視界不良

平成29年も松の内が明け、家々の玄関先の門松やしめ縄もすっかり姿を消した。この“松の内”と呼ばれる期間、前年の1213日から始まるらしい。私もこの歳になって初めて知ったのだが、先人たちは新年を迎える半月も前から正月飾りで装いを整え、年明けを待っていたようだ。

今年の初春の日本列島、“松の内”の間は、概ねうららかなお天気に恵まれた。

しかし、“松の内”が明け、世の中が本格的に活動を始めたとたんに、列島は大寒波に包まれ、世界は波乱の年の幕開けを迎えたようだ。

17日には、英国のメイ首相が「EU離脱」を正式に表明した。昨年6月の国民投票の時点で分かっていたことではあるが、離脱演説は改めて世界に衝撃を与えた。「移民制限の権限を取り戻す」という限定的な目的のために、英国は、人、モノ、サービス、資本移動の自由を原則とする「EU単一市場」を放棄することになる。

EUとの間で2年間の交渉期間があり、その後も一定の経過措置が設けられるとは思うが、その間に我が国の企業も営業拠点や工場の移転等の欧州戦略を練り直さなくてはならない。政府としても、EUとのEPA交渉とは別に英国向けの経済連携交渉もスタートする必要がある。さらには、このようなナショナリズム優先が他の諸国に波及すれば、EU崩壊といった事態も想起される。今年の欧州諸国の動向は予断を許さない。

20日(日本時間21日未明)には、米国のトランプ新大統領の就任宣誓式が執り行われた。数十万人の観衆を前にした就任演説で、今後の政策は米国を最優先する「米国第一」を改めて宣言し、「米国を再び安全にする。米国を再び偉大にする」と締めくくった。

ホワイトハウスのホームページには、即日、TPPからの離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉等の新政権の基本政策が掲げられた。残念ながら、その内容は大統領選協中の無謀ともいえる主張そのものである。米国が一部の国民の利益を優先するあまり、短絡的に保護主義に走れば、結果として多くの国民の利益を奪うことになるのではないだろうか。そして、世界経済にとって、米国という大市場の前に壁が生じることは重い足かせとなるに違いない。 

トランプ大統領は就任直前に、英国のEU離脱を「賢い選択」と評価したり、シリア等の難民を積極的に受け入れているメルケル独首相の政策を「破滅的な間違い」と扱き下ろすなど、ナショナリズムを他国にも勧めるがごとき発言を繰り返してきた。

今後もこのような発言が続くようであれば、G7における米国のリーダーシップは凋落するだろう。少なくとも国際政治における我が国の役割が重要度を増すことは間違いない。海外との交流の中で成長してきた日本だからこそ、世界の繁栄を導く自由貿易を堅持しなければならない、新しい多国間の経済連携システムの構築を主導しなければならない。 

このような世界情勢の中、20日には第193通常国会が召集された。審議すべき課題は、補正予算と当初予算の早期成立、働き方改革による生産性の向上、介護保険など社会保障制度改革、テロ等の組織犯罪対策強化等々多岐にわたる。今年は、天皇陛下の退位をめぐる法整備や施行70年の節目を迎える憲法の議論も進めなければならない。政府にとっては、これらの内政課題に加え、外交と通商政策のかじ取りが例年以上に重要となる一年となりそうだ。 

いずれにしても今年は、ベルリンの壁崩壊以来の世界的な「変革の年」となりかねない。

昨年の一文字世相は「金」であったが、今年は早くも「乱」だとか「変」だとか揶揄されている。私は、このような国際的信頼関係が重視される年だからこそ、国民から政治への信頼が必要な年だからこそ、「信」と言える一年にしたいと思っている。