“豊かさ”ランキング

急速な経済成長を続けている中国のGDP(国内総生産)が、日本を追い越して世界第2位となった。

そもそも中国の人口は日本の10倍以上なのだから、多少とも生産性が上がれば生産量が我が国を上回るのは当然だ。元相場を切り上げれば、米国を抜き、世界一になる日も遠くないだろう。

しかし、GDPは国家の経済規模を表わす数字ではあるが、それだけで「豊かさ」が決まるものではない。

むしろ私が気になっているのは、国連開発計画(UNDP)が発表した2010年版「人間開発報告書」の国民生活の豊かさを示す人間開発指数(HDI)のランキングだ。

HDIは、所得に教育水準と平均寿命を加味した「生活の質」を評価する指数で、バブル経済の頃(1990年代初頭)は首位争いをしていた日本は徐々に順位を下げ、今年は11位になった。

もっともこれらの指標はあくまで外形的・客観的な数値指標であり、国民一人ひとりの主観である「幸福度」を押し計ることはできない。

国民の自国に対する満足度が世界で最も高いのはメキシコだそうだ。

見た目には決して豊かとは思えないし、犯罪も多く所得格差の大きいメキシコで、国民の満足度が高いのは何故か?

一つの理由は国民の「現実肯定的な思考」とのことだ。

2年前、バングラデシュでは、「この国の国民はアジアで最も自国への満足度が高いのです」と現地の大使から説明を受けた。

日本の約4割の国土に1億5千万を超える人口を抱え、国民所得が日本の1/80というバングラデシュの国民満足度がなぜ高いのか? 

大使によると「平和である」「家族の絆が強い」「コミュニティの絆が強い」「現実肯定的な宗教感も関係しているかもしれない」といったことが満足の理由ということだった。

半面、アジアで国民不満度の高い国は、1位が日本で2位が韓国という。

我々が目指してきた豊かさとは何だったのか?と、軽いショックを覚えた。

幸福度と言えば、1972年にブータンの国王提唱したGNH(Gross National Happiness、国民全体の幸福度)が知られている。

GDPとかGNPといった富の量、金銭的・物質的豊かさを目指すのではなく、精神的な豊かさ、つまり幸福を目指すべきだとする考えから生まれたものだ。ただ、人口70万人弱の国家故に調査可能な統計かもしれない。

とこらで最近私が気がかりな指標が2つある。

一つはスイスの国際調査機関IMDによる国際競争力ランキング、もう一つはOECDによる生徒の学習到達度調査ランキングである。

日本はIMD国際競争力ランキングで1989~91年にはトップの座を占めていたが、97年以降順位が大きく下落し、凋落の一途をたどっている。最新の調査ではアジア新興国にも追い抜かれ58か国中27位と低迷している。

一方、中高生を対象としたOECDの学力到達度調査では、2000年は数学1位、科学2位であったが、2006年の調査では10位(数学)、5位(科学)と、こちらも低下傾向が止まらない。

これまで何度も言及してきたが、私は日本の目指すべき国家像として「科学技術創造立国」を提唱している。それだけに、上記の2つのランキングは大いに気になるところである。

以上の指標と国際ランクから明らかになる政策課題は以下のとおり。

①    成長戦略の中心に教育・科学技術(未来への投資)政策を据えること。

②    GNHを高めるためには安定した社会保障制度を確立すること。

③    経済至上主義で壊れた地域や家庭の絆を再構築すること。

HDIランキング(知的・経済レベル)で№1を目指すことも悪くはないが、GNHランキング(一人ひとりの幸せ度)でメダルが取れる日本の国づくりを目指したい。