新政権に望む

関西をゆっくりと横断していった台風12号は、各地に大きな傷跡を残した。播磨地域でも道路の冠水や家屋の浸水が相次ぎ、10万人規模の大規模な避難勧告も発令される事態となった。被災された方々には、心からお見舞い申しあげたい。

先週来の集中豪雨は記録的といえるもので(私自身、日曜未明のような降り方は経験がない)、紀伊半島では年間降水量の7割をわずか3日間で記録した地域もあるという。
今後、東海から北海道にかけての広域で大雨が予想されており、被災地の復旧復興のための補正予算措置は、発足したばかりの野田新政権の新たな課題となりそうだ。

さて、民主党代表選後、挙党体制の確立に腐心した野田首相は、まず親小沢の輿石氏を幹事長に配置し、かつての自民党を思わせるような派閥均衡型の閣僚人事を行った。結果、「適材適所」とは行かなかったようだが、少なくとも外見上はノーサイドの党内融和体制が整ったと見るべきだろう。

野田首相が掲げたもう一つの方針が与野党協力。その姿勢の表れが、組閣前という異例の時期(9月1日)に行われた、谷垣自民党総裁、山口公明党代表との会談だ。
首相は「震災の復旧・復興」「税制改正」「総合経済対策」の3つの実務者プロジェクトチームを提案するとともに、自民党が求めた協議の前堤である「民自公3党合意の順守」について「私が約束したわけだから信用してほしい」とも明言した。

ここまでの流れを見る限りでは、鳩山・菅内閣とは異なり「挙党一致」「与野党協力」に向けた現実路線が期待できそうに思える。少なくとも菅氏のような独善的な亡国行為はなさそうだ。
しかし一方で、外から見ているだけでも、民主党の舵取りはそんなに簡単ではないことがわかる。

ねじれているのは国会だけではない。民主党という政党そのものが、ねじれを内在しているのだ。
「3党合意の順守」とはマニフェストの見直しだが、民主党内ではマニフェストの見直しに反対する小沢・鳩山グループが多数を占めている。また、復興財源や社会保障財源についても、増税反対の意見が数多い。

そもそも、民主党には党の綱領、結党の理念がない。「政権交代」、すなわち自民党政権を倒すこと以外に共通の目標がなく(だからこそ社会主義者から旧自民党右派まで飲み込むことができる。)、今や目標を失った集団なのだ。
綱領を持たない政党を政党と呼べるかどうかはともかく、少なくとも野田首相には、マニフェストの総括を早急に行い、与野党協議の前提を整えてもらわなくてはならない。
さもなければ、またしても、国会の長期空転が始まってしまう。

先の総選挙から2年が経過したが、この間、野田首相で早や3人の総理大臣の誕生だ。
かつて首相は著書(※)で自民党の総理交代劇を批判され、「民意の裏付けのない政権が、国の舵取りをし続けるということでいいはずがない」と述べ、「総理、総裁が交代するときには総選挙を行うべき」という主張をされている。

ご説のとおりである。2009年民主党マニフェストの破綻も加味すれば、まさに今、政権の正統性について、国民に信を問うべき時期にある。
喫緊の課題である第3次補正予算が成立し、東日本大震災の本格復興対策に道筋がつけば、もはや総選挙の足かせはない。

この2年間に拡大した政治不信を回復するためにも、まずは野田首相のリーダーシップのもと、TPPなどの経済成長戦略、社会保障の給付抑制策、国防と安全保障政策、国家財政と国民負担のあり方等々について、早急に民主党内の意見を統一されることを願う。
そして、首相が嫌いな“ポピュリズム”を廃した真のマニフェストが再構築されたら、総選挙で我が自民党の政策と雌雄を決しようではないか。
日本は、「政権交代が可能な国」なのだから。

※民主の敵 ~政権交代に大義あり~(新潮新書)