学術会議

菅義偉政権誕生から一カ月。歴代内閣と比較しても高水準の支持率でスタートを切った菅内閣であったが、今月の調査では軒並み10%前後下落した。

与党内では、「内閣発足後のご祝儀期間が終わっただけ。織り込み済み」との意見もあるが、日本学術会議の任命除外問題の影響を指摘する声も多い。世論調査でも、首相の説明が「十分でない、納得できない」とする回答が5割前後から6割以上となっており、学術会議問題が支持率に影響していることは間違いないようだ。

 

任命拒否の理由は政府の方針への賛否との指摘があるが、今回新たに任命された99人の中には、安保法制やいわゆるテロ等準備罪処罰法に反対している学者も数多くいる。だとしたら、一部のマスメディアが喧伝している、政府の方針に反対しているから除外されたとの論評には無理があるだろう。

 

菅総理は16日、首相官邸で学術会議の梶田隆章会長と会談。梶田氏は6人の速やかな任命と除外理由の説明を求める要望書を手渡したが、任命拒否について総理からは具体的な説明がなかったと報じられている。総理は会談後、記者団に会議の在り方について「コミュニケーションを取りながらお互いに進めていくことで合意した」と語った。

ただ、これまでのままの説明では、政府は意図的に説明を避けているとの印象は免れない。官邸は「人事で官僚をコントロールする」というイメージと重なり、学問の自由を侵していると受け止められても仕方がない。個々の人事については具体的に答えられる範囲には限界があるとは思うが、できる限り丁寧に説明責任を果たす必要がある。

 

一方、この様な状況下で自民党政務調査会の内閣部会に、“政策決定におけるアカデミアの役割に関する検討プロジェクトチーム”が設置された。このPTの目的は、任命問題を切り離して「学術会議の在り方」についての検討を行うことである。年内をメドに議論を進め方針を策定するとしている。

 

21日の会合には、学術会議から会長経験者の吉川弘之、黒川清、大西隆氏に出席していただき意見交換を行った。出席議員からの指摘は、「学術会議は提言機能を果たしていない」。あるいは「中国に渡った研究者の技術が軍事転用される可能性が否定できない中、わが国の安全保障目的のための科学研究は行うべきではないとの声明を出しているのはおかしい」などというもの。3氏からは、過去の実績を示す資料が提出され反論があった。

 

学術会議は約87万人の学者の代表210人と連携会員2000人で構成されているが、会員は内部の推薦で選ばれるなど、組織形態が硬直化している。さらに「国の機関で身分は特別公務員。費用は国が全額負担で、それでいて独立性が保たれているのか」などの指摘もなされた。

かつて、平成15年には学術会議自身が「欧米主要国の多くのアカデミーのように、寄付等による独自の財政基盤を確保し、法人としての独立性を高めるべき」という方向性を検討課題として提案している。これについては、その後平成27年の有識者会議で「組織形態を変える積極的な理由は見出しにくい」と結論付けられているが、再考の余地はある。

 

会合後、出席した元会長の一人が「学術会議の在り方について政治が主導する形で議論が進められていることに疑問を呈した」と報道されていたが、果たしてそうだろうか?

学術会議問題は目下の国民の重要関心事であり、しかも10億円あまりの国費が投入されている。政治は「学術会議の在り方」について議論する責任があると私は考えている。

 

地球温暖化の進行や増大する感染症リスクなど、人類が直面する課題は数多い。これらの解決に向けて、科学の果たす役割は非常に大きい。また、国家を越えた協力も不可欠であり、科学者にもグローバルな交流を通じて国際舞台で活躍する素養が求められる。

日本学術会議が我が国を代表する科学者のコミュニティとして、科学の進歩のための俯瞰的提言と政策立案のための答申をおこなう機関として行動するためには、どのような在り方が求められるのか…。

 

今後、過去の経緯を検証するとともに、未来志向の議論を進めて行きたいと思う。その際、学術会議の独立性や学問の自由に疑義が生じてはならないことは、論を俟たない。