社会保障制度改革推進法

先週26日、「社会保障と税の一体改革関連8法案」が衆議院を通過した。
本会議の採決では「与党民主党から何人の造反者が出るか?」が注目されるという異様な展開となったが、結果的に自公民の合意案に国民新党とたちあがれ日本も賛成に加わり圧倒的多数で可決された。
社会保障改革推進法案には378票、税制改革法案には363票の賛成票が投じられたということは、衆議院議員の4人に3人(75%)が賛成していることになる。この結果の持つ意義=与野党の枠を超えて大多数の議員が社会保障制度の改革と消費税増税に賛意を示したという意義は非常に大きい。

先日も触れたが、社会保障制度は持続可能で安定した制度運営が求められる。特に年金は数十年の長期にわたる運営で、ようやく効果が発揮されるものだ。数年単位の選挙の度に制度が揺らぐようでは国民に迷惑がかかる。と言うよりも制度が存立し得なくなってしまう。故に、党派の垣根を越えて長期的視野で意見を集約し、その結果に対して責任を共有しなくてはならない。決して短期的な「政争の具」にしてはならないのだ。

永年に亘り超党派の議論を主張してきた私としては、今回の結果を歓迎したい。1年以内に制度改革案を得るために設置される「社会保障制度改革国民会議」では、その名のとおり全国民の参画による議論を期待したい。

この国民会議の設置を定める「社会保障制度改革推進法案」は、第二条で制度改革への「基本的な考え方」が示されている。小沢氏の動乱劇の影響か、消費税の増税法案ばかりが注目されているが、実はこの基本方針の方が重要だ。

― 自助・共助・公助の適切なバランスに留意し、自立を家族の助け合いなどを通じて支援していく
二 税金や社会保険料を納付する者の立場に立って、負担の増大を抑制しつつ、持続可能な制度を実現する
三 公的年金制度、医療保険制度、介護保険制度については、「社会保険制度を基本」とすることを明確にする
四 国民が広く受益する社会保障の費用をあらゆる世代が広く公平に分かち合う観点などから、社会保障給付に要する公費負担の費用は消費税を主要な財源とする。

第一項が示す方向性は、自助の重視、家族の再生だ。
かつて日本の社会は、子育ても介護も大家族の中で賄ってきた。家計も三世代が同居する「家」を単位としてきた。故に年金も含めた福祉に対する公費負担が比較的小さくて済んでいたのだ。少子高齢社会の進展に伴い、公助=税による福祉給付が急速に拡大するなか、今一度、家族の責任と役割を見直していかなくてはならない。

第三項では、公的年金制度等は社会保険制度を基本とすることを宣言している。
掛け金無しで、全額を税金に依存する最低保障年金という制度は、事実上あり得ないということだ。老後の生活保障は何らかの福祉的施策で考えるということだ。
これらの方針は、もちろん法案提案者である自民党が従来から主張している政策理念である。新制度の内容、制度改革の方向は、自ずと福田内閣・麻生内閣当時の「社会保障国民会議報告書」(平成20年11月)に近づいていくのだろう。

社会保障制度改革のみではない、行政を混乱させた「政治主導」はともかく、「子ども手当て」も、「高速料金無料化」も、「コンクリートから人へ」も、「公務員制度改革」も…、ほとんどの政権公約が自公政権時の政策に戻りつつある。
民主党の中には、未だにマニフェスト墨守を唱える方々もいらっしゃるようだが、そんなことよりも、この3年間の政策停滞の原因が破綻したマニフェストの正当化にあると反省して欲しいものだ。