異なるという構造的な理由によるものだ。ご承知のとおりユーロはEU中央銀行によって管理されている。一方で、経済力は各国まちまちであり、財政の主体も各国政府である。そもそもドイツとギリシャの通貨価値、調達金利が同一であると言う点に無理がある。が、何とかユーロの信用力を維持するために各国に財政安定が求められている。
しかし、ギリシャをはじめ南欧ではうまくいかなかった。2000年当時のギリシャの通貨はドラクマ、国債の金利は約17%だったという。それがユーロ導入と同時にドイツと同じく5%程度で資金調達ができるようになった。この結果、放漫財政と過剰消費が進んでしまった。国債購入者の7割以上が海外であり、外国人の資金引き上げが始まると同時に財政は崩壊した。同様の問題は、イタリアやスペインなどの南欧諸国でも抱えている。
もう一つ、西欧の国民が財政規律の引き締め=増税に反対する理由は、すでに国民負担が限界に達しているからだ。各国とも消費税率は軒並み20%級、これに社会保険料を加えた国民負担率は60%を超える国もある(我が国ではまだ40%で中負担の入り口)。これに、さらなる負担を求められれば、「イヤだ」と言うのも分からないではない。
経済成長と財政再建の両立というのがフランスのオランド新大統領の公約であり、過日のG8の合意事項でもある。締め付けるだけでなく成長によるパイ拡大で税収を確保しようというものだ。しかし、我が国を始めその実現は簡単ではない。EUでは、まず各国間の財政調整システムのルールづくりが必要だろう。
一方の日本の財政。政府の債務残高は1000兆円、GDPの2倍を超えているが、国民の個人金融資産もまだ1400兆円以上ある。そして国民負担率はまだ40%(税20%、保険料20%)であり、あと10%くらいは引き上げ余地がある。それが、円が世界から資金を集める安定通貨となっている大きな理由である。しかし、その金融資産は年々減少し、債務残高は年々増大している。両者のバランスが崩れる可能性を考えると、ギリシャは決して「対岸の火事」とは言えない。それ故に社会保障と税の一体改革を急がなくてはならないのだ。
ギリシャでは来月17日に国会議員の再選挙が予定されている。仮に緊縮財政放棄政策が選択され、ユーロ脱退という事態に至れば、EUの経済不安は世界恐慌に繋がりかねない。
先週24日、ギリシャ支援策を協議するEU緊急首脳会議の議論は未明まで続いた。
一応、緊縮策実行の合意を守った上でユーロ圏にとどまるようギリシャに求めることでは一致したようだが、「ユーロ共通債」(共同発行債)の導入など、危機対応の具体策をめぐるドイツとフランスの溝は埋まっていない。世界経済を揺るがしているEU危機が鎮静化に向かうかはまだまだ不透明だ。