国家基本政策委員会

先週、今国会2回目の党首討論が行われた。消費税関連法案と社会保障制度に関する議論を期待していたが、残念ながら政策の中身に切り込む質問はなく、相変わらずの手続き論の批難応酬に終始した。

この討論の直前になって国対委員長を通して党首会談の申し出があったが、あのタイミングでの会談が実現するとは到底考え難い。相手が拒否することで世論の批判を受けるとの読みが働いてるのだろうが、そんな不毛な駆け引きよりも、一刻も早く民主党内をまとめ、法案審議を始めることが、今、野田総理が果たすべき責任ではないのだろうか?

消費税関連法案に野党の賛同を得ようとするなら、「4年間の任期中には増税はしない。増税をする時には信を問う」との過去の主張について説明責任を果たす必要がある。総理は「次の総選挙でマニフェストの総括はされる」と言及しているが、そんなマニフェストでは投票の判断指標に成り得ない。
「消費税が上がるのは2014年4月なのだからマニフェスト違反ではない」などと苦しい言い訳をするのではなく、「増税しなくても、財源はあるんです」と誤まったメッセージを送り続けたことについて、しっかりとケジメをつけるべきである。

何度もこのコラムで言及してきたが、「税と社会保障の一体改革は、どの政党が政権を担っても避けて通れない課題であり、国の財政情況を考えれば先送りできない。」との主張に異論はない。消費税を当面10%にupすることは、自由民主党が一昨年の参議院選挙で揚げた公約でもある。民主党の真摯な反省があれば、我が党も審議入りを拒否する理由はない。

ただ世論調査が示す国民の意見は非常に厳しい。総理は時間の経過とともに増税反対の声が高まっている事実を深刻に受け止める必要がある。
議員定数の削減などの身を切る努力が一向に進展しないことも理由だろうが、消費増税ができれば財源はわき出てくるような気分になって、ムダの排除どころか整備新幹線や高速道路など自民党政権が凍結した公共事業まで次々と復活していることも、厳しい評価を招いているのではないだろうか。

それにしても「嘘の片棒を担ぐつもりはない」との谷垣氏の発言に、野田総理が「郵政民営化したらバラ色の世の中になると言っておられたけど、ならなかったじゃないですか?」と反論したのは、聞くに堪えなかった。
政策の成果は思うように実現しないこともあるが、それは結果論であり「嘘」をついた訳ではない。それを曲解し「自民党も嘘をついたことがあるから、民主党にも嘘をつく権利がある」かのごとく口答えすることが政策の総責任者のあるべき姿だろうか?マニフェストは国民との約束だ。猛省を求めたい。

谷垣氏も「政治生命を賭ける」との意味を改めて問うなど、手続論に終止するのでなく、当面する政策課題について政府の姿勢を質し、我が党の主張を発信すべきだ。
政策議論が始まれば、困窮するのは党内不一致の民主党なのだから。(ただ、自民党が必ずしも一枚岩になっているとも言い切れないが…)

もう一つ、喫緊の課題である大飯原発の再稼動について何ら言及が無かったのも残念だ。これは福井県のみの問題ではなく、我が国のエネルギー政策を左右する重要課題であり、避けては通れない道だ。
未だに設置されていない原子力規制庁、遅すぎる安全基準の設定、早すぎる基準適合の判断、地元自治体に責任を丸投げするかのような手法等々、追求すべき問題点はいくらでもある。しっかりとした国政の判断を問い質すべきではなかったか…

党首討論の正式名称は、「国家基本政策委員会」。次の機会には、この名にふさわしい政策議論を展開してもらいたい。