エネルギー政策

自民党内の「総合エネルギー政策特命委員会」の本格意的な議論がスタートした。
「福島原発の事故を受けての今後のエネルギー政策について8月中に取りまとめる」と報道されているが、その関連で今私が注目している一つのプロジェクトについて言及したい。

今から10年前だと記憶しているが、文部科学省のスタッフの一人が私の事務所に、「官民連携開発プロジェクトの推進を政治の側から応援してほしい」と言って、やって来た。
その中身は、新素材(超耐熱材)を使った1700℃級発電用ガスタービンだ。

従来の発電用のLNGガスタービンの燃焼温度は1500℃まで。羽(タービンブレード)に使う超耐熱材の開発(独立行政法人 物質・材料研究機構で開発)に成功すれば、これを1700℃まで高めることができるという。
たった200℃と思われるかもしれないが、この燃焼温度の上昇はエネルギー効率(発電端熱効率)を改善し、燃料コストとCO2排出量の大幅な削減につながる。

直感的に悪い話ではないと思ったのだが、良く聞いてみると私の地元の三菱重工業高砂製作所が開発パートナーだという。

それを聞いて私の腰が引けた。
「先生の地元でもありますから」と言われたことにいささか抵抗があったのと、選挙で労組に苦しめられている(私の思い込みかも知れないが…)との不純な思いがあった。
余談ではあるが、ロケットの開発をめぐり「渡海は三菱の廻し者」と覚えのない陰口も流されたこともある。(政治の世界ではありがちだが…)

一度は断ったのだが、「これは国益の賭かった勝負なのです。米国との開発競争に勝たなければ、この分野での日本の未来はありません」と食い下がられた。
私は「国益」と言う言葉に弱い。環境保護に貢献できるという点にも心をくすぐられた。
結局、私はこのプロジェクトの予算獲得に積極的に肩入れすることになった。

以来、一貫してこの新タービンの開発動向を見守ってきたが、要素技術開発(2004~07)、実用化技術開発(2008~11)と順調に進行し、既に1600℃級に導入する実機の試運転に成功している。
2013年にはこのタービンを組み込んだ高効率コンバインドサイクル発電設備(※)が関西電力姫路第二発電所で運用開始するほか、東京電力川崎発電所(2016年度)、五井発電所(2020年度以降)でも採用計画が進んでいる。

ちなみに前述の姫路第二発電所では、設備更新によって発電効率が42%→60%へと向上し、発電電力量あたりの燃料費とCO2排出量を共に約30%低減することが可能になる。

現在は次のステップである1700℃級の実証機関発設計が行なわれているが、2015年には実証運転が計画され、更なる効率化が実現するものと期待している。

福島第一原発の事故を受けて、エネルギー政策の見直しは緊急かつ必須の課題であることは言うまでもない。そして、確かに菅総理が唱える再生可能エネルギーの研究開発・利用促進は大切だろう。
だが、政策は単線的に考えると取り返しが付かない失策を招く。エネルギー政策のあり方については、経済、国民生活、環境問題など、あらゆる視点を考慮しながら総合的な判断をする必要がある。

そもそも、再生可能エネルギーをどんなに急いでも数年で全電力をまかなうことは不可能だし、莫大な費用(電気料金の上昇)もかかる。
当面のエネルギー需要を確保する上で、比較的環境負担の少ないLNGコンバインドサイクルによる発電システムの導入と、それを支える1700℃級ガスタービンの開発は、時代の要請に応えた時宜を得たものだ。

一日も早い実現に向け、関係者のより一層の努力を期待している。

※コンバインドサイクル発電方式:ガスタービンの廃熱を回収し、蒸気タービンを回す方式。二重に発電機を回すため熱効率が高い。