CDB解体?

STAP細胞論文の不正問題を受けて、早急な改革が求められている理化学研究所は、8月27日、研究不正の再発防止を目指す「行動計画」を下村文部科学大臣に提出した。

外部有識者からなる改革委員会による6月の提言では、論文不正の舞台となった神戸の発生・再生科学総合研究センター(CDB)の「早急な解体」も提言されていた。
これに対して今回の計画では、CDBを大々的に再編し、現在の40研究室体制を半分に縮小、名称も「多細胞システム形成研究センター(仮称)」に変更した新組織を11月に発足させるとしている。新しいセンター長は、外国人研究者を含む委員会を設置し、3月までに選考する予定だ。

この件についてメディアから取材を受けることも多い。その際必ず「今回の改革案で“解体”と言えるのか?」との質問を受ける。

改革委員会の“解体”の意味は、「発生・再生科学の研究の廃止」ではなく、不正の温床となった研究体制の抜本的な見直しである。なおかつ、その見直しが必要なのは、神戸にある一つの研究所のみではなく、理研全体だ。(CDBの研究室を半減するといっても、個々の研究者に罪があるわけではない。)行動計画によると、理研のトップマネジメント組織として、外部委員も参加する「経営戦略会議」を新設し、不正防止の「研究コンプライアンス本部」も設ける。改革の進捗をチェックする「モニタリング委員会」も設置する。

私は、今回の計画の実行により、固定化されて運営体制を廃し、目的志向の研究に重点化することで、研究体制の「“解体”的な出直し」を成し遂げられると考えている。
現に改革委員会の岸委員長も、今回の計画について「中身には満足している。優良可でいえば“優”を与えてもよい」と評価されている。

とは言っても、計画にちりばめられた“言葉”が改革を実行してくれるわけではない。改革が実を結ぶかどうかは、案を具体化する“実行力”の問題だ。
理研の野依理事長は、29日の党科学技術・イノベーション戦略調査会に出席され「改革の陣頭指揮を執る責任がある」と明言され、「社会と共にある理研に改革したい」と宣言された。私は理事長の言葉を支持したい。今後、野依先生とともに理化学研究所の再生を進める新しい理事、外部有識者の人選を急ぐよう、理研、文科省に働きかけたい。

今回の一連の騒動で私が危惧しているのは、理研の特色とされてきた「自由闊達な研究風土」、「思い切った若手研究者登用」といった組織文化が失われることだ。不正はあってはならないことだし、研究倫理の確立が重要であることは言うまでもない。しかしそれとともに、研究者の独創性を伸ばす環境、失敗を恐れないチャレンジ精神を育む土壌も必要だ。

世界最高水準の研究開発を実施するには、世界最高水準の人材の集積が不可欠であり、そのためには報酬も含めて最高水準の研究環境を整備しなければならない。政府が創設しようとしている「特定研究開発法人制度」は、そのような体制強化を促進するシステムだ。

理研が一日も早く新しい組織体制を軌道に乗せ、「特定研究開発法人」に相応しい機関として再生することを期待する。そして神戸の「多細胞システム形成研究センター」をはじめとする研究所群が、世界の科学技術の革新を先導していくことを願いたい。